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彼女の裏事情  作者: CORK
11/31

第10話

 あれから、警察や学校から連絡が来ることもなく、あたしたちは平和的に週末を終えた。

 そして、テスト返却日である月曜日がやってきた。


 一時間目、数学──。

 基本的にあたしは理数系の教科は苦手なのだが、みんなでした勉強会のおかげで、ある程度の自信はあった。

 いきなり一番苦手な教科が来てしまったが、ここさえ乗り切ってしまえば、後はある程度気楽にいけるだろう。

 ちなみに、いつもは大体60〜70点があたしの数学の平均点だ。ひどい時は50点台の点数だったりもする。

「有村」

 女子の出席番号が一番なあたしは、いきなりテストを返されることになる。

「どうしたんだ? 今回は」

 数学教師がテストの返却際にそんなことを言うもんだから、えらく不安を掻き立てられる。

 おそるおそる答案用紙を覗き込んでみると……。


 84点。


 ……。

 いいじゃん。

 不安をあおるような言い方するから、何事かと思ったよ。

 あたしはほくほく顔で席に戻った。

 で、自己採点なんぞをしてみる。あたしってほら、優等生だから? かっこ笑い。


「あっ、沙耶ちゃん84点だ! すっご〜い」


 あたしの答案用紙を見つけた朱里が、目を丸くしてそう言った。普段のあたしなら数字でこんないい点は採れないことを彼女は知っているから。えへ、ちょっと嬉しい。


「ありがと。朱里は何点だったの?」


 照れ隠しに冷静を装ってあたしがそう尋ねると、朱里は自分の答案用紙を持ち出した。


 92点。


 ……。

 この子、明らかにあたしのことバカにしてるよね?

 ま、まぁ、苦手の数学だしね。別に負けてもいいわよ。合計点では負けないんだから。

「あ、千帆ちぃ! 千帆ちぃは何点だったの?」

 朱里が声を掛けた方向を見てみると、その声に気付いた千帆がこっちに笑顔を向けていた。

「ふふっ、ちょっと頑張っちゃった」

 そういう千帆の手には、もちろん答案用紙。


 点数は……99点!?


 一問だけ惜しいケアレスミスをしてしまったようだけど、後は見事に丸印のオンパレード。これにはさすがのあたしも、称讚を贈るしかなかった。


(くっそ〜、いきなりスタートダッシュに失敗した! もう、次、次!) 


 あたしがここまでテストの点数にこだわるのには理由がある。

 まあ、第三者が聞けば他愛のない話だと思うけど、朱里と千帆、さらに新と賭けをしているのだ。

 全教科の合計点がビリの人は、トップの人の言うことを何でも聞かなければいけない。過去の実績ではあたしが一歩リードなんだけど、千帆は正直未知数だし、朱里はこういう勝負事になると滅法強くなる。新は地味に努力家だから実はとんでもなく学力が上がってるかもしれないし、あたしもうかうかはしていられない。

 ていうか事実、今のところはクラスの違う新を抜かしたらビリはあたしだ。悔しがるあたしを横目に、千帆は笑顔で途中経過をルーズリーフに書き記した。


沙耶→84点

朱里→92点

千帆→99点

新 →?



 二時間目、現代国語──。

 国語を得意としているのは新。彼がこの場にいないのは少し気楽だった。

 さて、ではこの場にいる3人の中で、一番有利なのは誰か?

 あたしは多分、英語が得意な自分だと思う。国語も英語も所詮、単語さえ知っていれば他に大事なのは文法と熟語である。その点から見て、主語述語云々を知り尽くしたあたしが一歩リードなのではないか。

 逆に朱里は国語が苦手なはずである。新に教わったとは言っても、所詮は付け焼き刃。元々それが得意な人間には敵わないと、あたしはさっき身を持って知った。

 というか、科学と数学ではある程度の点数が採れていればいい。理数系の科目が得意なこの2人に勝てるとははじめから思っていない。というか、そうとでも思わないとやってられない。


「有村」


 名前を呼ばれる。ここで突き放すか、せめて差を縮められないとなると、この先の展開がかなり苦しくなる。実際、採点はもう終わってるんだから結果は出ているんだけど、あたしは祈らずにはいられなかった。

 用紙を受けとる。点数は……。


 94点。


 小さくガッツポーズをするあたし。この瞬間、少なくてもこの教科での勝ちは確信した。もしかしたら新は100点近い点数を取っているかもしれないが、それはこの際関係ない。まあアイツも文系人間だから、科学と数学は弱いだろうし。

 結果、千帆は82点、朱里は74点で、この教科はあたしの圧勝に終わった。あ〜よかったぁ……。

 あたしは少し本気で安堵していた。


沙耶→178点

朱里→166点

千帆→181点

新 →?


