第7話
千帆が来てから瞬く間に2週間の月日が流れた。
あたしと千帆と朱里、ついでに新はあっという間に仲良くなり、あたし達はいつも一緒に行動するようになった。
新はあたし達3人と行動を共にすることによって、他の男子たちから羨ましがられているというか憎まれているというか呪われているというか、とにかくえらく白い目で見られる羽目になっているようだが、本人はまるでどこ吹く風だ。
もしかしたらこの辺りが、新が変人と呼ばれる由来なのかもしれない。
本人曰く「そういう僻みややっかみは時間が経てばオートマティックでなくなるもんだよ」らしい。お前は宇多田ヒ○ルかとツッコミたくなったが、まあ本人が気にしてないんだからそれはそれでいいんだろう。この歳でえらく人生を達観なさっているようで。
正直、新からすればたまったもんじゃないだろうけど、彼もこんな美少女3人と学校内では常に一緒にいられるんだから、それくらいのデメリットは覚悟してもらわないと、なんて言ってみたり。
でもまあ、特別いじめにあったり被害があるわけではないらしいから、これはあたし達とは違う意味で有名税みたいなもんでしょ。
もし他の男子から無視されるようならあたし達と話せばいい。もしいじめに遭うようなことになったら、それはその時考えるとしよう。
朱里は相変わらずで、毎日意味の分からないハイテンションで意味の分からないことを言ってはみんなを困らせている。彼女とは長い付き合いだけど、未だに意味の分からない子だ。
でも、あたし達グループの中では必要不可欠な存在。ムードメーカー兼マスコットみたいな? 外見だけ見れば可愛らしいもんね、朱里は。
「え〜、わたしは性格も激しくプリチーだよ?」
とは朱里の言。
幸せな子だ。頭を解剖して中を見てみたら、脳みその代わりにお花畑が咲き乱れているんじゃないだろうか。
「あ、でも、沙耶ちゃんのお腹の中を解剖したらきっと真っ黒だろうね☆」
うるさい。死ね。
ま、朱里はこんな感じで相変わらずマイペースだ。無邪気な表情から放たれる人の心を抉るような毒舌も健在である。その毒と言ったらもう、猛毒である。そう考えたら、ジャイアントデスストーカー宣言も言い得て妙だ、と思えてくる(※猛毒を持つサソリ。第6話参照)。
クラスの男子からしたらそれが天真爛漫に映るらしいが、ただ単に性格が悪いだけなんじゃないかという気もする。
「沙耶ちゃんと長いこと付き合ってれば、そりゃ性格も悪くなるっつーの☆ あははっ♪」
超うぜぇ。死ね。
あたし達のグループに加わったばかりの千帆は、最初は個性の強いメンバーに戸惑っていたが、今ではすっかり打ち解けている。
付き合ってみて分かったのだけど、千帆は第一印象とはうってかわって、なかなかにアネゴ肌の女の子だった。
転校して来てまだ2週間しか経ってないのに、たまにクラスの他の女の子から相談事をされたりするらしい。
あたしの彼女に対する印象は、『きれいな子』から『かっこいい子』に一変した。
かと思えば時々とぼけたこともする。多少天然も入っているようだ。
この間なんか、休みの日に女の子3人で一緒にショッピングに行ったんだけど、街中で若い男にナンパされそうになって「あ、あたしお婆ちゃんからの遺言で、街中で声かけてくる男は八つ裂きにしてもいいって言われてるんだよね」だって。
男の子たち、ひいてたなぁ。えらく過激なお婆ちゃんだな、なんて思ってたら、結局は全部彼女の作り話だったんだけど。というか、お婆ちゃんは死んでないらしい。祟られるよ?(死んでない)
あ、そういえば彼女は誰かに眼鏡をケースごと盗られたらしい。普段千帆は眼鏡をかけていないんだけど、たまにファッションで度の入っていない眼鏡を掛けるのだ。
災難だけど、これが彼女の最初の『有名税』。
で、あたしはと言うと、「パソコンってなんて小説を書くのに適してるんだろう。今まで携帯で苦労しながら書いてきたのが馬鹿みたい」と思って、っておい。
作者の個人的な気持ちをあたしの近況報告に持ち込むな。
小説ボイコットするよ? 主人公なのにボイコットするよ?
話を戻そう。
さて、それであたしはと言うと、なんて大袈裟に言うほどのことは実は何もない。
たったの2週間で人間にそれほど変化があるはずもない。新と千帆は少し特殊な状況に置かれていただけの話。
現に、朱里には特に変化もないしね。まあ朱里の場合は、治療が困難な難病に冒されたとしても一切変わらない気がするけど。
「沙耶ちゃん、さっきから失礼だよ? 1リットルの涙流しちゃうよ?」
そういう一過性かつ笑えないギャグはよしなさい。
そんなあたし達にも、当たり前だが時間は流れていて、学生にとっては重要なイベントが訪れる時期になる。
そう、期末テストだ。コメディーとは言っても、さすがにテストでまで笑いを取りに行く訳にはいかない。
ここからは余談になるけど、この小説の著者は学生時代、テスト中にどうしても答えが分からない問題があった時には、その教科が数学だろうが英語だろうが必ず解答用紙に『シェフチェンコ』と書いていたらしい。
ちなみに、シェフチェンコとはウクライナ代表の人気サッカー選手である。完全に学生の本分をなめている。
そして今週末、あたし達は千帆の家に集まって、来週から始まるテストに備えた勉強会を行うことにした。
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◇有村沙耶の裏事情ファイル・その7◇
・主人公なのに物語をボイコットしようとする。
「それは作者の所為でしょうが!」(沙耶)
「ごめんなさい」(作者)
今回、初のパソコンからの投稿となりました。なにか不具合や読みづらい部分があったら、教えていただければ幸いです。