復習の元ヒロインと悪役脱却を予習する令嬢
本作が自分の執筆?時間最長です。
文字数も比例。
物語中の無駄も粗も多いでしょうし、抜けも多いと思いますが、読んで楽しんで頂けるならそれこそが喜びです。
『おばあちゃん!』
ワタシはベッドで横になって微睡んでいた所を、可愛い孫達の声で起こされた。
もうあまり力の入らなくなった体に無理をさせて、首を孫達へ向ける。
孫達の後ろには、困っているような悲しんでいるような、複雑な顔をするワタシの子供達。勢揃いなんて、いつ頃以来だろうね?
「……どうしたんだい?」
「もう会えなくなるって本当なの?」
「……そうだね、そろそろ会えなくなるね」
ベッドから出るのにも、死力を尽くさなきゃならないこの体。人生の終着点は、もう目の前なのだろうね。
「なんで!?もっといっぱいお喋りしたり、遊びたいのに!!」
「ありがとうね」
涙で顔を洗うほどに別れを惜しんでくれるなんて、ワタシには出来すぎた孫達だよ。
「ありがとうじゃない!もっと遊んでよ!もっと話を聴いてよ!」
「……ふふふ。ごめんね、もう無理そうよ」
「どうして!?大国母様なんでしょ!!大国母様に治せないびょーきは無いんでしょっ!?」
言われたわねぇ。
国の辺境に生まれたパン屋の娘クファーナ。実はそこの辺境伯の庶子で、学院に入って欲しいからって本当の父に両親から引き離されて。
貴族教育を受けたら学院に。
そこで子爵の4女とか言う、王太子妃になったワタシの侍女になってくれた親友と、王太子……未来の伴侶と出会って。
王太子の婚約者って令嬢に妨害されて、それにふたりで対抗して。
王太子妃に庶子がなったのが国の醜態とか言われる様になったのを、覆すために努力し倒して周りを認めさせて。
王と王妃になってからも、肩書きに負けないようにと色々やったわね。
それが認められて“大”国母とまで言われるまでになった。
……でもね?
「……ワタシのこれは老衰、病気や怪我じゃないの。だから魔法じゃ治らないのよ?」
「嘘だよ!」
「……本当なのよ、ごめんね?」
その後も「嘘だ」「認めない!」とか叫ぶ孫達を愛おしく眺めていたら、子供達が止めた。
「おばあちゃんはな、死んだおじいちゃんへ会いに行くんだ」
……なるほど。体が疲れきったとか言う定番な言葉では、ワタシの魔法が担ぎ出される。良く考えたな、次男。
孫達の視線は、次男へ注がれた。
「おばあちゃん大好きだった、あのおじいちゃんに?」
聞き返された言葉を、今度は現王の長男が答える。
「そうだぞ。お嫁さんを一人しかもらわなかった、一途なあのオヤジの所にな。今頃母さんが居なくて、寂しがってるぞ?」
ワタシ、一人で2男2女を産んだのよ?頑張ったと思わない?
「一人って寂しい?」
「ああ。だから、行かせてやろうな?」
ありがとうね、孫達を説得してくれて。
子供達へゆっくり目礼すると、それに気付いた向こうは控えめな笑顔をしてくれる。目の端の水は見てないわよ?
でもまあ……あっちで真っ先に会いたい人は別の相手だけどね。
とても後悔している、謝りたいけどそうしたら逆に失礼になってしまう、そんな人。
『…………うん』
渋々ながらも受け入れてくれた孫達。
……ああ、そろそろね。なんだか体が恐ろしく軽くなってきたわ。
「みんな、ありがとうね」
精一杯の笑顔を、ワタシの生涯の締め括りとして見せた。
~~~
しかし死んだはずの大国母は、何故か赤ん坊になっていた。
「あぎゃ?」
『あぎゃ!?』
え?
………え~~~?
お産に立ち会った全ての人間に、とても短い変な産声を聞かせ、混乱と疑問符を押し付けながら。
~~~
次第に意識がハッキリしてきて、周囲を確認しようとしても、上手く体が動かない。
……まあ、まともに動けなくなったおばあちゃんなんだから、当たり前よね。
そう自身に言い聞かせるけど、なんだかそうではないと心のどこかが言っている気がする。
こんなよく分からない状況ですべきなのは、現状の把握でしょ。
それでどうにか動かせる目をぐるぐる回して分かるのは、何か豪華な部屋の中ってだけ。
それから推察出来るのは、ここはどこかの上位貴族か王族の屋敷内。それのみ。
じゃあ体の中……記憶はどうかと漁ってみると、それはもう大量に発掘できる。幼い頃から死んだ?時まで、ずらっと。
忘れてしまったはずの事柄まで鮮明に。
次に、魔法の訓練として良く使われる、超低燃費魔法をやってみる。
ぽう……。
「きゃっ、きゃっ!(出せた!ワタシの一番得意な聖属性!)」
ワタシがワタシのままである事が確認できて、嬉しさのあまりつい子供みたいにはしゃいでしまった。すると、その声を聞き付けたのか、扉が開く音がして何かが入ってくる気配がした。
「お嬢様、お目覚めですか?この乳母のお乳をどうぞ召し上がって下さいませ」
お乳?
……ワタシ、赤ちゃんなの!?
