その152 交通事故 4番目
「ん……」
夕夏が目を覚ました時に、最初にみえたのは、白い天井だった。
続いて、頭にはふかふかの枕の感触。
腕に繋げられた、点滴。
それらを見て、夕夏は納得する。
「(ああ……私、入院してるんだ)」
そう心の中で呟いた。
まさにその時だった。
「目が覚めた?」
「……え?」
ふと、自分にかける声を聞いた。
その声の主を確かめるために首を動かすと、そこには健太がいた。
健太だけじゃない。
「ほっ……目が覚めてよかったぜ、ほんと」
「まぁ、不幸中の幸い、ってところだったらしいけどな」
吉行に大貴、かなえに美奈にミサ、大地に由美。
コンサートに行ったメンバーは全員ここに来ていた。
それだけじゃない。
夕夏のことを聞き、途中から駆けつけて来たマコに、咲の姿まであった。
「咲まで……?」
「当たり前じゃない!友達が交通事故に遭ったって聞いて、黙っていられないもの!」
「……そういうことよ」
咲の言葉を受けて、美奈がそう言った。
健太は、空の花瓶の中に花を入れながら、
「それにしても、本当に良かったね」
「何が?」
「だって、全治一週間で済んだんだよ?普通なら一か月とか入院してそうな事故だったのに」
かなえが言った通り。
先ほど健太達は、医者にそう言われたのだった。
しかし、全治一週間で済んだというのは、まさしく奇跡以外の何物でもないだろう。
「……そう」
夕夏は、ただ一言そう呟いた。
「私なんかの為に、みんなで来てくれるなんて……」
「本当はもう少しいたんだけど、ちょっとした事情がある奴らもいて、結局全員は来れなかったんだけどな」
「いいえ。今の私にはちょうどよい、いや、もったいないくらいですわ……前の私だと、周りには誰一人いなかったから……咲がいたのに、私はそれを拒絶してしまいましたから」
ほぼ独り言を話すかのように、夕夏は言う。
「夕夏……」
その言葉を聞いた咲は、なんだか申し訳ないような気分に陥っていた。
「ボクのコンサートを見に来てくれたのに……こんなことになるなんて」
「いえ。あなたのせいではなくってよ。私の不注意から来たものですもの」
「けど、目撃者の話によると、事故当時の信号は歩行者側が青だったんだよな?」
大地は、ここに来る前に聞いていたことを、夕夏に確かめる。
「ええ」
夕夏は頷いた。
そして、かなえが繋げる。
「それじゃあもしかして……ひき逃げ?」
「いや、ひき逃げではないよ。あの時トラックは最後まで止まってたから」
「と言うことは……トラックの運転手は疲労か何かでかなり眠かったのでしょうね。そんな意識が薄れているような状態で車を運転したものだから……」
「単純に言ってしまえば、居眠り運転ってことだな」
大貴は、美奈が述べたかったことを簡潔に述べた。
「まっ、トラックの運転手は謝礼金を払うみたいだから……」
「と言っても、私には必要ないのですが」
「まあ……お金には困ってないだろうね、多分」
咲は、夕夏の経済状況を思い浮かべながら言った。
「むしろ佐伯自身の貯金使ってもお釣が来るか?」
「そうね」
「……マジで?」
冗談で言ったつもりの吉行だったが、まさか本当に頷かれるとは思わなかったので、気の抜けたような声をあげてしまった。
「ま、およそ想像通り、と言ったところだね」
健太はそう呟いた。
「少しでもいいから、お前の金、俺に分けてくれよ……」
「あら、別にいいですわよ?」
「マジで!?」
吉行の目が輝く。
だが、それと同等くらいに、夕夏の目が輝いていた。
いや、何かを企んでいるような表情をしていた。
「佐伯さん……何か企んでるでしょ?」
「さぁ?何のことかしら?」
かなえの質問に対して、夕夏ははぐらかすような言動をとる。
そんな時間が流れていたとある病室を、とある一つの音によって打ち止めた人物がいたのだった。
その人物は……。
次回より、番外編に入ります。
……本当は本編に入れてしまってもいいのですが、何となくです(おい)。