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彼女の裏事情  作者: CORK
12/31

第11話

 時はクリスマス──。

 食べ物や飲み物を買い込み、各々が各々のプレゼントを携え、あたしたちは千帆宅に向かっているところだ。

 街はカップルや夫婦などで溢れ返り、イルミネーションやクリスマスソングもラストスパートとばかりに必死の自己主張をしている。

 目に眩しいほどの白が街にパウダーのようにまぶされて、幻想的で素敵なクリスマスを演出していた。

 ──と言いたいところなんだけど、あたし達の住む街は、ある程度都会である割には結構な豪雪地帯である。

 雪が靴から染み込んできて足はえらく冷たくなるし、地面が凍ってたりするとツルツル滑る。

 実際、雪国の人間は雪に幻想的で素敵な印象なんて抱いてはいないのだ。

 雪なんて雪山にだけ積もればいい。街中にはたまに申し訳程度に降ればそれでいい。

 しんしんと降る雪、なんて言葉を遠くに感じつつ、あたしたちは冷たく降り積もる雪を体に受けながらなんとか歩みを進めて行った。


「もう、なんっっっでせっかくのクリスマスなのに、こんな吹雪くかなぁ」

 あたしは体中に積もった(ついた、ではなく積もった、である)雪を千帆の家の玄関先で払い落としながら、そんな愚痴をこぼした。

「ホント。荷物を持ってる手はすごい冷たいし、せっかく髪の毛セットしても、頭にもどんどん雪が積もってくるしね」

 千帆が肩についた雪を払って、あたしの言葉に同意する。確かに、彼女は指先が寒さで真っ赤になっていた。見ると、あたしの手も真っ赤だ。というか、みんなの耳や鼻も多少赤くなっている。期せずして赤鼻のトナカイ大量発生だ。

「まあまあ、これから楽しいパーティーなんだから。文句ばっか言ってないで楽しもう」

 今回のパーティーで幹事を受け持った新は、案外責任感が強いのか、積極的にパーティーについて皆からの意見を聞いたりしていた。だからその分、彼としても今回のパーティーが楽しみで仕方ないんだろう。現に新は昨日からやけに張り切っている。昨日の夜なんていきなり電話がかかってきて

「明日楽しみだな! あ、でも雪が結構降るらしいから暖かい格好してこいよ? じゃあ明日の午後4時に駅前でな」

 なんてわざわざ言ってくるんだもん。相当張り切ってるなぁって感じでしょう? 無邪気っていうかなんていうか……可愛くて思わず笑っちゃったもん。普段は冷静でマイペースな玉山新だけど、こういうとこはやっぱまだガキだよね。


「あら、千帆。お友達?」


 その時、居間の方から女の人の声が聞こえた。千帆のお母さんなのだろう。端正な顔立ちに、少しおっとりした優しげな声。娘は父親に似ると言うが、やはりどこか千帆の面影を感じさせる穏やかな雰囲気の女性だった。

 千帆の母親と思しきその女性は言葉をさらに繋ぐ。

「もう仲のいいお友達が出来たのね、よかった。お母さんは今から出張で出かけるけど、お留守番よろしくね」

 そう言って本当に暖かい視線を千帆に向けるお母さん。素敵なお母さんだな、と思った。

「みなさん、どうぞゆっくりしていってね。千帆と仲良くしてやってください」

 最後にそう言うと、あたし達に笑顔で一礼して、彼女は外へ出た。


「素敵なお母さんだね」

「う、うん……ありがとう」

 あたしが賛辞の言葉を贈ると、千帆は少し寂しそうにうつむいてしまった。

 ……どうしたんだろう。

「じゃあまずご飯の準備しよ〜☆ わたし、ちょっとお腹減ってきちゃった」

 場の空気を一瞬で変える朱里の言葉。あたしは少しほっとしながら、思わず携帯の時計を見る。時間は17時35分。今から準備や調理を始めれば、ちょうど夕食時になる頃には作り終わるだろう。