ワタシが生まれ変わったと自覚してから7歳より前まで。起きた出来事をさらっと紹介するわね。
1歳まで、時々お母様らしき痩せこけた人が自分をあやしに来る。すぐ帰るを繰り返す。
「私の可愛いアイナ」とか言われたし、多分ワタシの名前はアイナ。この国ではそこそこの数がいる名前。
……あの子もアイナだったのよね。懐かしいわ。
と言うかよ?女の子の名前の最後に母音で『いあ』と付く子が結構居るのよね。いっその事“イアイア”って名前はどうかしら?
いあ!いあ!…………っ!?
なにかしら?黄色くて変な模様が頭をよぎって、同時に背筋が凍えたわ。やめやめ、これはさっさと忘れましょ。
体内魔力を練って魔力を増やす訓練。ついでに使える魔法の属性を確認したら、全属性使えて驚いた。
前世の記憶、劣化する兆し無し。
1歳を越える頃から、正体不明の治まらないイライラが続くようになる。部屋に鏡が無くて、自分の姿を確認できない。
1歳半の頃にパッタリお母様?が来なくなって以降、父らしき人が悲しい顔をして時々見に来る。
2歳半辺り、部屋替えと同時に乳母が居なくなる。この部屋にも鏡無し。窓からは屋敷の庭しか見えない。
代わりの専属侍女が顔を見せる。その時に嫌な感じのするババア(おっと、失礼)がお父様?と、一度来た。あの女嫌い。
侍女は常にビクビクオドオドしていて、ワタシの飲食の世話をする際にそれがピーク。不安だから、侍女の目を盗んで解毒魔法を使う。
この辺から、こっそり日記をつけ始める。お絵かきの紙をちょーだい!っておねだりすれば、沢山もらえた。
3歳、最近まで見なかった顔の使用人達から刺さる視線が、異常に冷たいと感じる。本気でイライラしてくる。
逃げるように無断で書庫へ。読んだ本から察すると、なんか前世のワタシと同じ位の過去に戻ってるっぽい?
3歳半。本格的な教育……されようにも、前世の知識と変わらないから、教わることは何も無い。家庭教師の先生が泣く。国の歴史の授業ではっきり認識、時間が確実に遡ってる!
窓の外を見ても、前世であちこちに視察して回ったはずなのに、知らない街並み。同じ国に生まれたはずなのだけど。
専属侍女が替わって、素っ気ない塩な態度で名前はメウー。でもワタシを見る目は、どことなく優しい。
心がイライラから変わって少しざわついて否定してくるけど、前世の経験から信頼できる相手だと強く思う。そうしたらなんとなく程度だけど、今までより心が軽くなった。
身のこなしからただ者じゃない雰囲気。「もしかして特別な訓練でも積んでいるのかしら?」なんて話を振ってみたら、逆に「お嬢様なんて下手すると王妃様よりも気品を感じますよ?」なんて返された。
お互い不敵な笑みで、なんだか面白かったです。
4歳。全教育課程修了。作法もダンスも勉強も完璧。縫い物も自由自在。前世の経験が失われていないって、凄まじい。
子供部屋から私室へ部屋替え。子供部屋より部屋が狭くなった上に、ここにも鏡が無い。
そして何故か部屋から出してもらえなくなる。
部屋の一室にトイレまで設置されていて、ほぼ監禁の構え。
お風呂にも入れなくなって、清潔さ維持は魔法頼りに。
メウーはこの頃から、厳しい目付きをする機会が増える。
ここまで来たら、大国母時代の経験がこの家の事情を解き明かす。
メウーにお父様?への言伝てをお願いしました。
王家に借りを作ってでも、国の暗部を借りて後妻の素行調査をしろ、と。ワタシからだってのは伏せてですけどね。
5歳。出してもらえなくなったから、やることは魔力訓練と体力維持。朝晩で計2回のラジ○体操第一、よーーい。
これ前世で孫が生まれた辺りに、市井で広まった健康体操。本気でやると良い運動になる。イライラも少しだけ軽くなる。
なんで市井の事情を知ってるか?前世の趣味、街で奉仕活動の時に皆さんから教えてもらったの。長生きして欲しいからだって。嬉しかった。
他にも暇をもて余して、小説なんかもしたためています。
題名は【謎の貴婦人漫遊記】
王妃が身分を隠して国内を視察して回り、はびこる悪を成敗する内容。
お供に護衛の“アールス・ガズー”さんと“エルス・ガズー”さん、それと男女の諜報員も引き連れて、貴族・商会・裏組織。悪事の証拠を暴いて正義を為す!
そんな痛快さを目指した娯楽書。
ちなみに悪事のほとんどは、王妃時代に報告が挙がったアレコレをちょっとボカして使ってます。とある貴族の、悲惨な結末を迎えたお家乗っ取られ騒動とかも載せました。ワタシの心の棘ね。
これを読んだメウーが、微かに目の色を変えたわ。タイミングを見て出版しても良いかも。
7歳。この頃から世界が一気に動き出したの。
いつもの監禁生活が今日も始まる、まずはラジオ○操で気晴らしよ~ってベッドから降りたら、メウーから話しかけられたの。
「お嬢様、王太子様の婚約者選定を目的としたお茶会に出席する為、王都へ向かいます」
有無を言わせず、3日かけて馬車で王都へ。そんな近い所の領主なら、相当高い爵位の家ですね。
王都の別邸に着き次第、メウーは強引な手段に出た。
は?なんて反応する暇もなかったわ。
問答無用でメウーに抱えられたの。いつものメウーなら、ここまでしなかったのに!って熱量を見せられた。
「久し振りのお風呂です。しっかり磨きあげて見せますから」
お風呂!!
