第1話
そろそろ肌寒い風が街を通り抜けはじめる11月中旬。
それは、住宅街からは少し外れた所に建てられた、豊南高校という学校でのこと。
時刻は13時に差し掛かかろうかというところで、学校中に授業の終りを告げるチャイムが鳴り響く。
そして普通の学生なら誰もが待ち望む昼休みが訪れるわけ。そしてそれは、あたしにとっても例外じゃない。
──ま、それもいつもなら、の話だけどね。
「沙耶ちゃ〜ん、一緒にご飯食べよ」
この子は同級生で友人の柴田朱里。150センチ前後の小っちゃい体にクリクリした人懐っこそうな目、一言で言うととっても可愛い子だ。
「ごめん、あたしこれからちょっと用事あるんだよね」
「沙耶ちゃん、またアレ?大変だね」
そう言って苦笑いを浮かべる朱里。
「先にご飯食べてていいよ」
あたしは朱里にそう告げ、昼食もとらずに2-Aと書かれた教室から出ると、その足で校舎裏に向かった。理由は簡単、昼休みに此処に来るように、同級生の男の子から呼び出しがあったから。
「あ、有村さん」
そこにいたのはあたしを呼び出した男の子だった。って当たり前か。
名前は──知らない。
だって、朝登校してきたらイキナリ
「昼休み校舎裏に来てください!じゃあ」
とか言って立ち去っちゃうんだもん。
初対面でそんなこと言われても、名前なんか知る由もない。
でもまぁ多分、佐藤とか鈴木とかだろう。彼、そんな顔してるもん(?)。
「朝はイキナリでごめん。有村さんと話すんだと思ったら、ちょっとドキドキしちゃって」
「ううん、気にしないで。ちょっとビックリしたけど」
そう言ってあたしは彼に自慢の笑顔を向ける。そうすると彼はドキッとした表情で顔を赤らめる。
拍子抜けするほど予定通りだ。
「あの、実はオレ、前から有村さんのこといいなって思ってて、その」
予想通りの言葉。あたしにとっては欠伸をこらえるのに苦労するほど退屈な展開だ。
「で、よかったら、俺と付き合ってもらえないかな」
「ごめんなさい」
…あ、ちょっと即答しすぎた。もうちょっと考える素振りとか見せなきゃだよね。まぁいいか。
「気持ちはとっても嬉しいんだけど、まだあたし、鈴木くんのことよく知らないし…」
「いや、俺の名前は田中なんだけど」
「あなたは素敵な人だから、きっとあたしなんかよりいい子がすぐに見つかるよ佐藤くん」
「いや、田中…」
「じゃあ、ごめんなさい」
颯爽と去るあたし。完璧だ。色々と落ち度はあったかもしれないけど、完璧過ぎる女は可愛くないからむしろ逆に完璧だ。
そしてこれは、あたしにとって新たな記録に一歩前進する出来事だった。
「これで告白を断った人数、99人目。100人まであと1人。ふっふっふ…」
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◇有村沙耶の裏事情ファイル・その1◇
・実はとても腹黒い上に、猫被り。