 三時間目、日本史──。

 この教科は、見事に得意な人間がいなかった。つまり、純粋な記憶力勝負となる。

 あたしからすれば計算問題が一切ない科目、というだけで自分的にはかなりのプラス要素だけれど。プレッシャーがあるかないかは想像以上に大きな要因に成り得るのだ。

 ではいざ尋常に、勝負!


 ……で、結果。90点。


 まあ、この点数ならまあまあだよね。ていうか、理数系の教科でなければある程度の点は取れるんだから。なんて余裕をかましていたら、朱里の答案用紙を見せられて一気にその余裕が砕け散った。


 朱里の点数、96点。

 考えてみれば、朱里の得意な科学は、物理はともかく生物は暗記が多い。そして、日本史も暗記系の教科だ。その教科の好き嫌いも関係するとは思うけど、朱里はもともと記憶力に優れているらしい。

 そして千帆。彼女は専門外であるはずのこの教科でも、手堅く点数を伸ばしてきた。

 82点。

 さすがにあたしたちには及ばなかったってのは助かったけど、彼女のポテンシャルはいよいよもって侮れないな、と思った。


沙耶→268点

朱里→262点

千帆→263点

新 →?


 四時間目、科学──。

 この時点で一歩リードすることに成功したあたしだけど、ここでまた難関が待ち構えていた。

 科学の内容が暗記の多い生物ならまだいい。しかし、こともあろうに計算問題が非常に多い物理が今回のテストの出題内容なのである。

 元より科学が得意な朱里はもちろん、数学が得意な千帆にとっても非常に有利な教科ではないか。 あたしは、勝てないまでもせめて2人に大差はつけられませんように、と祈った。


 で、あたしの点数、76点。


 ここでは少し差が開くな、と思った。そして案の定、千帆は92点、朱里に至ってはなんと100点満点の答案用紙を持って戻ってくる始末。

 …………まずい。


沙耶→344点

朱里→362点

千帆→355点

新 →?



 昼休み──。

 あたしたちは仲良く昼食を採っているようで、実は見えないところで火花が散りまくっていた。新はそれを少し気まずそうに眺めていた。

「──新、何点?」

「は?」

「今までの合計点よ。賭け、忘れた訳じゃないでしょうね」

 新はさらに気まずい様子で、頭をポリポリと掻いた。

「忘れてはないけど……ほら」

 そう言って、新は今までの答案用紙を出した。

 日本史、92点。科学、80点。数学、84点。英語、94点。

 計350点。


 ……本格的にマズイ。今のところ、あたしが単独でビリではないか。しかも、新のクラスではまだ新の得意な国語が返却されていないらしい。国語で新が95点以上採った時点で、あたしがトップに立てる可能性は消滅する。

 ただでさえ他の2人に10点以上の差をつけられているというのに。このままではトップどころか、ビリも見えてきた。

ここから起死回生を狙うには、何とか得意の英語で100点近い点数をとり、他のみんなの不調を期待するしかない。こんな他力本願は正直不本意だけど、状況が状況だけに仕方がない。とにかく、なんとか午後の英語で巻き返しを図らないと!


「沙耶、あたしノートパソコンが欲しいなぁ」

「俺はプラズマテレビが欲しいかな」

「えっとわたしはね〜、莫大な遺産を持った死にかけのお爺ちゃんと仲良くなりたいな☆」


 みんなの言葉を聞いて、背筋に悪寒が走った。たかが期末テストの点数で競っているだけの幼稚な賭けじゃないか、と思うなかれ。あたしには、彼女たちなら(特に朱里)そんなバカな要求を本気でしそうな気がしてならない。あたしのプライド的にも、世の中の倫理的にも絶対に……負けられない!