その言葉で頭はいっぱい。ずっと悩まされてたイライラさえ吹き飛びました!
お風呂で綺麗にしてもらってから、衣装部屋に。
ワタシが着られるものは部屋の隅に少しだけだったけど、それでも色とりどりで華やかな光景は久し振りでとても嬉しくなったの。
そのまま浮かれて衣装を体に充てながら姿見へ。
そこで見た姿は、前世で苦い思いがある相手。
「アイナって、あのアイナじゃない……」
姿見に映った者は、前世でワタシに婚約者を盗られた公爵令嬢。
綺麗なブロンド、長いまつ毛、クールビューティーと言われる細い面立ち。
まだ幼いけれど、そのまま成長すれば記憶の通りの顔になる。
そうか。クファーナとアイナの使える魔法は正反対。
2人揃えば、全属性が揃うんだ。属性の謎がようやく解けた。
解けると同時に、アイナにまつわる苦い記憶が強引に引っ張り出される。
ワタシが王妃になって落ち着いた頃に、修道院送りになった令嬢がどうなっているか、調査してもらった相手。
調査結果だけど、修道院に入って1年経たずに自決していたと報告された。
添付された資料には、令嬢の生い立ちが。
母は出産後に肥立ちが悪くて死去。後妻に家を乗っ取られ、悲惨な幼少期。家庭教師以外とは外部とほとんど接触の無い監禁生活が、王太子との婚約まで続く。
婚約後は過酷な王太子妃教育、家に戻れば後妻から嫉妬混じりの折檻。
そして学院でワタシに王太子を奪われまいと、必死に策謀を巡らせる。
これを知って、本気で後悔したのよ。
アイナにとって、王太子は人生唯一の、本当にたった一つの小さな小さな希望だったの。
誰からも大切にされず育った令嬢が、政略結婚を経てあんな家から抜け出せて、更に王太子から大切にしてもらえるかもしれない。
自身の、それしかない微かな光の目印。
それをワタシが奪う形になった。
そりゃあ、必死にもなるわ。お上品に手段なんて選んでいられない。
王太子の婚約者って立場以外に、自分の未来が無いのだから。
それを奪われてしまえば、絶望しか無くなってしまう。完全に。
そのトドメをワタシがやってしまったの。
修道院で反省して慎ましい生活を送れているなら、支援をしてあげたいな~なんて、ふざけた心持ちでいたワタシには、強烈なビンタになった。
反省以前の問題だもの。 どんな手を使ってでも生き残ろうとする、生存競争と同じ。
それをこっちは、単なる愛と夢への障害くらいにしか思ってなかった。
アホよね。 アイナの立場や境遇を知らなかったとは言え、邪魔されてより強くなる愛!
なんて頭をお花畑にして、盛り上がっていたんだから。
それからは心を入れ換えて、ひたすら国のために働いた。
人ひとりの純粋で激しい夢と渇望を踏みにじって、命まで奪ってしまった罪に見合うだけの、そのお墓に捧げるお詫びの花として|相応しい成果を求めて。
子供を産むなんて時間の無駄に感じて後回しにしたかったけど、世継ぎを作るのも仕事と説得された結果があの子達。
お腹の子を心配されてお休み下さいなんて止められても、アイナを考えたら休んでいられない。
その結果が大国母。これで謝罪や反省になるとは思えないけど、やってしまった償いになるのならと、本当になんでもやった。
外部からでは、アイナの家にいる後妻がやった悪事を掴めず、家の没落とか行くところまで止められなかったけれど。
同じ目に遭う人が現れないようにと祈って。
それで、無意識でしょうね。アイナの家の所領へは書類だけで視察には行っていなかった。だから領の街の景色を知らなかったのよ。
別の場所への通過地点として寄るときは、馬車や宿の部屋では俯いてひたすら心の中で謝罪を繰り返して、窓の外は見なかった。
過去を振り返りながら、姿見に映るアイナへ手を当てて「ごめんなさい」と呟いた。
――謝ってんじゃないわよ。それは貴女のアイナであって、私じゃないもの。
……驚いた。あの時のアイナよりも幼い、目の前に居る通りの声。それが頭の……心の中から響いてくる。
――ムカつくわね、返事なさい。貴女は今世でも、私を絶望に沈める気かしら?
絶対に無い!させない!!……んだけど、もしかしてアイナも前世の記憶とか残っているの?
――無いわよ。今の私は貴女に体を乗っ取られて、貴女の魂の側で小さくなっているしかない存在なの。それで、貴女に刻まれた記憶を読み取って勉強しただけ。
……1歳の頃からあったイライラは、もしかしてアイナの気持ちなの?
――そうよ。私が私のまま育った時の可能性を見せられたからね。このままだと破滅なのに、のんびりしてたらイライラするわよ。
大丈夫。自分が誰なのか、はっきり分かったから。
すぐにでも状況を変える行動に移れるわ。ワタシは元大国母よ?気楽に眺めていなさいな。
と言うかそもそもね、家の問題なら仕込みはとっくの昔に終わっているのよ。後は放っておいても解決するの。
それに学院の方だって、対策は簡単にできるわ。
――信じるからね、お願いよ?
