土を起こします
今日は今までで最高の目覚め!
昨夜はイライアス様と距離が少し近付いた。このまま頑張って行こう。今日はなんのお話しようかな。
うきうきしながら着替えて厨房で朝ごはんの用意。はりきったら作り過ぎちゃって、使用人のみんなにも食べてもらう事にした。
「お、おはよう、イライアス様!」
いつもの話し方、緊張する。
顔が赤くなってるかも。だけど会えたのが嬉しくて駆け寄ったら、彼が噴き出した。ぐりぐり頭を撫でられてる。楽しそうに、笑ってる。
「犬みたいだね。おはよう、カトリオーナ。」
「犬、お好きですか?」
「嫌いではないよ。」
「私も好き!実家には猫も犬もいたの!」
「猫か。欲しい?」
「飼っても良いの?」
首を傾げたら、彼は悩んでる。
あ、駄目だ。
「危ない、よね。」
「そうだね。猫は何処にでも入る。うちの庭は危ないね。……ごめん。」
「大丈夫!気にしないで?今日のご飯も美味しいよ!」
温かい内に食べて欲しくて、思わず手を引いた。怒るかなって思ったけど、優しい顔してる。良かった。
「緩んだ顔。」
ふって、私の前でイライアス様が笑う。
「だって、お話出来て、笑ってくれて、嬉しい!」
「………ごめんね。」
「何が?」
「結婚。私なんかで。」
今度は笑顔が悲しそう。
どうしてそんな顔をするの?知りたいよ。
「逆に聞きたいよ。どうして私だったの?」
「……王妃が選んだ。」
「それで?」
「気が付いたら話が進んでた。」
「だから、怒っていたの?」
「そう。でも君に辛く当たるのは、お門違いだったね。」
苦い笑みの彼。
望まれた訳では無かったんだ。だからこその、あの拒絶。
「それならどうして、今は優しくしてくれるの?」
結婚が嫌なんだったら、あのまま拒絶していれば良かったのに。そしたらその内、私も諦めたかも。……諦めなかったかもだけど。
「なんとなく。君と話すのは楽しいかなって。」
嬉しくて、顔がへにゃりってだらしなく緩む。
「私はイライアス様の妻です。もっと、貴方を知りたいです。」
「君は綺麗過ぎる。私には眩しいよ、カトリオーナ。」
「どういう意味?」
苦くて悲しい微笑み。
これはまだ、教えてもらえないんだ。
「今日はね、土を起こすの。土の準備が出来たら種を蒔くよ。楽しみにしててね?」
「……怪我には、気を付けて。」
「はい!」
ふわふわぽかぽか、なんだか幸せな気分。
お見送りの時はまた、いってきますって言ってくれた。
美味しい野菜で喜んでもらう為に、頑張って土に鍬を入れる。何度も、何度も繰り返して土を起こす。結構範囲が広いから、テオさんと二人で頑張る。
「テオさん、あんまり無理しないでね?」
「奥様もですよ。」
「私は大丈夫!慣れてるから!」
根がちゃんと栄養を取れるように、表面だけじゃなくてなるべく深く。今日はこの作業だけで精一杯。全部は終わらなくて、へとへとになりながら夕飯の支度。だけど実家でもやっていたから大丈夫!
「おかえりなさい、イライアス様!」
「……ただいま。」
目を細めて、優しい顔。
大丈夫。私、この人好き。愛せると思う。
「手、痛そうだね?」
荒れた汚い手。見られて、なんだか恥ずかしい。
咄嗟に隠して、笑って誤魔化す。
「ご飯、食べよう?」
洋服の裾をそっと引いたら、ついて来てくれた。なんだかまたふわふわする。嬉しくて、楽しいな。
「美味しい。」
「本当?嬉しい!」
昨夜から、顔がにこにこ緩みっ放し。
「そうだ!鷹がね、実家に来てたの。ロトって子。王妃様の鷹なの?」
「そうだよ。彼女が卵から孵した。孵化する時は大騒ぎだったよ。」
生まれる!って、王妃様が執務室に飛び込んで来て、陛下を拉致して応接室に閉じ篭っちゃったんだって。
「刷り込みをするんだって、しばらく彼女、籠を持ち歩いて片時も鷹を側から離そうとしなかったんだ。そうしたらライオネルの奴、鷹に妬いてさ。独占欲強過ぎだよね。」
陛下のお話をするイライアス様は、優しい顔になる。
「陛下とイライアス様は、仲良しなんだね?」
「仲は、悪くない。あいつは主で、放っておけない弟、かな。」
「イライアス様は、陛下のお話をする時は優しい顔になるよ。だからお話、聞いてるの楽しい。」
「君は変わってるね、カトリオーナ。畑は耕すし、料理もする。他の令嬢達は、思い出話よりも自分の美しさを褒められる方が好きだよ。」
「二十四まで嫁に行けなかった行き遅れだもん。普通だったら、もうとっくに何処かにもらわれてるよ。」
「なら、私は幸運かな?」
「そう思ってくれるの?」
さあねって、目を細めるイライアス様の笑顔が魅力的過ぎる。
心臓がバクバクして苦しい。
「私も、貴方で良かったです。」
照れるけど、伝えた。そうしたらイライアス様の顔が、泣き出しそうに見えた。
泣かないで…
思わず椅子から立って駆け寄って、私は彼の頭を抱き締めた。だけど拒絶はされなくて、イライアス様はじっとしてくれてる。
「大丈夫ですよ、イライアス様。」
ぎゅって、突然抱き付かれた。どうしたんだろうって混乱したけど、私はそのままじっとする。
「………何が、大丈夫なの?」
「私がいるから、大丈夫。悲しい事も、私が吹き飛ばしてあげる。元気が取り柄だから。」
「君って、変。」
少し、震えてる声と体。
私、この人の支えになりたいな。