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お嬢様と先生の楽しく学ぼうシリーズ

スーパーで鏡餅を見ながらスノウマンの童話を語る単元

作者: halsan

 雪も落ち着き、すっかりと白く染まった田舎の町並み。

 訪れた近所のスーパーで、お嬢さまが舌打ちをする。


「ちっ、これがあったわね」

「どうしたのですか、お嬢さま」

「イブの日に雪だるまを飾りたいねと私、先生に言ったよね」

「雪はまだ降っていなかったから無理でしたけどね」


 いつもの会話が始まる。


「あのとき、これがスーパーで売っていれば代用できたと思わない? もっと早くから売るべきだわ」


 そう言ってお嬢さまが手にするのはお正月用の鏡餅。


「これに目と鼻をつけて、頭のみかんを外したら、ちょっと重力に負けちゃった根性なしの雪だるまの出来上がりだわ」

「確かに雪だるまに見えなくもないですね」

「ね、そうでしょ。時代は3Rよ! リユースリディースリサイクルよ! 雪だるまは鏡餅にリユースされるべきだわ」

「順番が逆ですよ、お嬢さま」

「いいのよそんな些細な事は。このスーパーも失礼よね。リサイクルコーナーとかゴミは分別してくださいとか偉そうな能書きを店頭にずらずら並べて置きながら、クリスマス前に鏡餅を売らないなんて!」


ここまで具体的な展開をされると、受ける側もそれなりに面倒くさい例を挙げていかなければならない。


「店にも売れるときに売れるものをという営業努力がありますからね。皆がイブで浮かれている時に鏡餅を店頭に並べるのは悪手ですよ。だいたいお嬢さまだってイブの日の買い物の時にお酒コーナーで私が『お正月のお屠蘇の銘柄は何にしましょうか』とお嬢さまに尋ねたら『今日は今晩先生が私を酔わせてもてあそぶためのシャンパンをどれにするのか選ぶのに全力で取り組め』とおっしゃったじゃないですか」


心の叫びである。

しかし現実はこんなもの。


「忘れたわ」

「相変わらず都合のいいおつむですね」


 この一言で今までの話題は終了である。


「ところで、なんで雪だるまっていうのかしら」

「それはまさしく雪達磨、雪で作っただるまさまだからですよ」

「でも、英語で言うとスノウマンだよね」

「そうですね」

「それなら日本語なら『雪男』でしょ?」

「違いますよ。別に雪だるまは英語圏から入ってきたものではないですから、無理に英語を訳す必要はありません」

「そうなの?」

「そうですよ。大体日本語で『雪男』と言ったら、時々山奥で目撃例が報告される未確認生命体の事になってしまいます」

「そうなんだ」

「だから日本の雪達磨は、本来腕が生えていないんです。一方、カナダとかのスノウマンは枝で腕を飾ったりしますね」

「へー。そうなんだ」

「海外のスノウマンでしたら、お嬢さまの好きな恋愛カテゴリーの童話もありますよ」

「ホモ?」

「違います。せめて同性愛と言いませんか?」

「ホモじゃないならノンケの不幸話かしら」

「何でそんなに嗜好が偏るんですか。まあ同じようなものですけど」

「どんな話なの?」

「雪だるまがストーブに恋するお話です」

「何そのやおいさまたちにもハードル高い設定は?」

「やおいじゃないですよ。ちゃんとした有名作家の童話です。アンデルセンってご存じですか?」

「知ってるわ。売り物のマッチを生贄に死んだおばあちゃんを精霊召喚して天界に逃げて父親を破産させた極道少女の話を書いた人でしょ?」

「ところどころ違います。というか、どこで読んだんですかその物語を」

「薄い本」

「そういうのではなくて、ちゃんとした本で読んでくださいね」

「で、何で雪だるまがよりによってストーブに惚れちゃったの? やっぱり真っ赤に燃え狂う情熱に熱狂ファナティックしちゃったのかしら」

「なぜだかわからないけど雪だるまはストーブに恋をしてしまい、離れられなくなってしまったのです。そしてある朝、とうとう雪だるまは溶けて消えてしまったのです」

「ちょっと雪だるまに同情するわね。そこはストーブ、火を消しておけよって思うわよね」

「そんなことしたら住人全員凍死です。で、雪だるまの溶けた後にあるものが残されていました」

「ダイイングメッセージ?」

「何で推理小説にならにゃいかんのですか。その雪だるまは、本来ストーブで使われる『火かき棒』を芯にして、子供たちが作ったのです。きっと火かき棒はストーブのもとに戻りたかったのでしょうね。そういうほろっと悲しい童話です」

 するとお嬢さまが黙りこくってしまった。思いつめた表情にちょっと心配する先生。

「火かき棒って、ストーブの中をかき回す棒よね」

「そうですよ」

「あらやだ。ストーブと火かき棒のBLってありかも」

「そっちの方を真剣に考えていたのですね。もう好きにしてください」

 先生はため息を付いた。

 

 その晩は昨夜の残りのチキンをご飯に載せ、海苔を散りばめた「ローストチキン丼」で簡単に夕飯を済ませた二人。 

 するとお嬢さまが玄関の靴箱の上でなにやらごそごそとやっている。

「どうしたのですか? お嬢さま」

「何でもないわ。あ・な・た」


 玄関先には二組の鏡餅が飾られる。夕食で使った海苔でこしらえたお目目とお口付きで。

 そしてもう一つ。小さな小さな雪だるまのお人形が2つの鏡餅の間にちょこんと飾られた。

 お嬢さまは寝入った先生の耳元で囁いた。

「私をかき回す火かき棒さま。クリスマスには間に合わなかったけど、お年玉にとっておくわね」


 翌年、新年早々先生とお嬢様のパパが狂喜乱舞するのはまた別のお話。

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