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一人は終わりです

 あったかい、何かが私を包んでる。

 あぁなんだろう?とっても安心して、だけど胸が高鳴る香りがする。

 頬に当たるのはいつものシーツじゃなくて、すべすべしてあったかい…人肌?


「おはよう、私の可愛い奥さん。」


 至近距離のとろとろに甘い笑顔!朝から出血多量で死んじゃう!


「その顔も堪らないな。また鳴かせてあげようか、可愛いらしい声で?」

「あ、朝はいや……おはよう、イライアス様。」


 そう、私達、本当の夫婦になりました。

 昨日街を歩き回って、お屋敷に戻ってメリルさんのご飯を食べたの。それで、一緒に寝てくれるってなって、夫婦の寝室で、初夜をやり直した。

 イライアス様は、男の人なのに綺麗で…官吏のお仕事をしている方なのに体も引き締まってて、肌も触り心地が良い。

 なんだか、すごく大切そうに、愛してもらえたの。だから、すごく幸せ。


「朝食はここに運んでもらうよ。畑も、テオがやってくれてる。だからもう少し…独り占めさせてよ?」

「でも、テオさんおじいちゃんなのに…一人は大変だよ。」

「大丈夫。若いのも手伝ってる。」


 いつの間にそんな手配をしてくれたんだろう?でも確かに、テオさんに任せておけば畑は大丈夫だとは思う。だけど…


「明るいのは嫌…見ちゃ、駄目……」


 イライアス様が綺麗過ぎて私の貧相さが際立ってしまう!ずっと貧乏だったから痩せぎすだし…肌だって、他の令嬢方みたいに入念な手入れとかもしてないから恥ずかしい。


「昨夜、全部見たよ?」

「そういう事を言わない!」

「もう少し肉を付けた方が子を産むのに良いだろうけど、これはこれで色っぽい。」


 言いながら、唇と手が肌を滑る。夫婦だし…流されても、良いのかなぁ?だって、イライアス様に触れられるのはとても幸せ…


「イライアス様、私もこのまま、溶け合ってしまいたいけど…お仕事……」

「今日も休み。」

「う、嘘だ。」


 睨んだら、彼は顔を綻ばせて笑った。


「嘘じゃないよ。本当はさ、結婚式の後は休みをくれてたんだ。だけどシルヴィア様の思惑通りになってやるかって思ってさ、仕事行ったの。その分の休みをもらうんだよ。新婚だから、ね?」

「ねって、可愛いけど!」

「一回だけ、ね?」

「わざと可愛くしても駄目!」


 抵抗してはみたけど、私だって嫌じゃないもの。

 イライアス様の可愛い笑顔に弱いんだもの。

 結局一回では終わらなくて…声が枯れてぐったりするまで、続けられてしまった。



「ライオネル達を見てたらさ、実は憧れてたんだ。…跡継ぎは必要だけど、女の子も良いよね?」


 うっとり、私のお腹を撫でる旦那様。まだそんなに早く子は出来ません!


「お仕事、いつまでお休み?」

「七日間。」

「そんなに?!」

「うん。だけど明日は行くよ。そんなに空けられない。」

「そう、だよね…」

「あぁ可愛いな。そんなにがっかりしないで?」


 ベッドの上で朝ごはんを食べるなんて贅沢な経験をさせてもらって、今もまだベッドの上。お互いに服は着ているけど、私、立てないの。ご飯もやたら蕩けた顔で食べさせてくれて、本当、悪魔が消えて天使になっちゃった。


「今晩も可愛がってあげるから、ね?」

「程々が良いです…」

「最悪の初夜のやり直しだからね、程々は駄目だ。塗り替える。」

「嬉しいけど…体が……」

「全部、私が世話してあげる。」


 楽しそう。キラッキラしてる!

 なんにも言えなくなって、赤い顔で黙ってたらキスの雨が降って来た。本当、悪魔は何処に消えましたか…?


「こんなに幸せって…良いのかな?」

「良いんだよ。王妃様だって、言ってたんでしょう?」


 聞いたら、ぎゅうって、抱き締められた。


「ライオネルもさ、シルヴィア様を手に入れるの、悩んだらしい。私達は血に塗れている。人の生を奪ってでも事を為した。資格が無いんだ。……だけど、憧れてしまった。」


 私の肩に顔を伏せたイライアス様の髪を、私はそっと撫でる。

 彼の旋毛に口付けて、優しく見えるように、意識して笑う。


「人はね、みんな、幸せになる為に生まれるんだよ。」


 苦しい事も、辛い事も、悲しい事も、この世の中にはたくさん溢れてる。だけど、それでもみんな、幸せになる為に足掻いてる。自分の幸せを、見つける為に生きてるんだって、私は思うんだ。


「愛しいって…愛してるって…こんな気持ちかな?」

「わからないけど、多分そう。私、イライアス様を愛してる。」

「ありがとう、カトリオーナ。私もだ。愛してる。君で…良かった…」


 そうして私達はしばらく、ベッドの上で抱き締め合ってた。

 二人きりの部屋で、たくさんお話をした。メラーズ侯爵領の事、私の家族の事、領地のみんなの事。イライアス様は、ライオネル陛下との思い出話。あとは王妃様の事。王妃様が王妃に向いてないと判断したら、初めは排除するつもりだったとか、怖い事を笑顔で言ってた。だけど王妃様は、ライオネル陛下の奥さんとしても、王妃としても、ぴったりの人だったって。良かったって、イライアス様は優しく笑った。


「仲の良い夫婦って物を私は知らないんだ。だけどあいつら見ていたら、あれがそうなのかなって思った。」

「会ってみたいな。いつか、会えるかな?」

「いつもならシルヴィア様の方から会いに来てるだろうね。あまり動けないから退屈だってボヤいてるし、明日一緒に行く?」

「良いの?」

「うん。手続きしておく。それに、この縁談の用意をしたのはシルヴィア様だ。君に会いたがってると思う。」


 お城って…緊張しちゃう。

 思わず口籠った私に、イライアス様は優しく笑って頭を撫でてくれた。


「緊張しなくて良いよ。変わり者だから、きっと驚く。」

「んー、でもあのロトのお母さんだし、ライオネル陛下の奥さんでしょう?きっと素敵な人だと思う!」

「……会って確かめてごらん?」


 優しいキス。

 動けるようになってから、二人で庭に出た。

 手を繋いで、ゆっくりお散歩。

 畑の様子を見てテオさん達にお礼を言ってから、薬草園を見せてもらった。そこは、薬になる薬草がたくさんだった。毒草も、調合の仕方で薬になる物なんだって。

 イライアス様は医術の勉強をして、そこで作った薬草で薬を作って、お金の無い王都の街の人達に渡していたらしい。だけどそれではきりが無くて…自分一人では何も出来ないって、打ちのめされた事もあったみたい。それでも諦めきれなくて、たくさん、たくさん勉強して、ライオネル陛下に会って、今、人々が笑顔になったのが嬉しくて堪らないって…とても優しく、笑ってた。

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