なんて心の中での会話も済み、ドレスの着付けも終了。
一度部屋に寄ってもらって「大切にしてくれていると、信じています」と書いたメモをお父様に渡すよう、メウーにお願いしてからお茶会の会場へ。
お茶会も終わり、公爵家の所領にある本邸へと戻ってきました。
お茶会はどうなったか?聞くまでもないでしょ?
元々出来レースですもの。これは政略結婚なのよ?それに元大国母がお茶会で、醜態を晒すとでも?
別邸の私室よりも狭い私室に入ると、すかさずメウーから何かを手渡された。
「お嬢様、公爵様からお返事です」
早速見てみるけど、文は少しだけ。
「なにもしてやれなくて、すまない」
これだけ。でもそこから伝わる気持ち。やっぱりお父様は、アイナを大切にしてくれているじゃないの。
――謝られただけじゃない。なんで大切にされてると言い切れるのよ。
……まだアイナは7歳だものね。ならばもっと分かり易くするわよ。
「メウー。ワタシはいつ、お父様の後妻から毒殺されるのかしら?」
剣呑な光を瞳に宿したメウー。
「絶対にさせません。その悲劇を起こさせないために、公爵様が国王様へ頼み込んで私を派遣させたのですから。
それと公爵様を通したお嬢様の増援要請で、反撃の準備も可能になりましたので」
ほら。大切にされてるでしょ?
お父様は家族への接し方を知らない、上手くできないだけ。お母様が亡くなられて、弱っていた所をあの後妻に狙われた。
それで後妻が好き放題し始めて、お家乗っ取り計画が進行。
これからワタシを遠ざけて、守りきるための監禁生活。
メウーが素っ気ない態度なのも、後妻に隙を見せないため。
「メウーの前にいた専属は、毒殺要員だったのでしょう?」
「はい。後妻から家族を脅迫の材料に使われ、やれと言われたそうです。しかし本人の気質から適量未満しか盛れず、しかもそれは長期間盛ってゆっくり効かせる毒で、ロクな効果はなかったようですが」
「証言を出されても、当の後妻は知らぬ存ぜぬの尻尾切り」
「仰る通り。7歳に見えませんよ、お嬢様」
「7歳よ。それと今回の婚約、お父様がワタシをこの家から逃がすために計画してた物でしょ?」
「……それもお見通しだったのですか?」
「ええ。でも後妻に対抗する証拠を握ったから、この計画をご破算にしようとしたら、向こうから暗部を貸したお礼で計画続行を求められた」
学力やら礼儀作法やら、お茶会で王妃様にやたらと絡まれたもの。どうせあの家庭教師が、王家に報告したのでしょう。
「お嬢様は絶対に年齢を偽ってますよね?」
「偽ってはいません。それと訊き忘れていましたが、メウーを呼んだ貸し借りはどうなっていますか?」
「荒唐無稽過ぎて表に出せませんが、お嬢様の執筆された本でこちらの負債まみれです。未来予知もかくやと言った犯罪の告発本により、国が見逃していた大事件の芽を摘み取り放題ですので。現在最大の謎となっているのは、お嬢様の正体についてです」
「ワタシは正真正銘7歳の公爵令嬢だからね。……そんな事より、お茶を下さいな」
この日から、今までずっと続いていたイライラが、無くなった。
それでこの後はお父様が国から借りた暗部達によって集められた、どーしょもない横暴と計画の数々を証拠にして、後妻は病死となった。
ワタシも毒薬侍女辺りから付けていた日記を提出して、追及の援護。
ついでとばかりに後妻と手を組んだ者達も、突然死や行方不明になる。
――クファーナ先生!こんな簡単に物事って動くんですね!
ん、先生?
――大国母様の方が良いですか?
どっちもイヤよ。今のワタシはおばあちゃんじゃないもの。
――なら先生と呼びます!私は先生から生き方を学びたいんです!
……人生の先生って。
――将来の私はどうなるか分かりませんが、先生と一緒にいたいんです!
ワタシは貴女を不幸にした女よ?
――不幸になっていませんよ?むしろ2人も大切な人をくれました。いえ、先生も入れれば3人です!
…………好きになさい。ただしワタシはもうクファーナじゃないわ。
――はいっ!
って所で終わったら、綺麗な終わりでしょうね。後妻問題が片付いたから。
でもまだ問題は残ってるのよ。
公爵家の使用人。後妻がほぼ総入れ替えした後始末とかね。
なにせお父様によって強硬に留め置かれたメウー以外全員が粛清されたのだから。
暗部はメウー以外帰っちゃったし、広いお屋敷に公爵親子とメウーの3人だけ。寂しいったらありゃしない。
これはまあ、お父様が手を回していたわ。
後妻に好き放題される前の使用人達だけど、クビにされる直前から余所への出向と言う形にしていたの。
実質、問題が片付くまでの避難指示。
帰還指示を出す時に、出向先に居続けたいと思っているならば、そう伝えてくれと添えて。
それで戻ってきたのは7割。大した人望よね?子供との接し方すら知らない、唐変木の癖に。
そして戻ってきたのは良いのよ。でもその中で厨房担当があまり戻ってこなかったから、まあ大変。人員補充はいつになる?
