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彼女の裏事情  作者: CORK
29/31

第28話

ずいぶん間隔が空いてしまいました。楽しみにして下さっていたみなさん、メッセージをくださったみなさん、申し訳ありません。

それでは前回の続きです。どうぞご覧ください。

 剛が東京に行ってから、1ヶ月ちょっとの月日が流れた。

 ようやくあたしは剛のことを忘れ、いつも通りの日常を──なんて言えたらよかったんだけど。

 そんなに簡単に忘れられる相手なら、一緒に東京で暮らす決心なんかしない。

 ただ、その1ヶ月間で、何とかみんなに気を使わせないテンションまで持っていくことは出来るようになった。

 あれからしばらくは、みんなあたしに対して、腫れ物を触るような接し方をしてきた。

 それは多分、みんなの優しさ。だからあたしもそんなみんなに対して努めて普段どおりに接したつもりだ。

 それでも、胸の奥に残ったしこりは思ったよりもずっと根が深いものだった。今でもふとした時に剛のことを思い出しては、自然と涙が零れる日々が続いていた。

 そんな風に毎日を過ごしているうちにいつのまにか月日は流れ、時は卒業式を迎えた。あたしたちからすれば、いよいよ2年生最後の日、というわけだ。

 袴や着物姿ではしゃぐ卒業生たちを横目に、あたしはとぼとぼと学校までの道のりを歩いていた。

 ――本当なら今ごろあたしは剛と一緒に……。

 そんないじけた気持ちを隠しきれずに。

「あっ、沙耶ちゃん!」

 不意に背後から聞こえた声にあたしは振り返った。

 声の主は思った通り朱里だった。住宅街、綺麗に舗装された道路を、わき目も振らずにあたしの方へ走ってくる。

「おはよ、朱里」

 そう言ってあたしは笑顔を作る。友達の、それも親友のはずの朱里の前で無理に明るく振舞ってしまう自分が嫌で仕方がなかった。

「なんか元気ないね、沙耶ちゃん」

 そう言って朱里は上目遣いで気遣うようにあたしを見つめる。普段を演じきれていなかった自分に少し慌てた。

「ん、そんなことないよ」

 それでも朱里に心配をかけるわけにはいかない。あたしは変わらず笑顔を続ける。

「……沙耶ちゃん」

「ん?」

 あくまでも神妙な面持ちの朱里。心配してくれているのが手にとるように分かる。だからあたしは努めて平静に返事をする。朱里はそんなあたしに、掛ける言葉を探すようにゆっくり言葉を紡ぐ。