「じゃ、始めますか」

 分担は、台所の構造に詳しい千帆がお皿や鍋を出しながら指示を出す。

あたしがサラダ関係を作り、朱里は出来合のフライドチキンを千帆が出した大きなお皿に盛り付けて、最後にみんなで唐揚げやらコロッケやらを作る。なんか太りそうだけど……まぁ今日くらいはいいよね?もっと詳しく料理の風景を描写したいのはやまやまなんだけど、何せ作者に知識がないので割愛させていただきます。

 新は今回色々頑張ってくれたから、料理の最中は休憩。女の子として、料理くらい出来ることを見せておきたいしね。……と、思ったんだけど、どうも彼は相当のご飯党だったらしく、それに手持ち無沙汰も手伝ったのか、ご飯なんかを研ぎはじめた。クリスマスとご飯ってなんかミスマッチな気がするんだけど……まあ新がそれで楽しめるならいいか。

 そしてそれらが終わったのは時刻は18時45分。まあ、夕食にはちょうどいい頃なんじゃないだろうか。新のご飯が炊けるまでにはまだちょっと時間があるけど、もうパーティー始めちゃおう。

「じゃ〜ん、ここでとっておきの登場です」

 そう言って新が何かを取り出した。

「……え? それ、シャンパン?」

「そ」

 そう、新は取り出した何かとは、なんとシャンパンだったのだ。しかも、ラベルにアルコールが入っているような記述があるんですが……?

「ま、いいじゃん。たまのイベントの日くらい。無礼講ってやつで」

 え〜、みなさん。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。なので、良い子は真似しちゃダメだぞっ。まぁ、あたしは飲むけどね。

「あっちんにしてはなかなかお洒落な演出じゃん☆」

「うん、たまにはこういうのもいいかもね」

 そう言う2人の表情も笑顔だ。それぞれが思い思いに楽しんでいるみたい。

「じゃあ乾杯しよ☆」

「何に?」

「クリスマスに、とか聖なる夜に、とかでいいんじゃないかな?」

「じゃあわたしが音頭やるね〜☆ え〜、みなさん♪ 今わたし達がこうしてクリスマスだからって浮かれて楽しんでいる間にも、世界中では何千何万という人間が飢餓や戦争で倒れ」

「却下!」

 慌てて声を張り上げるあたし達3人。

 楽しいパーティーが、あわやお通夜のテンションだ。こんな乾杯は絶対にさせちゃいけない。

「え〜、これから日本の少年犯罪の問題に踏み込むところだったのに〜! じゃあ沙耶ちゃんやりなよ。ぱちぱちぱち〜」

 少しつまらなそうに言う朱里。彼女はあのスピーチに自信があったとでも言うのだろうか。

「仕方ないなぁ。じゃあ……え〜っと、こうしてみんなで集まってパーティーが出来たことを嬉しく思います。新、幹事ご苦労さま。じゃあ、今日は楽しみましょ〜! 乾杯!」

「乾杯!」

 みんなでグラスを合わせて、シャンパンに口をつける。やっぱり少し苦い。

 まあ、いくらなんでもこんな微量のアルコールで酔う人はいないだろう。飲んで場のテンションが盛り上がるなら、それはそれでいいと思った。

「じゃあ、ついでにいただきますもしちゃおうか?」

 千帆が言った途端、思い出したように新のお腹が鳴った。反論の余地もないし、いただきましょう。

「じゃあ今度こそわたしやる〜☆ え〜と、みなさん。本日はお集まりいただきまして、誠にありがとうございます☆ 12月24日、つまり今日は、奇しくもうちで飼っていた犬のショコラの3回忌であり、今から1分間の黙祷を」

「いただきま〜す」

 もう朱里のことは無視することにした。この子はよっぽど場の空気を悪くしたいらしい。第一あの子に犬を飼っていた過去なんてない。

 っていうかそもそも、いただきますに前置きはいらないと思うけど。

「あ、美味いな、この唐揚げ」

「でっしょ〜☆ あたしたちの自信作なんだからっ」

「沙耶の作ったサラダも美味しい! ドレッシングが家のと違うからかな」

「あ、それ有村沙耶特製のスペシャルドレッシングなの。野菜嫌いのお子様にも是非!」

「どこのテレビショッピングだお前は」


 そんな感じで楽しく食事をするあたしたち。気付くともうお皿の上にはほとんど何も残ってなくて、シャンパンもかなり少なくなっていた。

「はあ、割と満腹になったな」

 そう言ってくつろぎはじめる新。

「もう食べられましぇん♪」

 朱里も満足気な表情を浮かべている。

「……おさけ」

 千帆も満足したみた……って、え?

