その112 新たなる日常 1番目
そろそろ文化祭が始まります。
けど、まだまだ先の話です。
時は一日流れて、月曜日。
再び学校に通う時がやって来た。
「健太〜おっはよ〜」
「あ、吉行。おはよう」
いつも通り挨拶を交わす二人。
下駄箱で上履きに履き替え、健太は教室へと入る。
「おはよ〜健太君♪」
そこには、すでに数名の生徒がいた。
本を読んでいる者、談笑している者、はたまた、誰かがやって来るのを待っていた者。
たった今おはようと言ってきたマコも、その一人だった。
「おはよ、マコ」
「おはよう、健太君」
「かなえさんもおはよう。大貴もおはよう」
「……おはよう」
クールに返す大貴。
こうして、今日もいつもの一日が始まろうとしていた。
だが、このクラスには、ちょっと前から微妙にそんな日常は変わりつつある。
それは。
「……」
「……相変わらずだな、佐伯の奴」
数日前に転入してきた、佐伯財閥のご令嬢、佐伯夕夏。
健太達のクラスに来て早一週間近く経過したが、周りと話す気はないらしく、毎日毎日孤立
していた。
とは言ったものの、相変わらず諦めの悪い男子もいるそうで。
「佐伯さん。ちょっといいかな……?」
「……何?」
「あのさ、今度どこかへ出かけたり、なんて……」
「悪いけど、お断りよ」
と、こんな感じで100%断られるのがオチだった。
「しっかし、ここまで来ると、もはや友好な関係を築き上げるのは不可能に近いな、健太」
「……そうみたいだね」
夕夏は、自らこの空気を作り出していた。
誰とも会話をしようともせず、ずっとこんな感じだった。
「う〜ん、何かきっかけがあればいいんだと思うんだけど……」
「きっかけ、か……」
かなえの言葉に、健太は呟く。
考えている内に、
「お〜い、席に着け……ってか、中川は今日は欠席か?」
外川が教室に入って来た。
「いつものように、先生がいなくなってから来るんじゃないんですか?」
「……俺、そんなに嫌われてるかな、あいつに」
「まぁまぁ……」
落ち込む外川を、クラスメイトの男子が慰める。
「……それじゃあ、今日の連絡だ。もうすぐこの学校でも、文化祭が開かれる」
「あれ?もうそんな時期だったのか」
「……吉行、今はもう9月だよ?いい加減に文化祭の時期になると思うんだけど」
そう。
9月になり、そろそろ文化祭の時期が近付いてきた。
「そこでだ。文化祭実行委員を、うちのクラスからも男女一人ずつ選出することになった。
とりあえず一時間目は俺の授業になってるはずだから、その時間を利用して決めたいと思う」
「文化祭実行委員って、どんなことするんですか?」
クラスの女子が尋ねる。
「主にクラスの文化祭での出し物等を中心に仕事がある。簡単に言ってしまえば、リーダー的
役割ってわけだ」
「リーダー的役割、か……」
「……健太、これだ!!」
突如吉行は立ち上がり、そう叫ぶ。
「ん?どうした海田?お前が引き受けてくれるのか?」
「いいえ!引き受けるのは健太の方です」
「って僕!?」
指名された健太は、自分のことを指さして驚きを見せる。
「木村がか……確かに信用出来るな。よし、採用!!」
あっさりと採用されてしまっていた。
「ちょ、ちょっと先生……!!」
「いいじゃないか。文化祭実行委員って言っても、あまり多く仕事を受け持つわけじゃない。
それに、人手が足りなければ、応援を要請することも可能だ」
外川は、健太にそう説明する。
「そう言うことだから。吉行、頼むね」
「って俺かよ!」
今度は吉行が驚きを見せる。
「他にやってくれる奴は……って、時間もないから、女子のは一時間目が始まってからだ。
それまでにやりたい奴は考えておいてくれ」
それだけを言うと、外川は教室を去って行った。