その126 説得 5番目
五番目です。
話し終えた時の夕夏の顔は、苦しそうな表情をしていた。
聞いていた健太達も、あまりいい気分ではない。
そして、両者の間に沈黙の時間が流れる。
その沈黙を最初に打ち破ったのが、健太だった。
「……そっか。それが、佐伯さんが友達を作りたがらない理由何だね」
「……そうよ。これで分かったでしょ?友達なんて、ただの虚言、妄想だって」
顔を合わせようとはしない。
夕夏は、目線を地面に合わせたまま、そう言った。
「……」
他の人達は、黙ったまま、ただそこに突っ立っていた。
何かを言いたげな表情を浮かべながらも、結局は言葉を見つけることが出来ずに、口を閉じてしまう。
それだけ、夕夏の話は困難だったのだ。
「私は、もう裏切られるのは御免なのよ。ただ金持ちだからとかいうふざけた理由で友達になっておいて、いざ私の話が出たら、友達じゃない?ふざけてるにも程があるわよ!」
それは、やり場のない怒り。
この場に咲は存在しないし、夕夏に殴られたという女子達も存在しない。
夕夏の目の前にいるのは、複雑な表情を浮かべる健太達だった。
「結局のところ、友達同士の関係なんてそんなもの。簡単に裏切られるし、ある日突然壊れる。そんな諸刃の剣のような関係なんて、私にはいら……」
「違うよ、それは」
その時。
健太は夕夏の言葉に自然と重なるように言った。
「友達っていうのは、諸刃の剣のような関係じゃない。もっと強くて、もっと固い、鎖のような関係だ」
「違うわね。だったら、私のことを裏切った咲のことを、どう説明するって言うの?!」
次第に夕夏の声は荒くなる。
そんな夕夏に対して、健太は冷静に言った。
「ねぇ……佐伯さんは、咲さんに本当のことを聞こうとは思わなかったの?」
「……ハ?」
およそこの場で出てくるとは思っていなかった言葉に対して、夕夏は思わず間抜けた声を出してしまう。
構わず健太は続けた。
「仮に咲さんが佐伯さんとの関係が、全て演技だった何て言うのなら、何の得があったの?」
「そ、そんなこと分かるはずないでしょ!!」
「だよね?ならつまり、こういうことは考えられない?」
健太はそこで一拍置くと、
「実は、『あなたとの関係は演技でした』って言った方が、演技だったって」
「……それは、どういう?」
言葉の意味を求める夕夏に対して、大貴が説明を加える。
「簡単に言えば、『お前とは友達じゃない』って言ったことが、嘘だったってことだ」
「つまり、佐伯さんと咲さんは、決して赤の他人じゃなくて、未だ友達同士だってこと」
更にかなえがそう付け加える。
「ボクだって孤独だったことがある。周囲の人との関係を一切絶ちきって、一人でいた時があった。けど、孤独って言うのは、とても寂しい物だった……もしかしたら、ううん、佐伯さんも絶対、寂しかったはずだよ」
「違う……私は……」
「最初は、無理に友達にならなくてもいい、しばらくは様子を見ていようって思ってた。けど、それは間違いだった」
そう前置きをして、言った。
「こんなにも佐伯さんは寂しい思いをしている人を、僕達は放っておけない」
「……同情だけの友情なら、私はいらないわよ」
「同情なんかじゃない」
夕夏の言葉を健太は否定した。
「それに、佐伯さんも知ってるはずだよ……友達になるのに、理由なんていらない」
「まして、身分がどうのこうのなんて、関係ないってね」
健太の言葉を付け加えるような感じで、ミサが言った。
「だから……佐伯さん。僕達と友達になろうよ」
最後に健太は夕夏にそう言う。
「わ、私は……」
それに対して夕夏が出した答えは……。