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それから二年の月日がたった。
相変わらず二人の仲は睦まじく、夫婦というよりも、恋人同士のようであった。
ある日の午後、文吾は針仕事をしている雪乃を眺めながら言った。
「雪乃。赤ん坊、どっかからもらってこようか?」
「え?」
雪乃の手が止まる。表情も曇る。
「私、諦めてませんから。母上様のお話だと、子種の件、信用できないそうじゃありませんか。」
「だけどよ、あんだけ女遊びしていながら誰も孕まなかったんだぞ。」
文吾は眉を顰めた。
その時、雪乃が意外なことを言い出した。
「実は・・・。月のものが遅れているんですの。もしかしたら・・・。お医者に掛かろうと思っているところなんです。月のものが遅れるなんてこと、今までなかったんです。だから、きっと・・・。」
月のもののある時を除いて、毎晩睦合っている二人であった。文吾もひと月以上拒まれていないことに気づいていた。
「まぁ、たまたまだとは思うが、一遍診てもらうがいいさ。」
往診を頼むと、医者は言った。
「奥様、おめでとうございます。子を身ごもっておられますぞ。」
「本当ですか?」
雪乃は喜色満面で聞いた。
「本当ですとも。」
文吾は複雑な表情で二人のやり取りを聞いていた。雪乃は文吾のその表情を見て、悲しげな顔をした。
医者が帰った後、たまらず切り出す。
「喜んではくださいませんの?」
文吾は慌てて、
「いや、そんなことはねぇ。そりゃ嬉しいさ。」
雪乃が自分を惚れぬいていることはわかっている。不義密通などするはずがない。
しかし、子種がないと信じ切っていただけに、実感がわかなかった。
だが、日に日に大きくなっていく雪乃の腹を見ていると、次第に実感せずにはいられなかった。
十月十日たち、雪乃は元気な男の子を産んだ。
お勝は大喜びで、
「お前の赤ん坊のころにそっくりだよ」
と、目を細めている。
赤ん坊は長一郎と名付けられた。
すくすくと成長し、3歳になった。長一郎は大人びた口調で話す子供だ。
「父上、わたしも早く剣の修業がしたいのです。」
ある日、そう言って文吾に頼み込んだ。
「まだ早いだろう。後せいぜい二年ってとこだな。」
「父上のようになりたいのです。」
「おめぇなら大丈夫だ。なれるさ。」
そんな子供らしくないところを見て、文吾は長一郎が自分の子であると確信した。
自分もそうだったからである。
雪乃はそんな二人をほほえましく見て、
「文吾さま、ちょっと。」
何か仔細ありげに声をかけた。
「なんだ?」
「わたくし、子を身ごもりましたの。」
やっと終わらせられました。
初めてのことで、大変だったけど、終わってよかったです。
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