「おさけ、もうないの」

 頬をほんのり赤らめてお酒をせびる千帆。まさか……酔ってる?

「いや、一応ひとりで飲もうと思って買ってきた焼酎があるけど」

 しょ、焼酎? シャンパンで酔う人に焼酎って、それは……。って言うかそんなもんひとりで飲もうと思って買ってくるな! おっさんかあんたは!

「のむのむ〜! あらたくん、いっしょにのもう?」

 千帆の口調が、まるで幼稚園児のそれになっていた。しかも、有無を言わせぬ感じだ。

「さやもぉ〜、のむよね〜?」

 ……目が据わってる。千帆のこの言葉は質問なんかではなく、確認だった。

「は、はい! お供させていただきますっ」

 断ったら殺される、断ったら殺される、断ったら殺される、断ったら殺される……!

「あかり〜、も、のむ、よねぇ?」

 すでに日本語ではない。読者のみなさん、読みづらくてすいません。後であの子しばいときます。

「いえいえ、何をおっしゃる☆ わたくしみたいなもんが千帆様より先にお酒をいただくなんて。ささ、お注ぎいたしますからどうぞどうぞ☆」

 ……朱里のやつ、この状況を楽しんでるな。凄い順応性だ。

「お〜っ、ありがとぉ。もうあたしあかりちゃんのこと、だいしゅきぃ」

 そう言ってなみなみ注がれた焼酎をストレートで一気飲みする千帆。……これは、死ぬか吐くかしか道は残されてないな。

「あははっ☆ た〜のしいねぇ〜♪」

 千帆さん……口調が朱里みたいになってますよ?書き分けるの大変だからやめてもらえません?ただでさえ作者にはお猿さん並の文才しかないんだから。

「なあ、沙耶。ここは千帆ちゃんを早いとこ酔い潰れさせちゃって、ベッドにでも寝かせとかないか」

 新があたしにそっと耳打ちしてくる。……あたしも今の千帆の様子を見る限りじゃ、それがいい気がしてきた。

「こらっ! さ〜や、あらた! なにふたりでコソコソしてるの? まったく、あんたらいっつもラブラブいちゃいちゃするんだから」

「なっ、ラブ、い!?」

 あたしと新がいつラブラブいちゃいちゃしたのよ、と言おうとしたが、ほとんど言葉にならなかった。あたしも酔ってるんだろうか……。

「沙耶、酔っ払いの言うことだから」

「あらららっ? 千帆さんグラスが空ですよっ☆ まぁ飲んで飲んで♪」

 そう言って千帆のグラスに焼酎を注ぐ朱里。思えば、真っ先に千帆を酔い潰れさせようとしていたのが朱里だった気がする。そう考えると、朱里はかなりの策士だ。

「じゃあ、だいいっかい、ぶっちゃけバナシたいかい〜!ぱちぱちぱち!」

 まずい。2杯目の焼酎を一気してさらにテンションが上がってしまったらしい。訳の分からない大会を勝手に開催し始めた。

「まぁず、あらたぁ! あらたはねぇ、もうちょっとあつくなりなさい! としごろのオトコのコがそんなにいつもレイセイでどうすんのっ!?」

「はっ、はい! ごめんなさい!」

 完全に勢いに呑まれている。まあ、多分あたしでもそうなるだろうけど。

「あと、さやとすぐラブラブいちゃいちゃするのやめてね? どくしゃがゴカイするから」

「いや、誤解してるのは千帆ちゃんだけじゃ……」

「つぎ、あかりっ!」

「いぇー☆」

 新の反論は呆気なく却下される。一人だけノリノリな朱里だった。

「あかりはもう、かわいいっ! うちでペットとしてかいたい! もぉ〜、ちっちゃくてカワイイのがうらやましいっ」

