7話 だ・・・・だって・・・
【7話】だ・・・・だって・・・
花はホームルームが始まる寸前に席についた。そんな花をふうりは、おとなしい性格からか、特に素振りも声もかけるわけでもなく、ただ、目だけで花をみつめていた。花は、その目に答えるように笑顔で≪子猫は大丈夫だよ≫と、伝えるのだった。
4時限目の授業も終わり、給食の時間になったので、グループごとに机を固めて、食事の用意をする。そんな時にも話をしているのは、二ノ宮麗とヒロシだった。
花は、どうして麗くんが、あのヒロシなんかと仲が良いのか理解できなかった。そう考えていた時に、同じグループのふうりちゃんが、小さい声で話しかけてきた。
「花ちゃん、今日の夕方からね。麗くんの不思議サークルがやるんだって。」
花は、ふうりの2倍ぐらいの声で、聞き返した。
「え。そうなの?」
そして、斜め前にいるヒロシに、聞いた。その後ろにはヒロシと話をしている麗もいた。
「ねー今日、不思議サークルやるの?」
「お・・・おー。やるぞ。なー?麗」
前の女子集団イジメのこともあってか、ヒロシは花たち女子のことを少し警戒しているようだ。
不思議サークルの話題を聞かれて、麗はうれしさからか、ヒロシの後ろから花に落ち着きながらも優しく話しかけてきた。
「今日の部活が終わる17時以降に、ヒロシの家の喫茶店で集まれるやつは、集まるんだ。よければ、花ちゃんたちも来るかい?」
花は、麗がこっちを直視してる顔を見れずに、隣のふうりに目をやり話を振った。
「ふうりちゃん一緒にいこうか。」
ふうりは、うなずくときのモーションも小さかったが、みんなには通じたみたいだ。
【ヒロシの家は、喫茶店をしていた。その喫茶店は、学校から50mぐらいしか離れていなくて、ヒロシの友達が集まるのに、よく使われていた。そんなヒロシは、学校から50mという近い学校通学路にも関わらず、花よりも遅刻が多かったし、忘れ物も多かった。近ければ、いいというものでもないんだなと、ヒロシから教えてもらったかもしれない・・・。そんなヒロシは、柔道部に入っていた。柔道だけは、まじめにやっているみたいだったけど、やっぱり柔道着も忘れたり、まだ洗濯して半乾きのまま柔道をやっている事で、みんなにバカにされていた。それでも、柔道自体は、そこそこ強いみたいだった。】
花は、不思議サークルに行くために、吹奏部が終わり、手芸部のふうりを学校の外の中庭の端で、待っていると
「みんな逃げたわパパ」
「コゼットこれからどうなる」
「ここからコゼット連れ去らねば 奴らが来る前に逃げていこう」
「急いで支度して何も訊かないでさあコゼット生きていくのだ見知らぬ明日へ」
と、言う姉の瑠里たちの声が、演劇部として使われている3階の部屋から聞こえてきた。
【演劇部は、2か月に1回のペースで、日頃から放課後に、演劇を披露している。今年は、レ・ミゼラブルという劇を披露している。姉の瑠里は、もちろん今回もそのヒロインとして出ている。】
「花ちゃん行こう。」
ふうりが、演劇を聴いている花の顔を覗き込むように、話してきた。
「うん。行こう」
ふたりは、自転車を押しながら50mほどのヒロシの喫茶店へ向かった。
【喫茶店は、そんなに広いわけじゃないし、出しているメニューも普通なんだけど、少し変わっていて、喫茶店という看板はどこにもない。そして、中へ入るに従ってどんどん外の明りが無くなっていく。中に入っても、廊下のような狭い通路が3mぐらいあり、ドアを閉めると足元が見えないぐらい真っ暗だ。そこを抜けると中は、蝋燭だけの世界になっていて、やっと部屋がみえるようになる。カウンターには、ヒロシのおばさんがいて、その後ろの棚には、色々な種類のコーヒカップが50個ほど用意されている。好きなカップを選び、コーヒーを飲むことができる。もっと、奥にはテーブルのスペースがあるんだけど、そこに麗くんたちが座っていた。】
「おーい。こっちだよ。こっち。」
暗いからちょっとよく顔が見えないけど、麗くんが手を振っていた。ヒロシのおばさんが笑顔で迎えてくれている。
「いらっしゃい。何番のカップがいい?」
「あ・・・えっと・・・9番いいですか?・・・」
そのカップは、小さくてとてもオシャレな形をしていた。紫色の睡蓮の花の絵が横に描かれていて、それがまた可愛くみえた。
花とふうりは、すこし緊張気味で、テーブルの席に座った。
「はじめてだから、ちょっと緊張しちゃう・・・」
麗は、笑顔でふたりに向かって声をかけた。
