第2話
「あっ、沙耶ちゃん。おかえりなさい」
山田くんからの告白を断って教室に戻ると、朱里が笑顔で出迎えてくれる。可愛いヤツめ。
「…あれ?朱里、まだお弁当食べてなかったの」
「うん、沙耶ちゃんと一緒に食べようと思って」
確かあたしは教室を出る時に、朱里には先に昼食を食べておいていい、と言ったはずだ。それなのに朱里は律儀にお弁当を一口も食べずに待っていてくれたらしい。本当に可愛いヤツめ。
やっぱお弁当は1人より2人で食べた方が美味しい…もん…ね?
ってあれ? 朱里のお弁当、明らかにおかしい。
何がおかしいって、お弁当箱の中にご飯が一口分くらいと、おかずが一品しか入ってない。
そんなに大きなお弁当箱じゃないことを差し引いても、明らかに料理と呼べるものが何も入っていないスペースが広すぎる。
「朱里、なんかやけにご飯が少なくない?」
「えっ?あ、それは…その」
口篭っている朱里を見てあたしは直感した。
…そうか、朱里の家は貧乏なんだな。
まさか彼女の家が、お弁当箱の容量を思いっきり無視したたったこれだけの分量の料理しか娘に持たせられないほど苦しい生活をしてるなんて。
よしよし、あたしは何も言わなくても分かってるからね、朱里。あとでうまい棒買ってあげるからね。
「沙耶ちゃんがなかなか戻って来ないから、一口分だけ残してご飯全部食べちゃった」
コロス。
「ところで沙耶ちゃんの用事って、やっぱアレだったの?」
半泣きで割り箸に手を付けたあたしに対して、朱里は思い出したように声を潜めてそんなことを訊いてくる。
「そ、アレ。えっと、斉藤くんだか木村くんだかに話があるって言われてさ」
「で、告られたんだ」
「イエース」
朱里との会話の中で、『あと1人誰かに告られれば100人』ということを思い出して、あたしは心の中で薄笑みを浮かべた。
「沙耶ちゃんってさ、実は冷血人間だし、アクだよね」
この子はまた、パックのコーヒー牛乳を可愛い顔でちゅーちゅー吸い出しながらとんでもない暴言を吐く。
「別に告ってとかお願いしてる訳じゃないも〜ん」
「う〜ん。でも私思うんだけどね?」
神妙な顔付きの朱里。きっと何か真面目な話なんだろう。
「…なに?」
「沙耶ちゃんは一回死んだ方がいいと思うよ?」
コロス。
そして時刻はいつの間にか放課後。遊びに行く人や家に帰る人、それに部活に向かう人が三々五々散っていく。
あたしは帰宅部で、これからの予定も特に入っていない。
こういう時は、適当に校内をブラブラするに限る。
100人目のターゲットも見つかるかも知れないしね〜。
まぁ、100人に告られることに何か意味がある訳でもないんだけどね?
要は自己満足。でも、人生において大事なことは、いかに自己満足できるかだとあたしは思ってる。
と、言うわけで。
自分の正当化も済んだし、早速ターゲットを探しに行こうかな〜っと。
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◇有村沙耶の裏事情ファイル・その2◇
・人生是自己満足。
・実は冷血でアク。
・一回死んだ方がいい。