6話 え!?夢じゃなかったの?
【6話】え!?夢じゃなかったの?
ジリリリジリリリ!
「んー・・・・」
花は、苦しそうに手を伸ばして時計のボタンを押した。
≪あーぁ。なんだかすごい夢をみた・・・。小さい男の子の天使がわたしの部屋に住みつくっていう夢・・。なんか・・夢なのか現実なのか分からないぐらいリアルだった。≫
花は、体全部にかけられてる布団の横に部屋がのぞける穴をあけて、部屋をのぞきこもうとした。
すると、男の子の顔が目の前にあった。
「ぎゃーーー!!」
「あ・・・あんた!だれよ!?」
≪ガブリエルでしょ。花ちゃん。≫
≪え!?・・・あれは、夢じゃなかったんだ・・・≫
花はそう思った。
ガブリエルは笑顔で言った。
≪夢じゃないよ。花ちゃん。おはよう。≫
≪これも夢かもしれない。とにかくまた寝よう・・・≫
すると、ガブリエルが布団をあげて
≪花ちゃん、また遅刻しちゃうよ。≫
≪だって、わたし朝に弱いんですもん・・・。≫
すると、ガブリエルは手を花の顔に当てて、スーっとなぞった。花のモヤモヤした気分が一気にスッキリした。
≪え・・・何!?これ・・・≫
≪花ちゃんの体内機能や血液の流れを正常に戻したんだよ。ホラもう起きれるでしょ≫
不思議なことに、いつものダルさが無くなり、体が軽く感じた。
花がめずらしく時間通りに起きてきて、姉の瑠里と母は驚いた。姉は言った。
「あんた、ちゃんと起きれるじゃない!」
「うん・・・。」
花は頭をかきながら、少し自分のテンポが崩されたような気分で苦笑いをしながら、テーブルに座り、母が焼いてくれたばかりの食パンにマーガリンを塗った。
【井田中瑠里15歳、わたしの姉で、わたしとは違いハキハキとした口調でしゃべるし、勉強もできる。姉は演劇部をしていて、毎回ヒロイン役をまかされている。その声は遠くまで響く綺麗な声をしていて、見た目も悪くない。わたしのいいところを全部姉に取られたんじゃないかって思うことが多いけど、別に姉は姉だし、わたしはわたし。気にせずに生きていく。】
マーガリンをパンにもっと塗り、牛乳を飲む花をみて、ガブが言った。
≪花ちゃん、あまりマーガリンを塗らないほうがいいよ。≫
≪え?どうして?≫
≪そのマーガリンは人間の髪の毛で出来たもので、その油は体に溜まっていって、人間の血をドロドロにして、血管に溜まっていくんだ。それを多く食べてる人だと、心不全を起こしたり、血管がつまって、手や足に血液がいかなくなり、手足が腐りはじめるひともいるんだよ。塗るならバターにしたほうがいいかもね。牛乳やヨーグルトも骨をスカスカにしてしまう物で、体によくないよ。花ちゃんが朝起きれないひとつの原因だね。花は、それを聞いてマーガリンを塗っている手を止め、牛乳も少ししか飲まなかった。http://www.youtube.com/watch?v=V7rkWtwqKGk
≪うーん。確かに、わたしお姉ちゃんより、多くマーガリン塗る・・・≫
今日は、早めに家をでることができた。外に出て、自転車に乗ると隣の家から、ふうりちゃんが出てきた。
【夏沢ふうり14歳、わたしと同じクラスで、わたしの席の前に座ってる。小さい頃から仲好しで、いつも遊んでいたのが、ふうりちゃん。とてもおとなしい子で、あまりしゃべったりはしないけど、わたしが話しかけると笑顔でニコニコしてくれる。たまに、もの凄く雰囲気をかもしだすけど、イメージ的にいったら動物のリス?かな。】
「おはよう。」
花は嬉しそうに、声をかけた。
「おはよう。花ちゃん。」
「昨日のヒロシ面白かったね」
花は、笑いながら言ったけど、ふうりは少し困った顔で
「う・・・うーん。」
ガブリエルは、花の自転車の後ろを飛びながら一言いった。
≪かわいそう≫
なんだか、どこかで聞いたような言葉と声に花はついつい反応した。
「あー!!あの時、後ろから声かけたのあんたでしょ?!」
いきなり大きな声を出されて、ふうりは驚いた。
「え!?」
「あ・・いや・・あの時、うしろから男の声がしたなーってね・・・」
「あの時って、ヒロシくんを囲んでた時?」
「うん。そうそう。」
花は、駅に通り過ぎようとしてたので、無理やり話を変えた。
「今日もあのギターのひと歌ってるね。」
「うん。すごいよね。」
花とふうりの二人が、駅前を通り過ぎ海岸線沿いをしばらくいくと、その海と道路とそれを走る車しかない殺風景な歩道の下に、ぽつんとダンボールが置いてあった。
「なんだろ?あれ」
花とふうりがそれを発見すると、自転車のブレーキを少しずつかけてスピードをゆるめていき、近づいた。そのダンボールには太い大きな文字で、前・横・後ろの3方向に、こう書かれていた。
【ひろってください】
ふたりが、自転車ごしから中を覗き込むと、ゴソゴソと小さい子猫がダンボールの横腹をあるのか無いのか分からない爪で、カリカリとひっかいていた。2台の自転車を邪魔にならないように、歩道に縦にならべて、見に行ってみた。ふうりが、恐々(おそるおそ)る手を子猫に近づけると、怯えたのか、ふうりの手をひっかいた。
「痛い!」
ふうりは、手を引っ込めた。
花が、安心させるように、前足の脇のほうに両手を持っていき抱きかかえ、顔を近づけて頬ずりした。すると、子猫は花のほっぺをペロペロと舐めた。
「あはw」
子猫は、まだ光に慣れていないのか、朝日の光を眩しそうにして、目を何度も閉じた。
少し、不思議そうに、ふうりが言った。
「でも、そのダンボール濡れてないね。」
そういえば、昨晩は嵐が来ていて、土砂降りだった。少し考えて、花も言った。
「朝になって、ここに置いていったのかな?」
「うん。そうかもね。花ちゃん、もう行こう遅刻しちゃうよ。」
ふうりは、ひっかかれた手をこすりながら、時間を心配していた。
「ふうりちゃんは、先に行ってて!わたしもすぐに向かうから!」
「え!?」
少し困った顔をしたふうり一人を置いて、花は自転車を学校とは反対側に向けて、走っていってしまった。ガブリエルはそんな花の自転車のうしろから逆向きに座り、置いていかれてる、ふうりの顔を少し可哀そうな表情をしながらみつめ、自転車の速度と共に離れて行った。
花は、駅の売店で、パックの牛乳を90円ポイントで買うとすぐに自転車に乗って、学校方向へと走り出した。さっきの子猫の場所で止まると、カバンからカッターナイフを取り出して、牛乳パックを横においてサクサクと切っていき、即席の牛乳のお皿を作り、ダンボールの中に置いた。
子猫は、小さい顔の半分を牛乳に入れて、顔いっぱいに牛乳をつけながら、おいしそうに飲んだ。
花は、そんな可愛い子猫の姿を見てニコっと笑うと、ふうりを追いかけるように、学校へと向かった。
【6話】完