その124 説得 3番目
三番目です。
今から三年前。
中学に上がる前、夕夏には一人の友達がいた。
名前を『咲』といい、財閥の娘だから、と距離を置いていた周りの人達と違って、咲はすぐに
夕夏と友達になった。
始まりは、咲から夕夏に話しかけてきたところだ。
「あなたが……佐伯さん?」
「……そうよ。あなた、誰?」
「私は、咲。よろしく」
笑顔でそう言う咲に対して、
「……で?何が目的?」
夕夏は警戒の念を隠せない。
「な、何が目的って……ただ私は、あなたと友達になりたいだけよ」
「……友達?それ、本当?」
当時の夕夏も、やはり疑り深かったらしく、すぐに友達になろうとはしなかった。
だが、咲は諦めない。
「本当よ。嘘ついてどうするのよ」
「……あなた、少し変ね」
「あなたじゃなくて、咲って呼んで欲しいわね。私達は、もう友達同士なんだから」
「それじゃあ……咲」
夕夏は、少し顔を赤くして言った。
すると。
「これからもよろしくね、夕夏」
そして二人は、友達同士となった。
「こちらこそ」
夕夏は咲にそう返事を返す。
「それで早速何だけど、今度の日曜日にどこかに出かけない?」
「今度の日曜日?ええ、いいわよ」
咲は、夕夏のことを出掛けに誘う。
彼女は、出かけるのが趣味であって、日曜日になると、友達を連れて行くのが習慣となっていた。
当然、この法則にのっとって、夕夏を誘ったのであった。
「それじゃあ、駅前に集合ね」
こう言った感じの出来事は、日常茶飯事だった。
だが、ある日を境に、この関係も一気に崩れ去ることとなる。
それは、とある日の昼休みのことだった。
トイレから戻ってきた夕夏は、自分の教室から、何やら話し声が聞こえてくるのを聞いた。
その話の内容は、自分の話だ。
「……またか」
その内容は、いつも聞き慣れていた内容だった。
自分が財閥の娘故に噂される。
そんなことは重々承知であった。
男子からは好奇の眼差しで。
女子からは嫌悪の眼差しで。
どちらからも、決してよい目では見られていない夕夏にとって、それは平気なことであった。
今は、咲と言う友達もいる。
だが、夕夏は聞いてしまった。
「んで?あんたはどう思うのよ、咲?」
「……ん?」
何故か話の流れで、咲という名前が出る。
とは言っても、咲なんて名前はそう珍しい名前ではなく、あだ名でそう言われることも多い。
だが、夕夏は直感で分かっていた。
「……どうって、まぁ、私から見ても、佐伯ってうざいよね」
「……え」
だから、咲自身からそんな言葉が出されるとは思っていなかった。
「でもさ、咲って佐伯と友達やってるじゃん」
「……何言ってるのよ、あれはフリよフリ」
「……嘘」
咲から告げられる、夕夏を突き放すような言葉。
友達だったのは、実は演技。
本当は、友達とも何とも思っておらず、裏では陰口を言っていた。
その事実が、夕夏の頭を混乱させる。
そして。
(バン!!)
派手な音を立てて、夕夏は勢いよく扉を開いた。