さあどうするどうなる?はい、ワタシがでしゃばります。
補充が済んで、この家の味に新人が馴れるまでは猫の手として、無理矢理貸し付けます。にゃん。
前世にてパン屋の娘だった訳ですよ。しかも前世の趣味、街での奉仕活動でワタシが焼いたパンを配った事もある。伴侶の王太子にも時々焼いていた。
でも今世ではまだ7歳。
だからメウーにも手伝ってもらいながら、パンを焼き焼き、パンに挟む具も焼き焼き。
うむ。パン屋のお母さん直伝、美味しいパンの出来上がり。
数少ない厨房の人も絶賛。お礼に作り方を教えてあげた。
出来た物はお父様にも献上。
「ワタシが焼きました」なんて言ってやれば、咽び泣きながら「美味い美味い」とがっつくお父様。
そこに「泣くほど美味しくないのですね……」とふざけて泣き真似をしてやれば、とてもとても深い絶望を見せるお父様。
――私を守ってくれるにしても、下手すぎて寂しい思いをずっとさせてくれた罰よ!良い気味だわ!
全くだ!少しは可愛いげを見せろってんだ!!
厨房担当が補充された後も、食べたいと言ってくれれば何度でもパンは焼いてやるがなっ!
8歳。
お外楽しい!!
あの監禁生活が終わりを告げ、ようやく手にした自由。
あ、部屋は替えていません。監禁された時の部屋のまま。
住めば都って言うのよね。大きい部屋はいらなかった。むしろあの広さだからこそ、なんだか落ち着くのです。
――単純にお父様とメウーから守られて、愛されている実感を部屋替えと一緒に取り替えられたくなかったと、素直に言えば良いんですよ、先生。
黙りなさいっ!
――ふふっ。照れ隠しなんて、先生が可愛い♪
だから黙りなさいな!
――他にも部屋着を入れたクローゼットの扉につけてもらった、小さめの姿見を見て「この頃の小さいアイナは何を着ても可愛い♪」とか。
あ゛ーー!あ゛ーー!あ゛ーー!きーこーえーなーい!!なーにーもーきーこーえーなーいー!!
――ぷぷぷ。じゃあ先生、また後でおしゃべりしましょうね?
……まったく、アイナは時々意地悪なんだから。
ええと、令嬢としてやるべき事?
勉強は済んだ。未だ消え去る兆しすらない前世の記憶により、最高度な教育すら終わっている身ですので。
人脈作り目的で、因縁あるあの学院へ入学するまで自由です。
王太子妃教育?1度で終わりですわー。
元大国母ですのよ?元大国母の知識と教養と、気品を舐めるなでございますのことよ?
教育にあたった王妃様なんて「私よりしゅごい……」とか狼狽えて以降、ロクな言葉を話さないわ。
それでワタシの優秀さを恐れた王妃が、王太子の教育に力を入れるって話で、学院に入学するまで王太子の顔合わせせずとも良いとか言われました。
――先生の魂の記憶って、何度見ても飽きませんよ。勉強になるものばかりで。
ええい、恥ずかしいから!そんなに褒めないで!アイナへの気持ちで頑張った、後ろめたい成果なんだから!
――私のためじゃないですか……嬉しいです!
あ、ちがっ、くは……! あああ……もうっ!!
今やることだよ!話を戻すからね!?
――はーい♪
えーと、やること!そう、やること!!
私の趣味は何度も話してるよね?
それを今日やる為に、外に出たの!
――教会で回復魔法を無料にて施す、奉仕活動ですよね?
正解!お父様から許可をとって、魔法を使う練習の為に始めたんだけど、これが好評でね。
お金が無い人の為にやってるの。お金を持っているのにワタシを狙ってやってくるケチな人や、公爵令嬢だと知らずに養子として引き取ろうとするお馬鹿さんも時々やってくる。
色んな人と喋れてワタシは楽しい、みんなは回復魔法を受けられて助かる。みんなハッピー、最高でしょ?
……ちゃんとお金が払える人相手には、キッチリ請求してますよ?この活動は、生活が大変な人にだけするものだから。
このまま幸せな時間が過ぎ、はやくも決戦の時期。
入学直前のタイミングで、ワタシは王都別邸にとある平民の夫婦を呼び出した。
「公爵様、私達みたいな辺境のパン屋に、なんの御縁が……」
そう。前世のお父さんとお母さん。今世のクファーナが入学する晴れ舞台を、一緒に見ませんか?って公爵名義で誘ったの。
この場に同席するのは、ワタシの親達とワタシとメウー。
全員にまとめて言いたいことがあるから、と用件を伏せて集めました。
「このパンを食べて頂けませんか?」
メウーから両親に渡してもらい、ひと口パクリ。
みるみる内に変わって行く顔。
その顔は、疑惑に満ちていた。
「素材の質は違えど、私達が店で出しているパンとそっくりです。これをどこで……」
そりゃそうだ。
――だって、ねえ?
「ワタシが貴方達ふたりに習った味です」
そこから始まったカミングアウトの嵐。前世の話を中心にして、悲劇を少々。
パンが効いたのか、正直荒唐無稽に聞こえるアレやコレも、信じてくれる両親に感謝。
そして主にお父様へ悲劇が直撃。後妻をヤれなかった場合、どうなっていたか。ついでに本来のアイナが辿る人生。
結果、お父様轟沈。ひとりワタシに向かって謝り倒すその姿は、控えめに言って鬱陶しい。
ワタシがお父様の本当の娘を盗ってしまっているのに、それを謝りたかったのに、そんな空気じゃない。
メウーなんて表情を窺えない。さすが暗部の女。
両親の方は呆けてた。「ウチのクファーナが家の手伝いをする良い子で、最後には王妃?」とか言ってるけど、衝撃的過ぎるよね?