「緊張しなくていいよ。まだ、これから何人か来るけど、はじめてなんだから、気楽に参加してくれればいいし、分からないことがあったら質問をするというのが、ここのルールなだけなんだ。」
「わたし分からないことだらけだから・・・邪魔しないぐらいに質問します・・・」
花は、苦笑いをしながら話した。
「はい。どうぞ。アメリカンコーヒーね。中学生の方たちは、おかわりも無料だから遠慮せずにまた頼んでね。」
「ありがとうございます。」
ヒロシの友達がこうやって集まってくれるのが嬉しいのか、おばさんは少しはしゃいだ気持ちで、わたしたちに声をかけてくれた。ヒロシは、なぜか照れている感じで、目をあっちこっちに動かしていた。
麗が話し始める。
「ぼくは、昔から歴史や世界の不思議について興味があったんだ。歴史を調べれば調べるほど、不思議と歴史は切っても切り離せないものだと思ってこういうサークルを作ったんだよ。」
ヒロシが口を挟む
「おれは全然歴史とか不思議とか知らないからな・・・」
花は心で思った。
≪お前の事情なんて、聞いてないし、どうでもいいんだよ・・・。≫
麗はそのまま笑顔で話しを続ける。
「例えば、ピラミッドのことも不思議のひとつなんだ。ミラピッドは巨大な岩石を230万個も積み重ねていき、作られてるんだ。まだ、ヘリコプターやショベルカーなどが無い時代に、どうやってあれだけの巨大な建築物をつくったのか、いまだに謎だとされてる。古代文字からの情報によると、約20年ほどで大勢の人間がかかわって作られたらしいんだけど、20年で230万個を積み上げたとされてるんだ。その時代背景などを考えて、12時間働いたとしても1分間に2個弱の計算になる。1つ10トンの石を1分で2つも乗せるなんて、本当に不思議なことなんだよ。そして、不思議なのはそのピラミッドが大きさや形は違うけど、世界各地に造られているということなんだ。ぼくたちの国ジパングにも数千のピラミッドが存在してるんだよ。」
「え!?ジパングにピラミッドってあるの?」
「うん。それがあるんだ。」
ヒロシは、すこし声を濁らせながら話に入ってきた。
「ふ・・不思議って言えばさー。幽霊とかいるのかよ!」
麗は、口に指を持っていくように考えながら答えた。
「うーん・・幽霊か。その内容もおもしろそうだよね。おれは全て幽霊が嘘だとは思わないよ。でも、それは幽霊が存在してるとかじゃなくて、何かと幽霊を見間違えたとか、幽霊をみたと心から信じちゃうとか。そういうたぐいだと思うよ。」
この蝋燭の明りだけで照らしている喫茶店の中で幽霊の話しがはじまったから、ふうりはもちろん、花も少し怯える感じだった。
そんな二人をみて、麗が急に花とふうりの間、誰もいない場所を指を指して言った。
「花ちゃんたちのところに!!」
「えー!!」
ふたりの目はひとまわり大きくなって、指さされたところを見た。
ヒロシと麗は、そんな二人をみて笑った。
「あははは。嘘だよ嘘。いるわけないじゃん」
花は、少し泣きそうな顔で何か言おうとしたけど、すこし振り向いた時に、左側に白いものが見えた気がして、それの方をゆっくりと首を動かし見た。
すると!!
暗い喫茶店の横隅に、丸くなって体操座りのように座ってるガブリエルがいた!!
「きゃーーー!!」
花の声は、麗が驚かしただいぶ後に叫んで、みんなが安心して笑っている時に叫んだから、麗もヒロシもふうりも、もの凄く驚いた。
「うわーー!!なな・・・なんだよ!!」
花は、小刻みに震えるのを奥歯をしっかり噛んで、抑えようとするようにしながら、必死で誤魔化した。
「ううん・・・ちょっと、・・・お・・・思い出した?だけ・・・みたいな・・・?」
麗、ヒロシ、ふうりの目は真剣に花を睨んでいた。相当こわかったみたいだ。やっと、花の言葉を聞いてひきわらいした。
「そ・・・そう・・なんだ。ハハ・・・ハハ」
花はこの雰囲気をつくった、ガブに心の中で怒った。
≪もう!!ビックリしたじゃない!そんなところで、体ひからせてないでよ!!≫
≪だ・・だって・・・花ちゃんと一緒にいるって言ったじゃない・・・≫
少し、止まってしまった時間と花を心配したのか、ヒロシが聞いた。
「花は・・・花はどうなんだよ?」
「え!?」
「だ・・だから・・・幽霊いるとおもうのかよ。」
花は、しょぼんとなっているガブリエルを見直した。
「うーんと・・・わたしは・・どっちかというと・・・いるとおもうかな?」
みんなは少し驚いた顔になった。麗は逆に面白いと思ったのか花に聞いてきた。
「どうして、花ちゃんは幽霊いるとおもうの?」
「だ・・・だって・・・」
【7話】完