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手に入れたのは

 イライアス様とライオネル陛下がお仕事に行ってしまって、私は王妃様と王子達のお相手をする事になった。

 王妃様のお腹は膨らみ始めたばかりくらい。派手に動いたらいけない時期で辛いとお嘆きになっている。


「王子殿下お二人の乳母はいないんですか?」

「あぁ。自分の乳で育てている。手伝ってはもらうけれど、自分の手で育てたい。」

「公務もこなしていては、大変ではないですか?」

「大変だが、普通の事だろう?」

「……そうですね。」


 この方も、貴族らしくない方みたい。

 貴族や王族は普通、乳母が子供を育てる。母親が子供に会うのなんて、一日の内ほんの少しっていうのが普通なの。両親は仕事や他の家との交流で忙しくて、子供もその内勉強で忙しくなる。貧乏だった我が家は、兄さんも私も、母さんのお乳で育った。ずっと家族一緒にいるから仲良し。そういうのは貴族じゃなくて庶民の生活だけど、すごく幸せだった。


「普通の幸せを知っている貴女なら、安心だな。」


 一歳のダスティン様は、優しく微笑む王妃様の膝の上で眠ってしまった。フェリクス様は私の膝の上。くりくりお目々が可愛くて、将来はライオネル陛下にそっくりな色男になりそう。

 お話してみた王妃様は、威張らない気さくな方だった。話題も、街の話が多い。本当にお二人でよく街に出ていて、こっそり混ざって働いたりもしていたみたい。


「王妃様って呼ばれるよりも名が良いな。シルヴィア。ヴィーでも良いよ。」

「王妃様をあだ名で呼ぶなんて出来ません。でも、シルヴィア様と呼ばせてもらいますね。」

「それで良いよ。子供達の事も、自分が偉いと勘違いさせたく無いんだ。だからどうか、普通の子供として接して欲しい。」

「わかりました。」

「ありがとう、助かる。」


 ほっとしたように笑うシルヴィア様は、良いお母さんをしているみたい。

 シルヴィア様とお話をしながら遊んでいたら、フェリクスも寝てしまった。


「ヴィー、体は大丈夫ですか?」


 話は尽きなくて、気が付いたら暗くなっていた。仕事を終えたライオネル陛下がシルヴィア様を抱き締めて、キスの雨を降らせてる。それを受けてるシルヴィア様はとっても嬉しそう。


「羨ましそうだね、カトリオーナ?」

「イライアス様。お二人は本当に仲睦まじくて、幸せそうで、見ているこちらまで幸せになるなって思ってたの。」

「こんなの毎日見せられたら、憧れてしまうよね。」

「そうだね。でも今は、イライアス様には私がいるよ。」


 見上げたイライアス様は破顔して、優しく抱き締めてくれた。

 幸せが一杯で、胸があったかく満たされる。こんな国王夫妻だから、国がどんどん住み良く変わって行ってるんだって、わかった。

 夕飯は、子供達も一緒に食べた。いつもはシルヴィア様と王太后様の手作りなんだって。でも今日は、私とイライアス様がいるからお城のご飯。お城の料理人のご飯はとっても美味しいけれど、やっぱり子供は、お母さんが作った物を食べて育った方が良いって、私も思う。

 ライオネル様の膝の上にはフェリクスが、シルヴィア様の膝の上にはダスティンがいてご飯を食べている。お二人は優しいお父さんとお母さんだ。

 そうして幸せのお裾分けをしてもらいながらご飯を食べて、私達も我が家へと帰る。


「王妃はどうだった?」


 帰りの馬車で聞かれて、私は満面の笑みで答えた。


「やっぱり素敵な人だった。お友達になったよ!また遊びに来てって言われた。」

「ルミナリエ様も君に会いたがっていたから、その内姿を見せると思うよ。」

「王太后様ともお知り合いになるなんて、緊張しちゃうよ。」

「シルヴィア様みたいな人だから大丈夫。仕事以外ではみんな、普通だよ。」

「仕事では?」

「凛々しく、王族らしくなる。使い分けが上手くて舌を巻くよ。」


 シルヴィア様は、普通でも凛々しいかも。何処か紳士的で、女性らしい柔らかさもある。でも女性らしさが前面に出るのは、ライオネル陛下がお側にいる時な気がする。

 お家に着いたら湯浴みをした。イライアス様はもう、当然のように夫婦の寝室に来てくれる。広いベッドに一人より、愛する旦那様とくっついて眠れる方が幸せ。




 テオさんや他の人達にも手伝ってもらって、畑は完成した。お城の王太后様が住んでる離宮にも畑があって、シルヴィア様の紹介で王太后様とも会わせてもらって畑仕事の情報交換仲間になっちゃった。

 シルヴィア様とはすっかりお友達。初めて会った時にお腹の中にいた子は、彼女にそっくりな、ルビーの瞳の女の子だった。どうして女の子ってわかったのか聞いたら、動物達に教えてもらったんだって。シルヴィア様はたまに、不思議な事を言って茶目っ気のある笑みを見せる。国王夫妻は、毎日幸せそうだ。

 そして我が家も…


「カトリオーナ、そんなお腹で畑仕事なんて駄目だ。」


 産み月の私を心配するイライアス様。彼って結構過保護みたい。


「ここまで大きくなったら、むしろ動いて早く出て来てもらわないと。」

「だけど、君に何かあれば私は生きて行けない…」

「大丈夫だよ、イライアス様。私、体強いし、体力もあるもの。元気な子供を産むよ。」


 くしゃりと笑った彼は、私をそっと抱き締める。


「私は、その言葉に弱いんだよね。」

「どの言葉?」

「"大丈夫ですよ、イライアス"。あいつもよく言ってた。」

「ライオネル陛下?」

「そう。私が不安になっているのを察すると、必ず言うんだ。優しく微笑んで、さ。」

「大丈夫だよ、イライアス様。」


 微笑んで、私は彼の唇にキスをする。

 大きくなった私のお腹の中には新しい命。私とイライアス様の、愛しい我が子。

 平和になったこの国で、幸せ一杯に、育ててあげるからね。

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