番外編その9 幽霊騒動 5番目
「結局のところ、幽霊か人間かなんて関係ないんだよ。生きているなら、両者の間に友人関係
が生まれないことなんてない」
「……どういう意味?」
由美は健太に尋ねる。
健太は、笑顔で答えた。
「僕達は、君達と友達になる意志があるってこと」
「!!」
由美の目が見開く。
同様に、大地の目も開ききっていた。
「さすがに君達の境遇をどうにかできるわけじゃないから……」
「私達に出来るのは、あなた達と友達になることだけ。だからせめて、友達にはならせて」
かなえも続く。
「……驚いた。幽霊と友達になろうなんて人間がいるなんて」
「だから言ってるでしょ。幽霊か人間かなんて、関係ないって」
大地は驚いたようにそう呟くと、健太は言葉を訂正する。
「少なくとも、これで話し相手は増えたと思うけど……」
「ああ。結構これで十分だったりするな……けど残念ながら俺達は霊体で、互いに触れあう
ことすら実は不可能だったりする」
「?どういうこと?」
大地の言葉の意味が分からす、健太は尋ねる。
大地は答えた。
「つまり俺達は、自分以外の誰かに触れることが出来ない……健太とかなえに触れることも、由美に触れることも……」
「……そんな」
がっかりしたような声が漏れる。
そんな健太達に、大地はある頼みをした。
「そこで頼みたいことがある」
「何?」
「嫌なら別にいいんだけどよ……俺達に、その体を貸してくれないか?」
「「え?」」
健太とかなえは、この言葉に驚きを見せる。
体を貸せと言ったことに驚いているわけではなく、どちらかと言うと、そんなことが出来るのかと言う疑問に近かった。
「俺達は霊体だ。不可能ではない」
「うん……幽霊に不可能はないの」
「由美さん……それは微妙に意味合いが違うと思うよ」
健太は呆れた感じで答えた。
「それで?僕達の体を借りて、何をするの?」
健太は大地に尋ねる。
大地は、少し顔を赤くして、言った。
「……キスさせてくれないか?」
「「……え??」」
二人分の驚きの声があがる。
「ちょ……ちょっと待ってくれない?何でそんな話しに?」
健太は動揺を隠せない。
何故なら、体を借りた状態の大地と由美がキスすることはつまり……健太とかなえがキスするのと同じことを意味するからだ。
「頼む!強制するとは言わない!体を貸してくれ!!」
「……私からも、お願いしてもいいかな?」
「由美さんまで……」
こうなってしまったからには、もう逃げ場はない。
健太とかなえは覚悟を決めて、やがてこう答えた。
「「いいよ」」
答えは、イエスだった。
「ほ、本当か!?」
「い、いいの?」
大地と由美は、驚いたような声をあげる。
「僕達は友達じゃないか。友達の頼み事なら、よほどのものじゃない限り、何でも聞くつもりだよ」
「……優しいんだね、健太君は」
「そ、そうかな?ありがと」
由美にそう言われて、健太は素直にお礼を言う。
「それじゃあ……行くぞ」
大地は健太達にそう言う。
健太とかなえは、受け入れる準備をした。
……心の準備が済んだのを確認すると、大地と由美は、それぞれ健太とかなえの体の中に入りこんだ。
「……いいか?由美」
「……うん」
かなえの体の中に入った由美が頷く。
やがて、健太の体の中に入った大地の顔が近づき。
二つの影は一つになった。
それは、実質的な、健太とかなえのファーストキス。
この日、新たなる友人が出来たのと同時に、ファーストキスまで果たしたのだった……。
「ところでよ、中川」
「何?」
「あの天井から生えてる足は立体映像なのか?それとも……」
「あら?あれは確か、旧校舎のもう一つの伝説に出てくるお化けね」
「ギ……ギャアアアアアアアアア!!!!!!」
騒がしいまま、今回の文化祭の幕は降りた。
次回より本編に……その前に、登場人物紹介をします。