その95 夏と言えば 1番目
ついに新章開始です。
今回は、まだプールには行きません。
8月。
夏もいよいよ本格的になってきた。
気温摂氏30℃。
本日、晴天なり。
太陽の日差しが地面を容赦なく刺し、それが更にこの日の暑さを強調していた。
「あ、暑い……」
健太は、アパートの一室で一人呟く。
本日美咲は、友人とどこかへ行っているらしく、珍しく家にはいなかった。
「それにしても、今日は本当に暑いな……冷房つけようかな」
思い至った健太は、冷房をつけようとリモコンに手を伸ばした。
その時だった。
(ピリリリ)
「……ん?電話だ」
健太の携帯電話が、音を奏でる。
どうやら誰かから電話が来たようだ。
(ピッ)
通話ボタンを押して、健太は電話に出た。
「もしもし?」
「あ〜健太か?俺だ。吉行だ」
「分かってるよ。携帯に電話したら、画面に名前が出るから」
電話の相手は吉行だった。
どうやら吉行も暑いらしく、その声は、少しばかり覇気が足りなかった。
「どうしたの?今日はまた」
健太は、電話越しに吉行に尋ねる。
「ああ。用件というのはだな……」
吉行は、ここで一旦間を置いて、言った。
「なぁ……夏と言えば何だと思う?」
「え?夏と言えば……そうだな、海かな」
「やっぱりそうだよな」
うんうんと、吉行が頷いている情景が、健太には見えた。
「けど、それがどうしたの?」
「うむ。夏と言えば海、海と言ったら泳ぐ、泳ぐと言ったらプール……!」
「ようは、プールに行こうって話?」
「ああ、そうだ」
即答だった。
「何かこの夏暑いしさ、プールにでも行って、さっぱりしようぜ!!」
「ま、まあ僕はいいけど……他にメンバーは?」
健太は、メンバーについて尋ねる。
吉行は、
「これから当たる所。多分みんな来ると思うぜ?」
「でも、今日いきなりそんな電話来たって、みんな準備とかあると思うし……」
「いや、何も今日行くなんて言ってないんだけどな……行くのは明日だ」
「あっ。明日なら大丈夫だと思う。明日なら美咲も行けると思うから」
「そうか?なら美咲ちゃんにもよろしく伝えておいてくれ。それじゃあ」
(ブツッ)
ここで、吉行は電話を切った。
「……さて。明日はプールだから、今日中にある程度宿題終わらしておくか」
そう呟くと、健太は宿題を取り出して、それを片付け始めた。
一方、こちらは吉行の部屋。
「さて、と。それじゃあ手当たり次第に電話してみるか」
呟くと、吉行は電話に手を伸ばす。
先ほど健太に当たって、OKを貰ったので、次は大貴に当たることにした。
(ピッピッ)
アドレス帳から、大貴の電話番号を探りあてると、その番組に電話をかけた。
「もしもし」
相手はわりと直ぐに出てきた。
「おう大貴か。突然だが、夏と言えば?」
「……プールか?」
「え?何故わかった?」
大貴は、一発でその名前を言い当てた。
「まあ、お前の考えていることは大体予想がつく。それで?プールに行こうってお誘いか?」
「そんなところだ。で、大貴もプール行こうぜ」
吉行は、直ぐに本題に入る。
すると。
「俺はいいが……他には誰がいるんだ?」
健太もしてきた質問を、大貴もしてきた。
「今の所は健太と俺とお前だけ。けど、これから誘う予定。あっ、行くのは明日だからな」
「明日か……大丈夫だな。じゃあ、他に誰が来るのかわかったら、また電話してくれ」
「ああ、そうする。それじゃあ」
(ブツッ)
吉行は、ここで電話を切った。
「さてお次は……」
と、電話をかけようとしたその時だった。
(ガチャッ)
誰かが帰って来たらしい。
「……もしや」
吉行は、瞬時に玄関まで急ぐ。
そこにいたのは。
「ただいま、お兄ちゃん」
大量の紙袋を抱えた、黒くて短めの髪の毛をした、小さめの女の子がいた。
彼女は吉行の妹であり、名前を、
「帰って来たか〜杏子!!」
海田杏子と言うらしい。
「わっ!お兄ちゃん!?」
「杏子〜」
(スリスリ)
抱きつき、体をすりよせる。
恐らく、吉行の性格は、ここから来ているのだろう。
「今日はどこに行ってたんだ〜?お兄ちゃん、ちょっと気になってたんだぞ〜」
「今日は水着を買いに行ってたんだよ。友達と一緒に」
「水着か〜。なら、明日って予定あるか?」
吉行は尋ねる。
「え?別にないけど」
「それなら、明日お兄ちゃんの友達と一緒にプールに行こうよ」
「プールか〜。うん、いいよ」
「よっしゃ〜!!この調子でどんどん誘うぜ!」
杏子にOKをもらった吉行は、その調子でどんどん聞いていくのだった。