5話 ガブって意外とすごい天使なのね。
【5話】ガブって意外とすごい天使なのね。
井田中家では毎日みんな揃って、夕食をする。食事前にテレビを父は見ていた。ニュースでは、今日の深夜から朝にかけて嵐が来るということらしい。ソファーに座っていた父は、花が前を通ろうとすると抱きつき、花を引き寄せた。
「花ちゃん。元気かい?」
14歳の花は、呆れた風に、
「は・な・し・て!」
と、父の胸を両手で押してそこから逃れ、テーブルについた。お父さんは、口をへの字にしながら、泣きそうになる。
【井田中家の食事は、洋食が意外と多い。父は、小さい頃から神社で暮らしてきて、毎日和食だったので、洋食にあこがれがあるようだ。それが理由なのか、家に置いてある家具も洋式のソファーやテーブルなどが置いてある。和と洋が少し不自然に、両立しているのがこの家の雰囲気だ。】
花は、食事の時に、自分の名前をバカにしてきたヒロシの話をしたあと花は手のひらに指で字を書きながら母親に聞いた。
「ねー。どうして、わたしの名前は、この華じゃなくて、この花なの?」
「え!・・・。うーん。本当は、花の名前は鼻にしようかと思ってたの。」
母がヒロシのように、自分の鼻をつまみながら言う姿をみて、花の顔は、ひきつった。母は話を続けた。
「でも、みんながそれはよしたほうが良いって言うから鼻じゃなく、花にしたのよ。」
「ちょ・・・ちょっと!!何考えてんのよ!」
すると、ガブリエルが横から
≪うん。顔の鼻のほうがよかったね。≫
それを聞いた花は、少し怒鳴り気味に言った。
「あんたねー!変なこと言わないでよ!!」
大きな声を出した花を、姉も母も父も驚いた顔で見た。
≪ハッ!し・・・・しまった・・・・つい、声出しちゃった・・・≫
花は、ほほをピクピクとさせながら誤魔化すように少し笑いながら母に言った。
「お・・・お母さん。変なこと言わないでね」
≪まったく。天使も冗談を言うとは思わなかったわよ・・・。≫
ガブリエルは、言った。
≪ぼくは冗談は言わないよ。≫
≪ちょっと!・・あれが冗談じゃないなんて・・・、天使ってアホなんじゃないの?名前は鼻のほうがいいって言ったり、歴史の解答を書かないほうがいいって言ったり・・・意味わかんない。もう黙ってて・・・≫
花は、さっきの声を出したから、その後の食事は笑顔ぎみで過ごした。
毎晩、食事後にはお父さんはお酒を飲む。でも、今日はお酒がきれていたらしくて、花は近くの酒屋さんにお使いを頼まれ、ガブと一緒に出かけた。
花は、まだガブリエルのことをゆるしてないのかずっと無言で歩き続けた。心の中で話す花の言葉にガブが答えようとするたびに
≪黙って!≫
と、ガブの言葉をさえぎる。
その酒屋は、海岸まで出て数十メートル先にある酒屋だった。ふたりが海岸線沿いの道へ出て、歩き続けると真っ暗な浜辺に、あげられた2隻のボートがいつものように置いてあったが、その近くで一匹の犬が何か苦しそうに悶えていた。
その犬は、立ち上がったと思ったら急に、ボートにすごい勢いでぶつかり始めた。花の眼は暗闇の中を凝視しながら、何度か瞬きをした。
≪な・・・なに!?・・あれ・・・≫
≪あれは悪霊だよ。≫
≪悪霊?≫
≪うん。≫
ガブリエルは、花の横にぴょんと移り、その右手を花の目に少し触れるかのように、なぞった。すると、ガブの手が目から離れた瞬間、花の見る世界が一変した。
今まで見てきた景色の色も違っていたが、一番違って見えたのは、物や道路、車や電灯すべての物の周りにエネルギーのようなものが付いていた。花は、自分の両手を前に出すと自分の手のまわりにもエネルギーがあることに気付いた。
≪す・・すごい・・・≫
≪花ちゃん。あそこを見てごらん。≫
ガブが指をさしたのは、さっきの犬の方角だった。
さっきは見えなかった物が、今の花には見えた。犬の周りには、何か大きな黒い靄のようなものがいて、そこから腕のような長いものが出て犬にそれを翳すと、犬はその方向へと引きずられるようにボートにぶつかって行った。終いには、その犬を持ち上げて、そのボートにぶつけた。その力はもの凄くて、ボートの横の壁がベキベキ!と壊れてしまった。
すると、ガブがヒョッと空を飛びその黒い靄がいるボートへと近づいて行った。それをみて、花は8歳ほどの小さいガブを心配して言った。
「ガブ!ダメ!危ない!!」
その瞬間、黒い靄は、真上に黒い大きな腕を伸ばし、ガブへその腕を振り下ろした。
ガブは、一切あわてる素振りもせずに、いつも通りの坦々とした風で、歩き近づきながら細い小さい右手を自分の顔の前に翳すと、もの凄い光がガブから向こうの地平線の海までに広がった。その光が通り抜けると一瞬で黒い靄もその他の海や海岸にいた黒いものたちが消し飛んだ。
そのあと、花のところにも弱い風のような衝撃波が来たと思ったら、いつもの世界に戻っていた。
犬は、ガブになでられるとすぐに起き上がり、元気に走って行った。不思議なことに、さっき壊れたボートが全く壊れていなかった。
ガブは、花の横にぴょんと戻ってきて、笑顔を見せた。花は、すこしガブを心配したからか、目をうるわせ落ち着いた後、ガブに驚きながら言った。
「ガブって意外と、すごい天使なのね。」
ガブは誇らしげに
≪ぼくは、三大天使と言われるほどの天使なんだ。天使たちさえ。ぼくの言うことを聞くぐらいなんだよ。≫
≪それは前にも聞いたけどね≫
と、花は思った。
遅刻にはじまり、学校が終わった帰り道から本当の一日がはじまったこの日だけで、驚くことばかりが続いた。この先一体どんなことが起こるのかと思いながら、花は布団に入り寝た。
その晩、ニュースでいわれていたように嵐が花の街を直撃した。いくつかの被害がでたけど、花が一番気になった町の被害は、ボート2隻の横が壊れていたことだった。
【5話】完