ワタシだって辺境伯様に、ちょっと良い繋がりができれば良いな~レベルで送り出された認識だったもの。そこから大変な人生の始まり始まり~って、もう嫌です。2度とやりたくありません。
…………ん?いやいや、ちょっと待って。
「今世のクファーナは、手伝いをしてなかったの?」
この質問で、瞬間的に正気へと戻りビクッと体が強張る両親。リラックスねリラ~ックスだよ?
「……はい『将来は辺境伯のお父様に引き取られて、学院に逆ハーレムを築いた上で王妃へとなるんだから、手伝っている暇があったら女を磨くのよ!』と常々言っていました」
…………なにそれ、もっと詳しく。
「たまに口走っていたんですよ、王太子様の名前やどこかの男性の名前を」
ここでワタシに遠慮したい話の続きがあるらしい。なんだかとても言い難そう。
だからこちらから先を促した。すると。
「あと、アイナ様をどう王太子様の婚約者と言う座から……その。蹴落とそうか、と」
……へえ。ずいぶん好戦的な。
おや、皆様?なんでワタシから距離を?どうしてメウーまで!?
その後男性達の名前を聞き出し、お父様に目配せ……って、いつの間にか復活しているわね。
「これは対策会議が必要かしら?」
なぜか学院の事を知っていた今世のクファーナ。
そして当時のワタシとは違う、俗過ぎる性格。
アイナに仕掛けるのならば、容赦はしないわよ?
そんな流れでこの場は終了。
両親にパンレシピの生涯使用料として多額のお金を押し付けて、とっとと解散です。
――ねえ先生?
大丈夫よ。元自分の体だろうと、アイナは絶対に守るから。
――うん、ありがとう。
はい。王都の貴族向け学院、入学おめでとうございます。
同学年で入学したワタシと王太子とクファーナ。
勝負はこの1年間です。
……なんて言うと思った?それより少し長いのよ。両親から訊いたその日から、こちとら策を巡らせたのよ。
ワタシには公爵領で行ってきた奉仕活動による名声があり、王太子との婚約者なんて肩書きも付いてる。
一応王家に王太子を含めた我等への監視を厳にせよと忠告したけど、どれ程の効果があるか。
それでね、入学した今世のクファーナをそれとなくワタシも監視したのだけれどね?
ただ一言。ク○ビッチ。
前世のワタシとはまるで別者。
同性にはマウントを取らなきゃ落ち着かない性格で、見目良い異性を前にすると馬鹿みたいに媚びる。
宣言していた男性方へ積極的にアプローチ。
それと聴いているこっちが愕然とする事が起きたの。
前世の学院で仲良くなった王太子へ言った言葉。それを一言一句間違えずに真似られた。
もちろん王太子は陥落。教育が厳しくなりすぎて、甘い言葉が相当嬉しかったのでしょうね。完全にクファーナの飼い犬状態。
それと王太子妃になってから良く喋るようになった、王太子の取り巻きから持ちかけられた相談でかけてあげた言葉も、そいつらに。以降一気に飼い犬化。
アイナと言う壁があって、始めて花開いた恋だと記憶していたのだけど、そんなのをお構い無しに逆ハーレム形成中。
愛され願望ばかりが強く、まるで狩った相手の首を飾りにして力を示す蛮族みたい。
あ、これも同性に向けた一種のマウントなのか。
クソビッ○恐るべし。
そしてある日のクファーナとすれ違った時に、ボソッと言われたわね。
「アタシが学院の女王ルートを歩む中、修道院でひとり寂しく死んでくれないかしら?」
なんて。
あいつ、それを知っててアイナを蹴落とせるのね。
――先生の記憶にあるクファーナと、今見てるクファーナ。全然結び付かないのだけど。
全くね。その通りだわ。
学院生活中の、普段のワタシ?
ワタシはまあ、アレに婚約者を盗られた令嬢様方を、ひとつにまとめあげています。肩書きと今までで得た名声で、令嬢達がみな従順。
周囲で派閥争いはおろか、小競り合いすら起きないって凄いわね。
その従ってくれる令嬢達に、お礼替わりとして強かな令嬢講座を開催。
婚約者が馬鹿をするなら、その後どう動くか?
クファーナから最後に選ばれるのはひとり。残りはどうなる?
ならば婚約者を盗った、放り投げた罪と責任と賠償は、どう落とし前をお付けになられるのでしょうね?……ケッケッケ。
より多く罪を被せたいなら、みんなで協力をして情報ネットワークも構築して記録とか集積して、細かいソレもコレも積み上げてしまいましょ。
嫉妬にかられての、不用意な行いは厳禁ですわよ♪
それに、アレ等へ仕掛ける罠もある。皆様協力して下さらないかしら?
聴講した令嬢方の目が妖しく輝く。
そうだそれでこそ貴族社会と言う荒波を、鼻唄混じりに泳いで渡りきる、たくましい令嬢だ!!
