その151 交通事故 3番目
病院内に響く、慌ただしい足音。
(バタバタ!)
その影は、十近くはあった。
その表情に、落ち着きの文字はない。
「何だっていきなり!!」
「僕らと別れてそんなに時間が経ってないはずなのに!!」
荒立つ声。
冷静さにかけていた。
そう。
彼らは先ほどまで『少女』とともにいた、健太達であった。
「くそっ!」
後悔するような声が聞こえる。
だが、それはもう遅い。
事が起こってしまって、初めて後悔出来るものだが、後悔したからと言って、過去まで時間を
さかのぼってやりなおすことなど出来ないのだ。
「ここだ……」
かなえがそう呟く先には、『手術中』のランプが点灯している部屋があった。
「ここにあいつが……」
「ねぇ、本当にあの子なの?」
「ああ……本当だ」
駆けつけて来た咲に、大貴は言った。
「そんな……怪我が軽ければいいけど……」
「それは無理な相談だろうな……なんて言ったって、トラックにはねられてるんだから」
トラックにはねられた。
そのフレーズを聞いただけで、誰のことを指しているのかは、もうおわかりだろう。
「夕夏……無事でいて」
そう。
先ほどトラックにはねられた、夕夏のことを指していたのだ。
彼らは先ほどまで、MAKOのコンサートに行っていて、しかし途中で別れた。
健太達は昼食をとる為に近くのファーストフード店に入っていて、夕夏は会食会があると言って途中で抜けたのだ。
「今はそんなこと言ったって仕方ないよ。とりあえず今僕達に出来ることは」
「夕夏の無事を祈ること……ね」
健太の言葉を引き継ぐように、ミサが言った。
「……ああ、そうだな」
大地は、神妙な顔つきでそう呟いた。
「佐伯は俺達の仲間なんだぞ……もしこれで死にましたなんてことになったら、なんとしてもトラックの運転手探しだして、頭かち割ってやる……!!」
吉行は、怒りを体で表現しながら、そう言った。
「だ、駄目だよ……そんなことで、夕夏さんは喜ぶと思う?」
そんな吉行に、由美はそう言った。
更に美奈が言う。
「そうね……あなたがそう思うように、夕夏も私達を仲間と思ってる……表には出していないけど」
「そんな仲間が、もし犯罪なんかしちゃったら、まして自分が原因になっていたとしたら……悲しむと思うよ」
健太はそう吉行に言うと、吉行は、
「……悪い。こんなことは言うべきじゃなかったな」
反省したかのように、謝った。
その時だった。
(パッ)
手術中のランプが消え、中から何者かが出てきた。
その人物の正体は、手術用の服を着た、医者であった。
「せ、先生!」
椅子に座っていたかなえが立ち上がり、医者のことを呼ぶ。
「夕夏は……無事なんですか?」
咲が、この場にいる全員が聞きたいであろうことを医者に尋ねる。
すると、医者は笑顔で、
「大丈夫だよ……命に別状はない。手術も成功したし、怪我も少なかったからね」
医者がそう言うと、一同はホッと胸を撫で下ろした。
「しかし、これを言っていいのか分からないけど……実に不幸中の幸いだったと思うな。当たり所が良かったのか、後遺症が残るような怪我もしなかったし」
医者は、驚いたようにそう言った。
「それに、トラックが来たのが分かったのか、咄嗟に避けたみたいなんだ。落下する際も頭を庇ったのか、頭部に損傷はなかったしね」
「そうだったんですね……」
健太は小さく呟いた。
「起きたら言っておいてくれるかね?……君は本当に運の良かった人間だね、と」
それだけを言うと、医者はその場を去って行った。