番外編その4 少年の抱える想い 4番目
この話で、番外編は終了です。
「あっ、雨が降ってきてる」
吉行と美空が下に降りて来た時、外は突然の夕立ちが起きていた。
朝は晴れていたために、ほとんどの人は傘を持っていない。
例にもれず、美空もその一人だった。
「困りましたね……朝は晴れていたので、傘なんて持ってきてないですし」
「なら、俺のを使うか?」
「え?」
ここで、吉行はそんな提案をする。
「け、けど、吉行君も傘は……」
「安心しろ。俺はこういうことが起こるのを想定して、下駄箱の傘入れに常備してるんだ!」
(スッ)
下駄箱近くに設置してある傘入れより、吉行は自分の傘を取り出す。
それは、紺色の傘だった。
確かに、柄の部分に吉行の名前が書かれてあった。
「……用意周到なんですね」
「褒めてくれよ。何も出ないけどな」
笑顔でそう言う吉行。
その笑顔を見た美空は、笑顔で返す。
「ありがとうございます。それじゃあ、一緒に入っても、よろしいですか?」
「……………………はい?」
そう来るとは予測していなかったようで、吉行はふ抜けた声を出してしまう。
「だって、私だけが使ってしまうと、吉行君が濡れてしまうじゃないですか」
「けど、俺ん家とお前の家って、違うよな?」
もちろん、そんなのは分かり切っていることだ。
「それなら、橋の所まで行きましょう。私の家、橋から右なんです」
「奇遇だな。俺も右だ」
「じゃあ、お互いの家が近くなるまで、でもよろしいでしょうか?」
どうやらあくまでも美空は二人で一つの傘に入ろうとしているらしい。
「け、けどよ倉木。男女が一つの傘に入ることがどんなことを意味してんのか、知ってるか?」
「はい。あいあい傘ですよね?私は別に構いませんよ」
「……なんだか、それはそれでちっと傷つくかもな」
吉行は、全然なんともなさそうな顔をする美空に対して、そう呟く。
同様に、美空も、
「……吉行君となら、私は別に」
「ん?何か言ったか?」
「な、なんでもないです!」
何かを呟いていた様子で、その言葉を吉行に聞かれたと思ったのか、慌てて顔を赤くして否定
する。
そんな美空に疑問を感じつつ、吉行は、
「まぁ……観念するか、ホレ」
(バッ)
吉行は傘を広げると、その中に入るように諭す。
美空は、その吉行の好意をありがたく頂き、その中に入った。
「……なんだか、こうしていると、恋人同士って感じがするな」
吉行は、ふとそんなことを呟く。
すると。
「こ、こ、恋人同士ですか!?」
顔を赤くして、美空は言っていた。
「おいおい、俺達は別に恋人同士ってわけじゃないんだぜ?別にそんなに顔赤くしなくても
いいだろうに」
「……そうですよね」
今度は少し落ち込んだような顔をする。
しかし、吉行はそんなことには気づいていない。
「まっ、倉木はなんだかんだ言って結構顔いいからな。俺もちょっと気になるって言うか」
「え?」
見開き、美空は吉行を見据える。
「あ、いや、お前には多分俺以外の誰かに好きな人いるだろうし、別にそんな想いを抱く
わけにもいかねぇんだけどよ」
「……」
「……あれ?」
黙りこんでしまった美空を見て、吉行は再びふ抜けた声を出す。
「……もしもし?」
「あ、す、すみません」
元に戻ったらしい美空に対して、吉行が一言。
「お前が誰が好きだろうと、俺はお前のこと、嫌いじゃねぇけどな」
「そ、そうですか」
少し美空の顔が笑顔になった。
「おっと。俺の家こっちだから」
「あっ、傘……」
「いいよ、使ってけ」
吉行は、自分の傘を美空に差し出した。
「け、けど、このままじゃ吉行君が……」
「どうせすぐだし、大丈夫だよ」
そして、
「それじゃあな、倉木。また明日!」
「は、はい!」
(ダッ!)
自分の家まで、吉行は走って行った。
走りながら、
「……俺は、一体誰のことが好きなんだろうな」
と、呟いていた。
次回に登場人物紹介をした後、本編に戻ります。