時は流れに流れ、遂に決戦である修了式。
「アイナ公爵令嬢!お前との婚約は破棄する!!」
「婚約破棄ですね?喜んでお受け致しますわ。しかしそれとは別に、理由を知りたいですわね?」
「第一は真実の愛に目覚め、クファーナを王太子妃としたいからだ!第二に貴様が行ったクファーナへの悪行!決して許せることではない!!」
馬鹿ですか?婚約者相手に堂々の浮気宣言とか。
御臨席の国王陛下と王妃様夫妻は大慌て。
なにせ目の前で馬鹿息子が、不義理を告白したばかり。
やって来ました修羅場、運命の分岐点。王太子は自身の自信に酔ったとしか思えない態度でワタシを責め立てます。
こんな場面だけど、今のアイナの立場から見るこの場面は、とても滑稽ね。
しかもこの場面を高いところからご覧なさい。男女で大きく別れて、まるで男衆と女衆が対決しているみたい。
ああ、クファーナは別よ。あいつは男衆のおまけだから。
でもね男衆にはワタシひとりを囲む大包囲網に見えているみたいなのよ。
ほら。ワタシを責める証言は全て令嬢方から。令嬢の皆様は、全てワタシの協力者なのに。
気付きなさいよ馬鹿な男衆。同じ場面の証言を騙る令嬢方の数を。多過ぎるって。その時別の場所で授業を受けていたはずの令嬢が、なんで証言できてるのよ。4・5人入れば一杯の場所で起きたトラブルを直接見たと騙る令嬢がなんで20人は居るのよ?
改めて証言を求められた令嬢の顔を良く御覧なさい?迫力あるとても素晴らしい笑顔じゃない。何も感じるものが無いのかしらね?
――そんな、呑気してる場合なの……よね?
場合なのよ。ほら見なさい。あいつらの真剣な顔。
ワタシとアイナの時は、アイナが色々やったから本当に断罪する場だったのよ。
でも今世のワタシ達は、何もしていない。なのに断罪しようとする。
――王太子が次期王に相応しいか、こちらから試験をさせてもらうとか王家から許可を、入学直後にもらって。
相手に合わせて仕込んだのよね~。
あいつらの周りで騒ぎが起こると、全部こちらの所為になるよう誘導して、偽の証言証拠も用意して。
――大国母先生から、今回の評価をどうぞ。
問題外。ワタシが悪いとする証言と証拠、全部こちらが令嬢方に協力をお願いしたものばかり。完全にダメだわ。
――えーと元自分自身と、前世において先生の伴侶だった人だけど、大丈夫?
あのクファーナはボツ。両親が頭をよぎるけど、アレは今後の世の為にならないわ。極刑か……苦しませて、最後は毒杯かしら?
それと大丈夫ってのが何を指すのかは知らないけれど、ここまで思慮浅い王太子だと、記憶の中の王太子が結び付かないのよ。
なんだったかな?
愛に対して愛で、努力には努力で返してくれた王太子は死んだ、もう居ない!
で良いのかな?今のコイツに愛しさなんて爪の垢程も感じないのよ。
しかしそれ以前に、無実の婚約者。しかも公爵令嬢を虚偽で蹴落とそうとする奴よ?これが罪と言わずして何になる。
――先生も、王太子達を蹴落とそうとしてるのですが……。
国王陛下公認の策謀です。罪にはなりません。
そもそも、冷静に確認すればワタシ達の簡単な罠なんて、まる分かりなのよ。
ワタシ達は護衛にずっと監視されていたのだから、そちらから確認をとれば令嬢全員で動いていたのはバレバレ。責任ある立場の者の思慮が浅いって、本当に罪ね。
――あ、はい。
「その証拠は、どなたが集めましたの?」
ひとしきりがなりたてた王太子達へ、切りの良い所を見計らって言葉を投げる。
「全員だ!こちらに味方してくれている、男達全員で集めた!」
「その証拠の真偽を改めましたの?」
「そんな必要は無い!全てクファーナの言葉通りで、証拠がそれを証明している!!」
クファーナの言葉に合わせて、偽の証拠をばら蒔きましたからね。大量に。
女ひとりにたぶらかされる、貴族の子息達……。この国の未来が危ないわよ?そんな気持ちを込めて、陛下ご夫妻をチラリ。
すると陛下はそっぽを向き、王妃は頭を抱える。夫妻は暗部からの報告で、真実を全て知っているのでしょう。
これであの後妻対策で作った借りで、結ばされた婚約が御破算。
むしろ無実の罪で罰そうとする王太子の醜態醜聞で、貸しへと反転。
この貸しで王家の誰かと、また婚約してくれって要求を拒否できるわね。
それで卒業後領地へ引っ込んで、適当なムコを見繕ってのんびり生活しましょうかね?
その為にも……もう良いのよね?王太子(達)から失態失言をはじめとした、マイナス要素で引き出せるものは、全部引き出したわよね?
陛下夫妻へ体を向ける。
「陛下」
これだけで通じるだろう。腹をくくれ。
一度目をつむり、そして席から起った陛下が、吠えた。
「衛兵!男達とクファーナ辺境伯令嬢の全員を捕らえよ!」
今日の王太子達の行動予測を事前にリークして、大増員した衛兵達が会場へと雪崩れ込む。
「うわっなにをするやめ……っ!!」
「ギャーー!」「うわーーー!」
「なんでワシまでーーーー!!」
あ、連れていかれた。
陛下も男ですからねぇ。
王妃が陛下もって小さく聞こえてたし、何か思惑があるのでしょう。
どう、アイナ。貴女の未来は完全に変わったわよ?
――夢でも見ているようです。
あはは。前世の王妃ほど権力が無くても、このくらいやれるのよ?
――そうですね。まあほとんど前世で培ったモノを言わせたやり方ですが。
辛辣ねぇ。
……それで?
――それで、とは?
貴女が表に出て、好き放題しても良いのよ?
――???