 そういえば、千帆は身長が170くらいある。スラッとしたモデル体型で羨ましいとあたしは思うんだけど、彼女としてはもしかしたらそれがコンプレックスなのかも。

 しかし、新の時とはうってかわってベタ誉めだな。千帆はよっぽど朱里がお気に入りらしい。

「ごめんね、千帆ちぃ☆ 朱里には沙耶ちゃんという心に決めた人がいるの☆」

 ……こいつもこいつでまた事態がややこしくなるようなこと言いやがりますしね。

「……さやぁっ!」

 ……ほら〜、心なしか何か怒ってるよ。声が怒気をはらんでるもん。

「え〜、どのようなご用立てでございましょうか、千帆さま?」

 下手下手に出るあたし。まだ命は惜しい。

「さやはね〜、ずるいよぉ? ふこーへー!」

「は?」

 酔っ払いに理路整然とした理論展開を期待する方が勘違いなのだろうが、あたしは思わず聞き返してしまっていた。

「さやはぁ、なんですっぴんなのに〜、そんなにキレイでカワイイの? はんそく〜、ルールいは〜ん」

 確かに、男の子の前だって言うのにあたしたちは、もうすでにほぼ化粧が落ちて、すっぴんと化していた。

 でも千帆のすっぴんだって、あたしからすれば、十分過ぎるほどって言葉でもおつりがくるくらいきれいだった。

「いいなぁ。さやみたいにきれいなコにうまれたかったなぁ」

 気付くと、千帆はポロポロと大粒の涙を流している。あたしは、訳が分からなくて混乱し始めていた。

「ち、千帆?」


「あたしがもっと……ステキなコだったら、パパもあたしをおいていかなかったのに」


 ……。

 言葉が出なかった。

 あたしはいつもそうだ。

 大事なところで、言葉に詰まる。

 千帆は、本当は寂しがっていた。

 千帆は、本当は父親のことが大好きだった。

 でも、あたし達の前ではそういう自分を見せまいと頑張って耐えていたんだ。

 あたしは今まで、千帆の寂しさを少しでも埋めてあげられているような気がしていた。

 でもそれは違った。

 あたし達にしてあげられることは、彼女の寂しさを誤魔化して紛らすこと。

 彼女が心の奥に隠し持つ本当の寂しさは、あたし達にはどうすることもできない。

「ごめん……。あたし、酔っ払ってるね」

 泣いたことによって酔いが冷めてきたのだろう。涙を拭きながら笑顔を作る千帆。


 この子は、この17年足らずの人生の中で、一体どれほどのものを抱えてきたんだろう。思春期の多感な時期に父親が母親以外の人を愛し、自分の元を去っていく。幼心にどれほどのショックを受けたか、悲し過ぎて考えることも出来なかった。

 不意に横を見る。新も神妙な面持ちでうつむいていた。

 朱里は……? 見ると、珍しく真剣な表情で千帆を見つめていた。そしてその朱里が、不意に口を開く。

「千帆ちぃ。なんで泣くの? 沙耶ちゃんとあっちんが心配してるよ」

 何を言うのかと思えば。今はそんなことを言うべきじゃない。そんなこと、朱里だって分かってるだろうに。

「ご、ごめんね……」

 しゅんとして笑顔を作る千帆。

「ちょっと朱里……!」

「沙耶ちゃんは黙ってて」

 朱里を咎めるべく発したあたしの声は、朱里の珍しく強い語調に掻き消された。

「千帆ちぃのお母さんは、たった一人でも千帆ちぃを育ててくれてるんだよね? 千帆ちぃ、愛されてるじゃん。暖かい家があって、愛して育ててくれる親がいて、心配してくれる友達がいて、あと何が必要?」

