その143 再会 5番目
ついにシリアスな空気も、クライマックスです。
「……ちょっと、二人ともこっちに来てくれるかしら?」
「え?何で……」
「いいから」
かなえの言葉に、どうにも理解できていない早織だったが、その迫力に負け、結局かなえ達と
同じ席につくこととなった、早織。
ミサは、かなえがなぜこんなことを言ったのか理解することが出来たので、黙って席に座った。
「……お飲み物は何に致しましょう?」
とりあえず健太は、自分の仕事ということもあり、飲み物を尋ねる。
「……コーヒー二つ」
「畏まりました。しばらくお待ちください」
そう言うと、健太は邪魔にならないように、その場を去って行った。
実は健太自身、何が起きているのかすべてを理解出来ていたわけではないのだが、どうやら
かなえ達と一緒に来た少女が、以前に夕夏から聞いた過去話に登場した少女で間違いないと
推測してた。
なので、自分は口をはさまないように、様子を見てからコーヒーを出しに行く予定でいるのだ。
「「……」」
互いに、いや、その周りだけ静かな時間が流れる。
時折聞こえる別の席からの話し声すらも、煩わしく感じる程だった。
「「……」」
お互い、向かい合って座り、互いの顔も見ずに、何を言おうかと考えているかのように、言葉を発しようとするのだが、それらはやがて、頭の中で消え去ってしまうのだ。
やがて決心がついた二人は、
「「ご、ごめんなさい!!」」
二人同時に謝った。
「あの日、私は夕夏に対して悪口を言ってしまった……言いたくもなかったのに。本当に友達だと言うのなら、嘘なんかつかずに、私達は友達同士なんだって言い張るべきだった!!」
「咲……」
「けど、私には出来なかった。心が弱かったから、友達に裏切られるのが怖かったから……だから、あんなことを……」
ついに告白した、咲の思い。
それらの言葉一つ一つを、夕夏は頷きながら聞いていた。
そして、自分も言う。
「分かってた……咲がこんなにも簡単に友達を裏切るような人じゃないって分かってた……けど、私はそれに気付けなくて、勝手に責めて、勝手に絶交して……友達失格だよね」
健太達に言われて気付いた、夕夏がかつて持っていた、心の詮。
それはすでに外されて、後はそこから『勘違いの過去』を吐き出すのみとなった。
「……ううん。私の罪の方が大きい。だから、絶交されて当然。許してもらえるとは思ってない……あの日そういうことを言ったという事実は、何があったって消せはしないんだから」
咲は、始めから許してもらおうという考えを持っていなかった。
謝って、それでも駄目なら、諦めようと思っていた。
同時に、絶対に許してもらえるわけがないと思っていた。
だからこれは、ある意味での罰。
自らが与えた、最悪の罰。
そうなるはずだった。
「……いいよ」
「え?」
「咲のその罪……許してあげる」
だが、そんな咲の予想を裏切り、夕夏はそのことを許した。
「どう……して?」
「私だって、結局の所あなたを信じることが出来なかったから……私にだって責任はあるわ。気付けない罪の方が、大きいから……咲の罪より、私の罪の方が大きい」
「なっ……そんなことない!私の罪の方が大きいわよ!!実行してしまった罪の方が大きいに決まってる!」
「私の罪よ!」
「いや、私の罪の方が!!」
「私よ!!」
「いや、私の方よ!!」
しばらく言い合いが続いた後、
「「……ブフッ」」
何だか今のやり取りがおかしく感じられて。
二人は思わず吹き出してしまった。
「「アハハハハハハハハハハ!!」」
そして、盛大に笑った。
久々に、二人は心から笑った。
「結局の所……私達にこのような空気は似合わないってことですわね」
「夕夏……口調が元に戻ってるよ」
「いいじゃない。こっちの方が私っぽいでしょ」
いつの間にか、元の口調に戻り、いつもの調子に戻っていた。
すなわち、関係の修復に成功したのだ。
「そうね。さっきまでのシリアスな雰囲気が全部ぶっ飛んだわね」
「どこぞのセリフを借りるなら……」
「「私達にシリアスは似合わないってことね!!」」
言った後に、夕夏と咲の二人は笑い出す。
ちょうどそのタイミングを図っていたかのように、
(コトッ)
「コーヒーお待たせ致しました。それではごゆっくり」
健太は、二杯のコーヒーと二つのショートケーキを置いて、奥に戻った。