その123 説得 2番目
久々のシリアス話突入です。
「佐伯、さん?」
健太は、その名前を口にする。
「聞こえなかったかしら?ならもう一度言うわね……余計なことはしないで」
「はぁ!?」
吉行が、あからさまに驚きの表情を見せた。
「何言ってるんだよお前。そこまでしてどうして拒絶するんだよ」
「言ってるじゃない。私には、友達なんかいらないって」
「それをどうして拒絶するんだって聞いてるんだよ!!」
「吉行君……」
今の吉行の剣幕に、かなえの声は小さくなる。
他の人々も同じような考えを持ったようだ。
「あなたは知らないだけよ。友達に裏切られる苦しみというのが……」
「!!」
その言葉を聞いた時、かなえは微妙な顔をしていた。
「……相沢さん?」
横にいたマコが心配そうな顔をする。
そんなマコに、大丈夫といって、かなえはもう一度夕夏を見た。
「友達に裏切られるのがどれほど辛くて悲しいものか。あなたのような気楽な人生を歩んで
来たような凡人には分からないでしょうね!!」
「凡人で結構だよ!けどな、そんなの裏切られただけだって、勝手に思い込んだだけなんじゃ
ねぇのか!?」
「そうじゃないわよ!私はあの時、本当に友達だと思ってた!けど……それを相手は私の心を
弄んでただけだったのよ!!」
「だから、そう思ってるのが勘違いだったんじゃねぇのかって言ってるんだよ!!」
吉行の声は、段々大きくなり、荒くなる。
まるで、自らの意見を無理矢理つき通そうとするかのように。
「お前が過去にどんなことを経験したのかは知らねぇよ。けどな、だからどうした!?お前は
その時、努力したのか!!」
「したわよ!あなたなんかじゃしないような努力をたくさんした。けど駄目だった……
駄目だったのよ!!」
「どれだけ努力した!?」
「あなた何かに言う必要なんかないわよ!!」
夕夏の声も、普段とは似つかわない程、荒くなっていた。
「そこまでにしてよ」
そこに、健太が仲裁に入る。
「止めるな!こいつは、本当の友達と言う物を知らないんだ!俺は、こいつの目を覚ますまで
諦めない。今決めた!!」
「止めてってば吉行!これ以上やったら、余計に関係は崩れるばかりだよ!!」
「!!」
そう言われて、吉行は夕夏を責めるのをやめた。
「……佐伯さん。どうして僕達と友達になることを避けるの?」
「……あなた達何かに話したって、無駄よ」
「無駄じゃない」
「?」
健太は、夕夏の言葉を否定するかのように、すぐに間に入った。
「私もそう思うな」
かなえが前に出る。
「話せば楽になると思うの。そして、分かりあえると思う」
「……そんな上辺だけの言葉を投げかけられたって、嬉しくも何ともないわよ」
「そう思うなら、そう思うだけでいいんだ」
夕夏の言葉にかぶさる感じで、健太はそう言った。
「……話してくれるかな?佐伯さん」
「……分かったわよ」
そして、ようやく夕夏は、重くしていた口を、開いた。
そして始める。
自らが経験した、過去の話を。
次回辺りから、また過去話の始まりです。