4話 天使って何?
【4話】天使って何?
こどもから、大人へと変わっていく年代、14歳中学2年生。花が生まれる前に、医者は言った。
「この子は、未熟児で、しかも奇形児として、生まれてくるでしょう。」
親たちは、花が奇形児として生まれて来るかもしれないと、生むのかそれとも生まないのかの選択に迫られた。綺麗ごとを言って、生むに決まっていると将来のことも考えずに、花を生むことはできるが、親である自分たちが歳をとって先に死んだ時、一体誰がこの子の生活を見るのだろう。それは、先に生まれてきた姉の瑠里に、責任を押し付けることになるのではないのか。瑠里の人生さえも、変えてしまうのではないかと心配した。
だが、花の母親は考えた末に、花を生むことを決意した。
すると、花は奇形児ではなく、健康体で生まれてきた。とても、不思議な体験を、花を通して家族は味わったのだった。
そこで、花の父が学んだことは、こどもを生むのか生まないのかという問題は、人間が選択するべきじゃないということだった。もちろん、こどもを生まない選択をした人を責める気は、もうとう無いが、こどもは例え死んでも生きても自分たちの心の中で、生き続ける。自分が死ぬまで、背負い続けるのは同じだということだ。その子の人生がどうなるかは、その子がする人生の選択と、その子に与えられた出来事によるのだ。たとえ、施設で育ったとしてもだ。だから、花の事件からは、両親は花たちが、すくすくと成長していく中で、例え失敗しても、苦しんだとしてもそれを喜んだ。だから、花たちが失敗する選択をしようとも、それを邪魔をするような育て方はしてこなかったのだ。
それが、花がガブリエルの言葉を聞いても素直に従うことをしなかった、習慣という理由だったのかもしれない。
花は、しかたなくガブリエルを自分の部屋に招き入れた。
でも、ガブリエルには、条件を出した。人がいるときには、ガブリエルは花の邪魔をしないこと。
花は、天使というものがどういうものなのか知りたくなった。ガブリエルの大きな羽も縮ませれば、その体は小さい。花はしっかりと、ガブリエルの姿を見ようとするけど、霧のようにぼやけても見える。花は、ちょこんと座っているガブリエルに近づいて、ほっぺを ツンツンと突いてみようとしたけど、やっぱり触ることができなかった。
「ガブ。わたしみたいに、こうやって声は出せるの?」
ガブリエルは、花をやさしいまなざしで、みつめながら質問に坦々(たんたん)と答える。
≪物質と霊体の中間の存在になるから、空気を振動させて音を出すということは、あまりしないよ≫
花は、少しひきつった顔をした。
「む・・・むずかしい・・・」
少し、何か質問することを腕を組みながら花は考えた。
「じゃーぁ。天使って何ができるの?」
≪さっきも言ったけど、霊体のぼくには出来ることは、ほとんど無限にあるよ。ただ、それを使うことがゆるされるのは、そこに理由があるときなんだ。≫
「理由・・?」
花は、ガブリエルの言っている意味が全く分からなかった。
≪たとえば、木こりが木を切るのは、その木を使って人間が雨風を防ぐための建物を造るのに役立てる為なんだ。そして、その木を使って、紙を作り文字で理解しあうためだったりもする。そこに、人間の自然の営みが存在する。≫
「・・・。」
花は、ガブリエルの日本語が、どこか知らない国の言葉のように思えてきた。でも、素直な質問をガブリエルにした。
「えっと、天使って、生き物の木を切ることは、いいことだと思ってるんだね。」
ガブリエルは、そんな素直な花の質問に微笑みながら、そして、どこかしら嬉しそうに答えた。
≪木も動物も石も水も天使も、みんな人間のために造られたんだ。人間のためにこの世界は存在してる。だから人間は、木を切ることをゆるされてるんだよ。≫
「え!?天使もなの?」
≪うん。ぼくたち天使も君たち人間のために、造られたんだ。≫
花は、それを聞いて、ニカァーと笑った。
「じゃー。ガブ。わたしの宿題してよ。人間のためにいるなら命令を聞きなさいw」
ガブリエルは、少し悲しそうな顔をした。
≪ぼくたち天使は、人間の命令に従うようには出来てないんだ。人間の為に動くように、ある方の命令に従って動くだけだよ。そういう意味のないことには、動くことができないんだよ。ごめんね。≫
花は、なんだかうまくかわされ、しかも、宿題は意味がないと言われて、少し膨れ気味になった。
「じゃー。いいわよ!ガブにはもう頼まない!!」
ガブリエルが悲しそうな顔をしているのを横目に無視をして、歴史の教科書を出して勉強をはじめた。花は、あまり歴史が得意なほうではない。というよりも、勉強が苦手。国語の授業の朗読でも、すぐに言葉に閊えてしまうし、理科の実験では毎回失敗してばかり、取り柄といえば、ただ元気なだけ、でも体を使うことが好きだから体育は得意ではないが好きで、そのカラっとした性格ながら意外と気を使い、友達を大切にするから仲間が多かった。
歴史の問題を解こうとしてもすぐに、手が止まってしまう。それに、まだ悲しそうな顔をしているガブリエルも気になった。
「ねー。ガブー?宿題をしてくれないのはいいけど、わたしの書いた解答が合ってるのかだけ教えてくれない?」
ガブリエルは、笑顔になってスーっと花の横に近寄って嬉しそうに指をさしながら言った。
≪これと、これと、これと、これ。ちがうよ≫
「え・・・マジ!?」
花は、苦々(にがにが)しい顔で解答用紙と自分の答えを見比べてみた。すると、解答用紙の答えと花の解答は合っていた。
「ちょっと!! ガブ?これ合ってるじゃない!?」
≪ううん。間違っているよ≫
「何言っているの?ホラこの解答用紙みてよ!」
≪うん。この解答用紙の答えが間違ってるね。≫
花は、頭が混乱してきた・・・。
「えっと、この解答用紙が、間違ってるの?!」
≪うん。だってぼくこの時、実際に近くにいたからね。これ間違ってるよ。≫
花は、混乱しながらすこし考えた。
≪て・・・天使が嘘をつくわけもないだろうし・・・一体どういうことなんだろ・・・・≫
ガブは、花の動揺をよそに、また坦々と言う。
≪うん。ぼくは嘘つかないよ。≫
「たとえば、この解答のどこらへんが間違ってるの?」
ガブリエルは、ニコって笑いながら言った。
≪ほとんど、全部間違ってるね。例えば、君たち日本人は、聖徳太子という人間がいたと教科書に書いているけど、実際は彼は存在しない人物なんだよ。≫http://www.youtube.com/watch?v=cAowZZu3DXo
「え!?・・・しょ・・聖徳太子が・・・存在しない・・?ほとんどが、間違ってる・・・。」
花は、ガブがいうことの言葉を理解できなくなってきた。というか、最初から理解できる存在じゃない。
≪まーいいや。宿題やらないと≫
ガブリエルは、言った。
≪間違った答えは、書かないほうがいいよ。≫
「・・・。」
花は、言葉を失った。
「宿題しないと怒られるでしょ!?それにこの解答通りに書かないと点数とれないし!」
ガブリエルは、静かにさっきの場所に下がって行き、また悲しそうにショボンとして座り込んだ。そして、何かの歌を勉強の邪魔にならないぐらいの小さい声で歌っていた。
【4話】完