「……生理中?」

 シリアスな空気が台無しになった瞬間だった。

「なんっで今の流れで生理なんて話になんのよ」

「や、お腹痛いから元気ないのかなぁと思って」

 ちょっと空気読めお前。

「沙耶ちゃん、これコメディーなんだからあんまシリアスにしないでよ。辛気臭いって」

「……何気にひどいこと言うわね、あんた」

 しかも朱里の言うことにも一理あるんだから、感傷にさえ浸れない物語を恨むしかない。

「まぁ、あんたと一緒の時にシリアスぶってもね……。なんか緊張感ないし」

 別にシリアスぶっていたわけではないんだけど、そんな気分にさせられるから不思議だ。

「ねぇねぇ、沙耶ちゃん」

「ん?」

「ひとこと言っていい?」

「ダメ」

 会話が終わった瞬間だった。

 朱里がこういうことを言うときは大抵ろくでもないことへの前振りなのだ。まともに取り合ってたら馬鹿を見る。

「わあっ!」

 その瞬間、ドスッという音とともに背後から何かがぶつかってきて、あたしは豪快に吹っ飛ばされた。こ、これは痛い。

「あ〜あ。後ろから自転車を居眠り運転してるスゥが来たから、教えてあげようと思ってたのに」

 どうもあたしはスゥの運転する自転車に轢かれたらしい。

 卒業式だというのに、登校の時点ですでに瀕死のあたしだった。

「大丈夫アルか!?」

 スゥが心配そうに声をあげる。

「だ、大丈夫だけど、気をつけてね」

 あたしは制服についた埃を払いながらスゥに注意を促した。

「よかった、大丈夫みたいアルね。ワタシの自転車」

 あ、あたしじゃなくて自転車の方の心配ね。そっかそっか。

 不治の病を患って死ねばいいのにね、この子。

「ねっ、無事みたいで安心したよねっ、スゥの自転車☆」

 お前もか。

「まったく、人が気持ちよく寝てるのに、邪魔しないで欲しいアル。沙耶ちゃん」

 さらにこの物言い。告訴したら大至急勝てそうである。

 と、その時。

「だ、大丈夫!? 有村さん」

 見知らぬ男子生徒に声をかけられたあたし。

 いや……見知らぬ? どこかで見たことあるな……。誰だっけ?

「ごめん、誰?」

 結果、分からないなら訊けばいいという結論に至ったあたしの頭脳。うーん、我ながら明快な答えだ。

「えっ!? いや、前に有村さんに告った……」

 告った? なんか久しぶりに聞いたな、その言葉。

 ってことは……あっ、第1話に出てきた彼か。平凡な容姿だから全く思い浮かばなかった。

「そうそう、山中くんだよね。ごめんごめん」

「いや、田中なんだけどもういいやこの際。それよりお前ら!」

 そう言って朱里とスゥに向き直る彼。

「友達を自転車で轢いといてなんだよそれっ」

 ビシイッと音が聞こえそうなほどの勢いで2人を指差す。

「ちっ、自転車のカゴがへこんでしまったアル」

「これは賠償金を請求しなきゃだねっ」

「そんで無視かお前ら!」

 疲れたように肩で息をする山中くんをよそに、ドス黒い話に花を咲かせる二人。あたしは傍観を決め込むことにした。

「お前ら、友達だろ!? 友達を轢いたクセにその態度……お前らは人間失格だ!」

「……!」

 多少いらいらしてきているのか、山中くんは暴言を吐いた。

 その言葉に2人はさすがにショックを受けたようだった。山中君の言葉に驚愕の表情を浮かべる。

「……まぁ、それはいいじゃん」

 いいじゃん!? ちっともショック受けてねぇ!

「まぁまぁ、そんな小さなことにこだわってるから大成しないんだよ、お前」

「いつまでも過去を気にするなアル! ワタシ、お前のそういうところが嫌いアル」

 初対面の人間に対して、昔からそうであったようにお前呼ばわりする女の子2人。

「な、な、なんだとぅっ」

 面白いくらい取り乱す山中くん。まあ、初対面でこの対応を受ければそうなっても不思議はない。

 この2人とまともに取り合っても無駄だと再認識したあたしは、無視して再び歩みを進めた。山中くんには悪いけれど。

「あっ、沙耶ちゃんっ」

「ちょ、ちょっと待つアル」

 誰が待つか。

 ……はぁ。冒頭のセンチメンタルな気分が一気に吹き飛んでしまった。

 とはいえ、剛のことを思い出さずにいられるのは、正直ありがたい。思い出せば豊南高校の生徒がひしめくこの場で涙を流してしまいそうだったから。

 背後からはしゃぐ声が聞こえる中で、あたしは2人の破天荒な性格に少しだけ感謝した。

 こうして、あたしの悲しみは徐々に薄れていくのだ。



※※※※※※※※※※※


◇彼女の裏事情ファイル・その27◇


●柴田朱里、鈴四花の場合


・初対面の人間にはやたら人当たりが悪い。














さて、なるべくコメディ色を殺さないようにしたつもりですが、どうでしたか?

久しぶりなので感覚を取り戻すのに苦労しました^^;

これからまた更新のペースを上げていこうと思いますので、皆様よろしくお願いいたします。

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