「朱里、今はそういう話をしてるんじゃないから」

 新が暴走しはじめた朱里を制する。朱里の言うことは、あるいは正しいのかもしれない。ただ、いつでも正しいことを言うのがすなわち正解とはならないのも確かだ。

「なに、あっちん。じゃあどういう話なの? 千帆ちぃが泣き止むまで待って、何とか無難にパーティーを終わらせようって話?」

「……違うよ。もう少し千帆ちゃんの気持ちを察してあげてもいいんじゃないのって言ってるんだよ」

 2人が口論をはじめる。きっと2人とも、友達のことを想うがゆえにそういう行動に出てしまうのだろう。

 そうは思っていても、この険悪なムードをいざ目のあたりにすると、それはあたしからすれば少し耐えがたいものだった。

 当の千帆は、蒼い顔をして困惑していた。2人の口論は彼女の罪悪感を加速度的に扇るものだったからだ。

 それでも、あたしには朱里の苛つく気持ちが痛いほどよく分かる。

 だって彼女は……。

 そしてあたしは、朱里に助け舟を出す決意をした。

「ごめんね、新、千帆。朱里を悪く思わないであげて」

「……沙耶?」

 いきなり会話に加わったあたしに、新は驚きを隠せないようだ。

「千帆。お父さんがいないのは寂しいよね。分かるよ」

 千帆は黙っていた。黙ってあたしの言葉に耳を傾けている。

「──ううん、多分、分かってはいない。あたしには両親がいるから。きっと分かったような気になってるだけだと思う」

 その言葉を聞いて、千帆は寂しそうな冷めた笑いを浮かべた。

「……ごめん、沙耶。分かってるんだ、あたし。本当はこんな顔をみんなに見せちゃいけないって。関係のない問題にみんなを巻き込んで、せっかくのパーティーを盛り下げちゃいけないって」

 それを聞いてあたしは寂しい気分になった。だけど、ここで引く訳にはいけない。あたしは彼女に、伝えたいことをまだ何も伝えてはいないのだから。

「そうじゃないの。盛り下がるのが嫌だなんて思ってないし、関係ないなんて言われたら寂しいよ。……そうじゃなくて、この中で一番千帆の気持ちが分かってるのは、多分あたしじゃないってこと。ね? 朱里」

 いきなり話を振られたにも関わらず、無言で千帆の方を見つめる朱里。その目には、何か光るものがあるような気がした。

「……」

「……どういう、ことだ」

 無言で怪訝な表情を浮かべる千帆と、訳が分からないと言った様子で疑問を口にする新。

「沙耶ちゃん、いいよ」

 普段の彼女からは想像もできないような無表情でそう言い放つ朱里。それはつまり『そんなこと言わなくていいよ』という意味だ。それでもあたしは言葉を止める訳にはいかない。例え自己満足と呼ばれようが、友達同士にわだかまりが残るのは嫌だった。

「朱里、ごめんね。……千帆。朱里はね、幼い時にご両親を亡くしているの」

 場がしんと静まり返った。あたしは間違ったことをしているんだろうか。そんな考えを振り払って、先を続ける。

「朱里はそれから、祖父母に預けられて……両親の温もりを知らずに育てられたの。だからきっと、朱里は羨ましいんだと思う。千帆には母親がいるのに、父親がいないのが寂しいだなんて、どれだけ羨ましい悩みだろうって。思ってるんだと思うの」