ワタシは偶然、貴女の体に入ってしまった魂なの、異物なの。
本来間借りしている側なの。
ワタシは本当の貴女ではないのよ?
――ああ。その答えなら、即答できます。
聴きましょう?
――一緒に生きて下さいませんか?
なんで?ワタシの心残りはもう無いし、この世から去る気でいたのに。
今の状態は霊体でとりついているイメージだし、多分だけどアンデッドの浄化魔法とかで昇天出来るわ。
――先生の生徒でいたいのです。
一生?
――はい。
物好きね。ワタシは貴女の敵よ?
――敵なら、ここまでしてくれませんよ。
ワタシがこの体に居座ったら、貴女自身では何一つ出来ないのよ?
――ずっと私の望み以上の事をしてくれているじゃないですか。
……本当の本当に、本音なの?
――本音で、一緒に居たいです。そして貴女の一生を見学して、次の人生への予習としたいのです。来世に記憶を引き継げなかったとしても、そうしたいと思ったのです。
もう来世の話……。それって私に命を捧げるのと同じ意味よ?
――ずっとそう言っているんですよ。
…………分かったわよ。
――やった!一生離れませんよ、アイナ先生♪
ああ……そうか。この姿で生を全うすると決めた以上、ワタシは名を捨てた亡霊ではなく、この子と同じアイナなのよね。
アイナ(いあいあさせたかっただけ)……大国母なんかよりも遥かに楽な生活を送り、趣味の本執筆とか楽しみまくりで悠々自適に人生を満喫中。 心の内側にいる本当のアイナとも良く交流している。 婚姻?……知らない子ですね。 まあ縁があればですよ、縁があれば。
メウー(ウメが由来)……予言じみた例の本で出来た負債(国の一方的な借りや感謝)を理由にして暗部を辞め、正式な侍女としてアイナ専属を貫く。 着任当時の塩対応ぶりは薄れ、気安い主従関係になってアイナとわちゃわちゃしている光景を良く見るようになる。
クファーナ(花子が由来)……色々やり過ぎて断頭台の露と消えかけるが、アイナの「簡単に死なせるのはつまらない」発言で救われる。 現在は罪と絵姿を国内公表後に平民落ち、故郷のパン屋に戻されたが、待っていたのは近隣住民からの冷たい目と冷たい世間話と村八分。そこは居場所など無い生き地獄にて発狂寸前。
どうやら元々のクファーナが逆行転生する際に、まぎれ込んだ何らかのエラーが原因で、転生者の魂が元々のクファーナの魂を押し退けて入り込んだと予想される。 そして弾き出されたクファーナの魂は、ずっと後悔していたアイナの下へ。
王太子他やらかし男子生徒……全員退学。 それぞれの家で処分を待つ。 まあ元王太子は今回の取り返しのつかないやらかしで、死罪相当の罰が決まっているのだが。 結果として学院は極端に男子比率が下がり女の園化して、新入生男子達は肩身が狭い。
令嬢方……アイナと手を組んだ結果、学院内で問答無用の上位カースト入り。 生き残った男子生徒は、ほとんど踏み台状態。 男子(とそれぞれの家)の立場が極めて低くなった為、令嬢側へ婚約者選びの選択権が完全に移った。 誰がどこの家と婚約するか、それで決して口には出せない争いが、令嬢方の中で行われているとか。
公爵……本来の流れでは国の暗部を借りずに、後妻とは自力のみで抵抗して失敗するはずだった。 アイナ(娘)とのスキンシップが楽しい。 最近は表情を見せるようになる。 よくアイナから心の痛いところを突かれて公爵が泣かされるが、それさえも生きているからこそと、とにかく楽しんでいる。 アイナが書き続けている本の元ネタを最近知り、慌てて国王へ預言書みたいなものとして報告。今さらではあるが。 ちなみにアイナしか子供が居ないため、後継者について考えねばならないが、そんな事より娘とのスキンシップだ! と問題を放り投げた。
パン屋の両親……あの公爵家の名前を宣伝に使って良い許可をもらい、それから好調。 しかも突然転がり込んだ多額の金の使い方に頭を悩ませている。 娘をどうするかも悩みの種だが、本当の父親である辺境伯に押し付けようかと思っている。 補足?だが、両親の内夫の方は、子連れにアタックして結婚した事になる御仁。
国王夫妻……学院の馬鹿騒ぎで心労に。断罪の場で王を衛兵に連れていかせたのは、駄目な息子が本当に駄目だと理解した王妃の理不尽な八つ当たり。 クファーナの罪状を公表=学院や貴族の醜態で、全国民から不信の声。 今回の件で改革の必要性が出てきたが、大鉈を振るう決意ができないでいる。 そしてとある本のシリーズに国内の犯罪がズラズラ載っているのを知って、某令嬢の力に本気でビビる。今さらではあるが。
衛兵……国王陛下を捕まえちゃった事を、陛下から怒られて叱られた。 王妃様の命令通りやったのに……とむくれています。
公爵の後妻……公爵家に入り込めたが、夜の生活に応じてくれない為、色々やった。 本来なら修道院送りになったアイナが死に、それから人生を諦めた公爵が子供をもうけて、家の完全乗っ取り終了。 公爵家の財を食い散らかして、お家没落一直線だった。 それが転生した元大国母様の指示で頓挫してしまい、残念でしたまたどーぞってな感じで人生終了。
ビクオド侍女……悲しいけどこいつ、実行犯なのよね。(意訳:既にこの世には居ません)