その150 交通事故 2番目
やべぇ……急展開過ぎるぜ。
「さて、そろそろ駅に向かいましょうか?」
美奈がそう提案すると、一同は賛成の意を見せた。
だがしかし。
「その前に昼飯かなんか軽く食べといた方がいいんじゃねぇか?」
大地がそう提案する。
「けど、あんたは昼飯食べられないわよ?」
ミサが鋭いところをつく。
それは承知しているのか、大地は苦い顔をして言った。
「俺はもともと昼飯食べるつもりはねぇよ。ただ、他の奴らはそうはいかないだろ?……
まぁ、由美は違うけど」
「みんながお腹減った状態で家に帰ると、帰宅途中で倒れる人も出るかもしれませんしね」
「吉行みたいにね」
健太は、吉行の方を見ながら呟く。
見ると、先ほどまでの覇気はどこへ行ったのか。
ヘタするとすぐにでも倒れてしまいそうな吉行がそこにいた。
「ありゃあ……重症だな」
大貴は呟く。
そんな健太達に、吉行は言った。
「さ、さっきあんなにはしゃがなければはよかったぜ……もう腹が、限界、だぜ……」
吉行にしては珍しく、体をふらつかせていた。
そんな様子を見て、
「哀れだ……」
大貴はそう呟いた。
「それじゃあ、どこかでお昼でも食べましょっか」
ミサがそう言った所で、
「私はお断りしてもよろしいかしら?」
夕夏はそう言って、昼ごはんを一緒に食べることを断ろうとした。
「何故に?」
そこをやはり健太が尋ねた。
「時間がありませんの……このあと会わなければならない人がいらっしゃって」
「そうなんだ……でも、昼ごはんはどうするの?」
「それを込めての会食会ですから……すみませんわ」
どうやら夕夏には用事があるらしい。
それで、一緒には行けないのだという。
「そっか。それじゃあ仕方ないよね」
「だな」
健太が納得するのにつれて、他の人も納得の色を見せる。
「それじゃあ夕夏さん、また明日学校でね」
「ええ。また明日」
それだけを言うと、健太達は夕夏と別れた。
「……また明日、か」
夕夏は、健太達が去って行った方へと眼を向ける。
そこには健太達の姿はもうなくて、人が歩く姿が見えるのみだった。
「……電話、電話」
(スッ)
夕夏は、ポケットから携帯電話を取り出すと、とある所に電話した。
「……もしもし、住持?」
『はい、どうかなさいましたでしょうか?お嬢様」
電話の相手は、夕夏の家の執事を務める、住持という人物だった。
妙齢の男性らしく、声が渋い。
「今から言う所に車をまわして欲しいの。ちょっと間に合いそうになくて」
『かしこまりました。至急、豪に伝えておきましょう』
「助かるわ。それじゃあよろしく」
(ピッ)
夕夏は、そこで電話を切った。
「はぁ……あまり行きたいとは思わないわね」
健太達と別れる際、夕夏は『会食会がある』と言ったが、それは嘘であった。
本来の目的は、
「……お見合い、か」
そう。
お見合いであった。
しかも、夕夏の会社と関係のある所の御曹司。
結婚までに至らないとは思うのだが、夕夏にはある悩みがあった。
「……あの人、嫌いなのよね」
夕夏個人が、その会社の御曹司のことが嫌いなのであった。
「……いっそのこと、ついて行っちゃえばよかったかしら」
とはいえ、肝心の健太達はもういない。
なので、否が応でも行くしかなかった。
「……はぁ、仕方ない。ちょっと移動しましょうか。私の家からだと、ここまで来るのに結構
時間がかかりますし」
と、夕夏は信号が青の車道を歩こうとしたまさにその時だった。
「お、お嬢ちゃん!危ない!!」
「……え?」
夕夏は、何者かにそう言われて、慌てて車道を見る。
すると、信号が赤なのに、トラックが目前まで近づいてきているではないか!!
「……え?」
もう一度そう呟いた所で、夕夏の体に衝撃が走る。
(ドンッ!)
「……っつ!!」
突如として襲われる、体全体の痛み。
そう。
夕夏は、トラックにはねられたのだ。
「な、何だ!?」
「トラックだ!トラックが女の子をはねた!!」
「救急車、救急車に連絡だ!!」
「な、なん……なの?」
それだけを呟くと、夕夏は意識を手放した。