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王都へ繰り出します

 公爵で宰相のイライアス様のお出掛けなんて護衛がたくさん付くのかなって思ったけど、そんな事は無かった。むしろお忍びって感じで、私が着ているのは町に溶け込める動き易いワンピース。イライアス様も動き易そうな服装で、腰の剣はマントで隠してる。


「護衛、いなくて大丈夫なの?」


 ライオネル陛下のお陰で国が平和になったとは言っても、宰相様は色々危ないんじゃないかなって思って聞いたら、イライアス様は微笑んだ。


「シルヴィア様が貸してくれたのが付いているよ。」

「何処に?」

「見えない所。護衛が側に張り付いてたら、独り占めにならない。」


 冷たい美貌が甘く蕩けると、破壊力抜群です。鼻血出そう。


「ライオネルはふらふらしてたけど、私はあんまり詳しく無いんだよね。何処に行こうか?」

「一緒に歩けるだけで楽しい!嬉しいよ!」


 うきうきわくわくする。

 好きな人とのお出掛けは、場所なんて関係無いのかも。


「可愛いな、カトリオーナ。やはり部屋に篭るべきだったかな?」


 冷酷悪魔は何処に消えた?!

 だけどこれは、昨夜手放さなかったからだと思う。失わなくて、本当に良かった。


「手を」


 右掌を出されて、私はお手をする。犬の躾?って首を傾げてたら、イライアス様は噴き出して、声を立てて笑い始めた。


「君は犬?手を繋ぐんだよ。」


 それか!って納得したらもう手は握られてた。ドキドキふわふわする。

 手を引かれて、私達は並んで歩く。まるで恋人同士みたい。結婚してるけど、私達はやっと、知り合い始めた所だもんね。初めからやり直し。


「イライアス様、好きです。」

「私も、嫌いではない。」

「嬉しい!ありがとう!」


 優しく笑ってくれた。


「そういえば、官吏の服じゃないと落ち着いた色なんだね?」


 いつも会うのは朝と夜。彼は仕事用の官吏の制服を着ているの。若葉色で鮮やかだけど、瞳の色と合ってて似合うんだよね。


「あんな眩しい色、普段は着ないよ。ライオネルだって、あの色は嫌だって言って、自分だけ正装を王太子の時のままで濃緑にしたんだ。ずるいよね。」

「陛下は瞳が碧だから、若葉色よりもあの濃緑が似合ってると思う。」

「確かにそうかも。それに、あれはレバノーンの色だ。」


 レバノーン様は、革命の時に崩御された前王陛下。ライオネル陛下のお父様。茶色の髪に緑の瞳の怖い人だったみたい。父さんがよく、怖がってた。


「イライアス様は、今のも濃緑も似合いそう。」

「……カトリオーナは、何色が好き?」

「緑、かな?木の葉や草の色が好き。イライアス様は?」

「青かな。でも緑も好きになれそう。……君の瞳の色だから。」


 甘く、笑わないで欲しい。

 その笑顔、ずっと見ていたい。けど、見てると恥ずかしい。顔が熱くて扇いでいたら、繋いでた手をぎゅっとされた。


「イライアス様はお散歩が好き?」

「嫌いでも好きでもない。どうして?」

「王都の貴族は馬車で移動するイメージだったから、お散歩したくて歩きなのかなって。」


 今私達はお屋敷のある貴族の居住区をのんびり手を繋いで歩いてる。この辺りを歩くのって、使用人が多い。貴族は馬車か馬で駆け抜けて行く。


「…あいつらが、よくこうして歩いてたから、やって見たかった。」

「ライオネル陛下と王妃様?」

「そう。今は王子達が小さいから無理だけど、子供が産まれる前は二人で抜け出してふらふらしてた。」

「危なくないの?」


 そんな身分の人がふらふらするなんて、護衛ぞろぞろだったのかな?でも抜け出してって事はお忍び?

 悩む私の視線の先ではイライアス様が噴き出して笑う。


「あいつらを殺せる人間なんて、いるのかな?」

「どういう意味?」

「ライオネルは鬼みたいに強いし、王妃もとても強い。」

「あぁ!騎士百人抜きしちゃう人だもんね?」

「私も何度も二人に毒を混ぜて飲ませようとしてるけど、必ず勘付く。」


 え?冗談、だよね。

 思わず顔が引きつった。そんな私を瞳に映しているイライアス様は、楽しそう。


「ちょっとした悪戯だよ。」


 茶目っ気たっぷりにウィンクしてるけど、許されないでしょう!何してるの、私の旦那様?!


「そんな事をしてるから、行き遅れの私なんかを押し付けられたんじゃないの?」


 優しそうなライオネル陛下でも、そんな悪戯許す訳ないと思う。王妃様だってそうだ。普通怒り狂って斬首されててもおかしくない。


「たまに報復はされてるけど、君の事は違うよ。」

「でも私、誰ももらってくれなかった変わり者だよ?」

「……ロトがね、君を好きだって。動物達も君を好き。厳しい中で強く生きる君なら、私を受け入れるだろうって。」

「……そんな事、誰が?」

「シルヴィア様。……誰でも、幸せになる権利はあるって。君に賭けてみろって、言われた。」


 王妃様は、どんな人?

 どうして王妃様は私に賭けたの?

 動物達って何?

 会った事の無い王妃様は、どうして私を知っているの?

 色んな疑問が湧いた。だけど今、一番気になるのは…


「賭けてみて、どう?私は、イライアス様を幸せに出来る?」


 貴方の心を、私は救えますか?


「あの方は本当に不思議だよ。……幸せは、まだ良くわからない。だけど、君といるのは楽しいし、君は可愛いよ、カトリオーナ。」


 名前だけ耳元で囁くなんて反則。心臓がきゅうって苦しくて、嬉しくて、泣けてくる。


「泣き顔も可愛いなんて、何処まで私を参らせる気かな?」


 甘い甘い微笑みを浮かべたイライアス様の唇に、私の涙が掬い取られる。


「イライアス様だって、犬みたい。」

「……女の涙を舐めたいなんて、初めて思ったよ。君の犬なら、なっても良いかもね。」


 冷たい眼差しの悪魔みたいだったり、一人傷付いている悲しい顔をしていたり、優しく甘く笑ったり。

 貴方こそ不思議な人。

 だけれど彼が一人傷付いて泣くのなら、私は貴方を救い上げたい。私が貴方の涙を拭ってあげたいよ、イライアス様。

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