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畑を作ります

 二日目も元気一杯すっきりした目覚めの朝です。

 侍女もいるみたいだけど、いつまでもベッドになんていられない。さっさと起き出して、身支度を整えたら厨房に向かう。昨日一日で厨房の人達とは仲良くなっちゃった。


「おはよう、今日もお邪魔します!」

「おはようございます、奥様。今日は何を作るんですか?」

「材料を見させて下さい。」


 料理長のメリルさんはふくよかなおばさん。旦那様が子供の時からこのお屋敷に勤めているんだって。モールスリーもそうなのかと思ったら、彼は違うみたい。旦那様が家督を継ぐ時に新しく来た人なんだって。


「ここのお屋敷、畑を作らないんですか?採れたての方が美味しいのに?」

「旦那様の薬草園ならありますけどね、野菜は買えるから。」

「薬草園?旦那様のご趣味かしら?」

「子供の頃からお好きみたいですよ。」


 土いじりが好きなんて共通の趣味かもしれない。後で聞いてみようってわくわくしながら、私は厨房を動き回って朝食の支度をした。


「今朝もですか?」


 またまた呆れたような大きな溜息。新婚で旦那様にここまで溜息を吐かれるだなんて、中々無いんじゃないかしら。


「昨日"不味くない"と仰って頂けたので、今日も腕によりを掛けましたの。さぁ召し上がって?」

「……美味しいとは、言っていません。」

「まぁ、ではもっと頑張るので好みのお味を教えて下さいませ。」


 メリルさんからはお墨付きもらえてるし、旦那様の好みの味だって聞いて作ってる。だけど本人の口から聞きたいじゃない。そう思って聞いたけど、またもや無視。


「そういえば旦那様は薬草園をお持ちと聞きましたわ。ご趣味ですの?」

「毒草もあります。そこも触らないように。」


 思わず、笑顔が引きつった。

 秘密の部屋に毒草もある薬草園。この人、危ない人かも。昨夜殺すとかなんとか言ってたのは、毒でって事かしら。


「カトリオーナ」

「なんでしょう?」

「詮索は身を滅ぼしますよ。」


 にやりと勝ち誇った顔。

 そんな事言われてもね、こちとらもう逃げられないのよ!

 冷酷な上に危険人物の貴方に嫁いでしまったんだから、全部今さらだわ!

 父さんも兄さんも人が良いからきっとこの悪魔のような男に騙されたんだわ。玉の輿に目が眩むべきじゃなかった…宰相なんて仕事してる人だもの、良い人だと良いなとか、夢見てた過去の自分をぶん殴ってやりたい!


「詮索は致しません。その代わりと言ってはなんですが、庭の一角で畑を作っても構いませんか?」

「畑?」

「はい。やはり野菜は採れたてが一番です。お恥ずかしながら実家では領民に混ざって畑仕事をしておりましたの。息抜きに、畑仕事をしたく存じます。」


 拳で口元を隠して、彼が笑った。初めて、悪魔が笑った。


「イライアス様も笑えますのね?」

「……当たり前です。私をなんだと?」

「初夜に妻を放置する冷酷な悪魔かと思っておりました。趣味が薬草のみならず毒草作りだなんて、変人かしら?」

「畑仕事が趣味の人に言われたくありませんね。」

「あら、では変な夫婦ね、わたくし達?」

「そのようだね。」


 やだ、笑うと可愛い。

 くくくって、喉の奥で笑う彼は、素早く食事を済ませて立ち上がる。それを私は慌てて追いかけて、出掛ける彼の世話を焼く。


「畑、好きにして良いですよ。ただ、薬草園は危険なので近付かないように。そこから離れた場所で、好きなだけ野菜を作って下さい。」

「ありがとうございます!美味しいお野菜、食べさせて差し上げますわ。」

「期待はしませんが、食べてあげない事も無いです。」


 素直じゃない。

 旦那様を見送って、私はまた少し楽しい気分になる。まずは畑を耕そう!

 庭師のテオさんに相談して、庭の一角を耕す許可を得た。テオさんも手伝ってくれるみたい。

 納屋には農具があった。少し手入れすれば使えそう。野菜の苗や種は、モールスリーが手配してくれる事になった。


「奥様は変わった人だね?」

「あらテオさん、旦那様の方が変わってないかしら?政略結婚とは言っても、私に冷たいと思うの!」

「まぁ、イライアス様は元々結婚を嫌がっておいでだったからね。陛下から熱心に勧められたらしいよ。」

「そうなの?それで、どうして私だったのかしら?」

「さぁね。そこまでは知らんなぁ。」


 庭の畑にする一角の草むしりをしながらテオさんと世間話。

 実家は貧乏だし、私は令嬢らしくないって貴族の中では有名だったはず。それなのに縁談が来たからなんでだろうとは思ったけれど、それが陛下が勧めたっていうのが気になった。父さんか兄さん、陛下と何か関わりがあったのかな。

 我が国のライオネル陛下はとても素敵な美丈夫。金茶色の髪は輝くようだし、宝石みたいな碧い瞳も優しいの。即位したばかりの頃に視察でうちの領地にもいらして、私とも言葉を交わして下さった。甘く柔らかな声は耳に心地好く、いつまででも聞いていたいくらい。その声が紡ぐのも民を想っての言葉ばかり。あんな立派な方の部下なのだから、イライアス様だってきっと民想いの優しい方に違いないって期待して嫁いで来た。

 だけれど初夜は最悪。

 それでもまだ、彼の全部を知った訳じゃない。公爵夫人が畑を耕したいとか言うのを許してくれたんだもの、希望は捨ててはいけないわよね!

 草むしりの途中で日が暮れて、私は汚れを落としてから夕食の支度に向かう。

 旦那様は夕飯の時間に帰って来るのか不安だったけど、ちゃんと今日も帰って来てくれた。

 やっぱり悪い人では無いのかも。


「メリルから聞いて、旦那様が好きな蕪を使ったスープを作りました。畑にも蕪を植えようかと思います。他に食べたいお野菜はございますか?」

「…………トマトは嫌です。」

「嫌いなのですか?」

「あれは、不味い。」

「でも健康に良いんですのよ?トマトのソースは平気でしょう?」

「まぁ、そうですね。」

「ではトマトも作りましょう。」

「嫌がらせですか?」

「いいえ。新鮮なトマトでソースを作っても美味しいんですの。それに、新鮮な物でしたらイライアス様も食べられるかもしれませんわ。」

「絶対食べません。」


 少し拗ねた顔、子供みたい。

 貴方の好きな物、嫌いな物。知りたいです。少しずつ、知り合って行きたいです、イライアス様。

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