 千帆は黙っていた。新も、当の朱里さえも黙っていた。そしてあたしは、朱里の沈黙を肯定と解釈して先を続けた。

「千帆は悪くなんてないと思う。父親がいない千帆がそれを寂しがるのは、当然のことだもん」

「……ごめんなさい」

 不意に謝罪の言葉を述べたのは、千帆だった。

「本当はね、寂しくなんてないの。今はみんなのおかげですごく毎日が充実してる。でも……」

 千帆は先を続けるのを躊躇うような表情を見せた。しかし、その一瞬後にはしっかりと顔をあげて言った。

「時々ね……本当に時々、ふっとそのことを思い出しちゃうの。お父さんが、あたしとお母さんを棄てて出ていった日のこと。そしたらたまらなく悲しくなって……」

 そう言った千帆の表情は、悲しそうな笑顔だった。

「ねぇ、朱里。朱里はないの? 両親を思い出して悲しくなっちゃうこと」

 ……沈黙。永遠にも思えるようなほんの僅かな静寂。その一瞬後、朱里はゆっくり口を開いた。

「ないよ」

 ひどくあっさりした答えだった。朱里は相変わらずの無表情で、それは怒っているようにも涙を堪えているようにも見えた。

「そっか……朱里は強いね」

「……弱いよ」

 即座に千帆の言葉を否定する朱里。

「……そっか」

 それだけを呟き返す千帆。あたしには何も分からなかったけど、2人の間で何か納得出来るものがあったんだろうってことは何となく思った。

 ──そして、会話は終わった。


 その約一時間後。時刻にして21時30分過ぎ。あたしたちは笑っていた。いつものように。普段通りのあたしたちに戻って。

 え? その1時間の間に何があったのかって? ごめん、正直あたしもよく分かんないんだよね。

 あの後、いきなり千帆が笑い出して、それにつられるように朱里も笑い出して。

 あたしにも新にも相変わらずさっぱり訳が分かんないんだけど、やっぱりあの2人なりに何か感じるものがあったんじゃないかな? お互いにさ。

 あ、クリスマスプレゼント交換もしたよ。クリスマスソングに合わせてプレゼントを回して行って、曲が止まった時点で手元にきたプレゼントをもらえるってやつ。あたしのトコには、新のプレゼントが来た。ガラスの天使像が上に乗っかってるオルゴール。本人は安物って言ってたけど、結構高かったんじゃないかなぁ?

「女の子が喜ぶプレゼントって分かんなくてさぁ」

って本人は言ってたけど、あたし的にはかなり嬉しい。朱里も千帆も『いいなぁ』って言ってた。曲名は分からなかったんだけど、メロディもすごくきれいなんだ。あたしはお世辞を抜きにして一瞬で気に入ってしまった。

 あたしのプレゼントは、四ツ葉のクローバーのネックレス。これは朱里のところに行った。葉がひとつひとつ別れるようになっていて、朱里はこれをひとつずつみんなに配っていった。プレゼント交換の意味がない気がするけど、朱里が言うには『友情の証』らしい。いかにも青春って感じでちょっと照れ臭いけど、たまにはこういうのも悪くないよね。

 で、朱里のプレゼントは今人気の可愛らしいクマのキャラクターが赤い帽子と赤い服に身を包んだぬいぐるみ。いわゆるサンタルックだ。大きさは相当なもので、これは千帆に渡った。これで少しでも千帆の寂しさが紛れるといいな。

 千帆のプレゼントは、もちろん新へ。ニットの帽子とマフラーのセットだ。可愛いというよりはかっこいいデザインで、

「新くんに渡っても大丈夫なように」

とこのプレゼントを選んだらしい。もちろん女の子でもおかしくないデザイン。いつも周りに目が行き届いている彼女ならではのプレゼントだ。


 そして、クリスマスケーキ。サンタクロースをかたどったお菓子がちょこんと乗っかってる可愛らしいケーキだ。ロウソクの数はもちろん4本。これを、電気を消して4人で吹き消した。ケーキは胸やけしそうなくらい甘くて、でも何となくそれが心地よかった。


 あたしたちはその夜、いっぱい笑って、いっぱい騒いだ。色々と問題も起きたけど、結果的には胸を張って楽しかったと言える夜だった。

 サンタクロースさん。もしもまだあたしたちもプレゼントが貰えるのであれば、どうか聞いてください。

 願わくば、この夜が終わっても、こんな素敵な仲間と過ごすこんな素敵な時間が、いつまでも続いていきますように。


 メリークリスマス!



※※※※※※※※※※※※※※※※※※



◇有村沙耶の裏事情ファイル・その11◇


・案外青春とか恥ずかしい展開が好き。


 今までと比べるとめちゃめちゃ長い上に、時間がなくて上手くまとまらなかったので、多少の含みを持たせた話となっております。分かりづらいというご意見が多数あった場合、補足説明的なお話を書きたいと思ってます。自分としては割と気に入ってますけどね、笑いが少ない以外は…(笑)

 まぁ、それもクリスマス仕様ってことで(笑)クリスマスまでに公開されるか分かりませんが…。

 それでは、長々と失礼しました。よろしければまた読んでくださいね。

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