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果物も良いですね

 三日目となると流石に広々としたベッドが気持ち良くなって来る。ごろんごろん寝返り打っても落ちない。実家は狭くて固いベッドだったから、こんなふかふかベッド初めて。

 存分に転がり回ってから着替えて厨房に顔を出す。

 みんなにご挨拶して、手を洗って食材の確認。


「畑を作る事を許して貰ったんです。メリルさんはなんの野菜が食べたい?」

「色々あれば便利ですよね、葉野菜に根菜…あと、果物があれば良いですね。旦那様は甘い物はあまりお好きではないですが、果物はお好きですよ。」

「なら果物も育てましょう!何が良いかしら?」

「ベリー系はお好きのようですね。」

「実家にはブルーベリーの木があったんです。それを時期になると摘んで、ジャムにするの。ケーキにしても、甘酸っぱくて美味しかったな。」


 考えれば考える程楽しくなる。

 イライアス様がお好きな果物が生ったら、甘さ控えめのデザートを作って差し上げるのも良いかもしれない。そうしたら、また笑ってくれるかな。


「果物、お好きですか?」


 朝食の席で聞いてみた。何が好きか、本人の口から聞きたい。


「嫌いではないです。」


 もっと素直に答えたら良いのに。可愛い人。


「実家にブルーベリーの木がありましたの。ブルーベリーはお好き?」

「嫌いではない。」

「ストロベリーは如何かしら?あれなら畑でも作れます。」

「良いんじゃないですか。」

「畑が上手くいったら、イライアス様のお好きな果物の木を育てるのも良いかしら?」

「そう欲張る物ではありません。一つ一つ、やりなさい。」

「そう致します。まずは簡単な物からですわね。」


 話し掛ければなんだかんだで答えてくれる。まだ無表情が多いけれど、これも、一つ一つ、少しずつ、彼の心を開いて行こう。


「貴女は、楽しそうですね。」


 ぽつりと、言われた。


「自分の手で何かを作るのって大好きですわ。イライアス様は、薬草を育てるのが楽しいのではなくて?」

「………始めは、楽しかったです。」

「今は?」

「今は…………仕事に、行きます。」


 何かしら?なんだか、辛そうな、悲しそうな顔だった気がする。

 聞きたい。知りたい。だけど、焦ったら駄目。


「もしお嫌でなければ、その内畑を見にいらして?」

「………考えておきます。」

「ふふっ。お仕事、頑張って下さい。いってらっしゃいませ。」

「………………………いってきます。」


 ぼそり、返って来たのは初めて。

 なんだか心がほんのり温かい。今日も畑仕事頑張っちゃおう!


「ミミズはここに入れてね。」


 テオさんに言われて、私は首を傾げる。その辺に放るのではなくて、どうして箱なんだろう?


「旦那様がね、鷹の餌にするって仰るんだよ。」

「イライアス様は鷹を飼ってるの?」

「お城で、王妃様の鷹らしいよ。」

「へぇー!鷹って、繁殖が難しいんじゃないのかな?」

「そうなのかい?三羽、いるみたいだよ。」


 三羽も!すごーい。

 あれ?そういえば…


「実家にも、よく鷹が飛んで来てた。ロトって名前で中々格好良い子。」


 兄さんに手紙を運んで来てた。

 餌を用意しておいて、私もよくあげたなぁ。


「それ、王妃様の鷹だよ。ロトと…キーラと、あとは…ヒューイ、だったかな?」

「そうなの?!なんでうちに?」

「さぁねぇ、そこまではわからんが、なんか用があったんだろうよ。」


 料理が得意で鷹を飼っている王妃様。絶世の美女だって聞いた事があるけど、どんな方なんだろう?イライアス様に聞いたら教えてくれるかな。

 今日で草むしりと石をどけるのは終了。明日は耕すから、また大変。

 泥を落として夕飯の支度をして、旦那様をお出迎え。

 ちゃんと帰って来てくれる。メリルさんに聞いたらお城に泊まる事も良くあって、こんなに連日帰って来るのは珍しいんだって。やっぱり、冷酷人間な訳じゃないのかも。


「………これ、嫌いではないです。」


 初めての言葉。嬉しくて顔が緩んじゃう。


「お気に召したのなら、また作りますわ。」

「毎日、作らなくとも良いんですよ。」

「好きでやっているんです。それとも、やはりメリルさんのお料理の方が美味しいですか?」


 お昼はいつもメリルさんに作ってもらう。それがもう、とっても美味しいの!朝と夜のご飯も手伝ってはもらってるけど、味付けは私。やっぱり、私のよりもメリルさんの美味しいご飯の方が良いよねって気付いて、ちょっとしょんぼり。


「ライオネルが喜んでた気持ち、少し理解した。」


 ぼそりと独り言。聞こえなくてもいいやって思ったんだろうけど、私は耳が良い。


「ライオネル陛下は何を喜ばれたんですの?」


 首を傾げて聞いてみたら、途端に不機嫌顔。さっきは少し優しい顔になってたのに、残念。


「………王妃の手料理だよ。」

「あら!それって、わたくしの手料理、喜んで下さってるって事ですの?」

「別に、そうとは言っていないよ。」


 ほんと、素直じゃない。

 不機嫌顔は、照れて拗ねているのかもしれない。不器用な人なのかな。可愛いな。もっと、色んな表情が見たいな。


「そういえば、王妃様ってどんな方ですか?わたくしは陛下には一度お会いしましたが、領地から出た事が無いのでよく存じ上げませんの。」


 あれ?今度のは完全に不機嫌な顔だ。仲良くは無いって言ってたし、あんまり聞いたらいけなかったかな?


「変な女だ。君みたい。」

「わたくしと一緒にしては失礼ではなくて?絶世の美女だと伺いましたわ。」

「黙っていれば美人だよ。」

「黙っていなければ?」

「男みたいかな。腕っぷし強いしね。あの人、騎士百人抜きしたんだよ。」


 口調が、砕けてる。

 なんだか嬉しい!


「騎士百人抜きって、戦ったって事ですよね?」

「そう。ライオネルが止めなければ、多分もっといってた。」

「陛下が止めたんですの?」

「流石にライオネルの方が強かったみたい。捕まって悔しそうだったのが笑えた。今度は疲れていない時に手合わせしろって騒いでたけど、それでもあいつが本気になったら勝てないだろうね。」

「陛下はお強いんですのね。」

「その話し方」


 突然、指を刺された。

 びっくりきょとんとしていたら、イライアス様は苦笑を浮かべる。


「いつもの話し方で良いよ。私も、家でまで丁寧な話し方は疲れた。」

「良いの?」


 答えの代わりに肩を竦められた。表情も無表情じゃないし、なんだか一気に距離が近付いたのかな?


「もっと、陛下と王妃様のお話し、聞きたい!」

「それはまた今度。毎日顔を合わせてるんだ。家でまであいつらを思い出したくない。」


 残念。でもまた今度って…今度があるんだ。拒絶は終わりかな?もっと、近付いても良いのかな?


「イライアス様、あの…今日は…?」

「自室で眠る。」

「そう、ですか…」


 まだ、ここまでみたい。

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