 あたしは祈りにも似た気持ちで、英語の満点を願った。


 そして五時間目、英語──。


 テストは、すでに返却されている。朱里も千帆も、もちろんあたしも。

 答案用紙を片手に固まるあたし。そして数秒後、無意識に体が震えた。


 有村沙耶、英語──100点。


 何かを成し遂げたような達成感でいっぱいだった。

 だけど、まだ手放しには喜べない。むしろここからが本当の戦いなのだ。

 ……合計点が何やら不吉な数字だということは、この際置いておこう。


 沙耶・最終得点→444点


 さて、次は朱里だ。

 朱里は今までの得点が362点だから、83点以上ならあたしのトップがなくなり、82点未満なら朱里のトップがなくなる。

 朱里が答案用紙を小脇に抱えて、ゆっくりと席へと戻ってくる。

「……朱里、何点?」

 あたしは問いかける。朱里が口を開くまでの間、やけに時間がゆっくりに感じられた。


「……80点」


 ……。

 勝った──。

 この時点で、あたしにビリはなくなったわけだ。

 身体中を歓喜の渦が駆け巡るのを必死に抑え込む。

 そう、まだ喜ぶには早いのだ。


 朱里・最終得点→442点。



 次は千帆だ。あたしは朱里にしたのと同じように、彼女にも点数を尋ねる。

 ちなみに彼女は今までの総合得点が355点。つまり彼女の点数が89点未満なら、あたしの勝ちだ。


「千帆……何点?」


 この質問の答え如何によって、誰かが地獄に近付く。まるでパンドラの匣を開けるキーワードでも唱えているような気分だ。


「あたしはね……84点よ」


 勝った……。

 苦笑して『仕方ないか』と呟く千帆と、口を尖らせている朱里をよそに、あたしはほっと溜め息を吐いた。

 でもあたしは、まだ気を緩める訳にはいかない。

 思わずニヤけそうになる自分を、そう戒める。

 そうだ、まだプラズマテレビ……じゃない、新が残っているのだから。


 千帆・最終得点→439点。



 放課後──。

 新との一騎討ちの形になったあたしは、彼と向かい合う形で屋上に立った。


「まさか沙耶が残ってくるとはな……その粘り強さは誉めてやる」


「いいわよ。誉めるのはあんたに勝った後でも出来るでしょ」


「言ってくれるね……。まさか、俺に勝てる気でいるのかい?」


「そのセリフ、そっくりそのままお返しするわ」


 まるで時が止まったように、静かに相まみえる2人。


「……ねぇ朱里ちゃん。あの2人、なんかキャラ違くないかな?」


「自分に酔ってるんじゃない? バカだから☆」


 負け犬の遠吠えなんか聞こえない。大体、朱里だってしょっちゅうキャラ変わってるでしょうが。第1話と比べたら、あんた全然キャラ違うから。


「じゃあ、まずあたしから行くわよ。あたしの最終得点は……444点よ」


 あたしは高らかに自分の点数を発表する。彼は95点以上でなければ勝てない訳だから、戦意を失うのは目に見えていた。いかに得意科目だろうと、95点以上出すのは容易ではない。

 ──しかし。


「はは、444点か。所詮その辺りが沙耶の限界だな」


 新は不敵な笑みを浮かべた。

 まさか……まさか!?


「まず、最初に言っておくよ。お前はよく頑張った。逆境をはねのけてよくぞここまでのしあがって来たもんだ」


 まるで子供でもあやしているかの余裕な表情を浮かべる新。

 そ、そんな……これを打ち破れる記録なんて、そうはないはずなのに……。

 あたしは、目の前にいる敵の強大さを切に思い知った。

 思い知らざるを得なかった。


「それとな、沙耶。最後に一言だけ言わせてもらうよ。……参りました」


 は?

 参りましたと言って答案用紙を差し出す新。


 その点数は……86点。


 え〜っとつまり、新の総合成績は……。


 新・最終得点→436点。


 ビリじゃん。

 あれだけ偉そうなこと言っておいて、新くんビリですよ?

 ちなみに最終結果はこんな感じ。


1.沙耶=444点

2.朱里=442点

3.千帆=439点

4.新 =436点



「え? 俺ビリ?」


 ちょっと意外そうな新。まぁ、実際彼はトップのあたしと8点しか違わないのだ。まさかそれでビリだなんて思わなかっただろう。あたしだってここまで実力の拮抗した勝負になるとは思っていなかったし。


「……仕方ないな。じゃあ沙耶、何でも聞いてやるよ。来いっ!」


 観念したようにそう言って両目を閉じる新。

 大げさだっつーの……。

 あたしは苦笑しながら、彼に向かって言った。


「クリスマスパーティーやるから、幹事よろしく。あ、あと荷物持ちとか雑用もね」

「……え? そんなんでいいのか?」


 どんな過酷な要求をされると思っていたのか、新は拍子抜けしたように目をぱちくりさせた。


「そん代わし、最高のクリスマスパーティーよろしくね」

「ああ、そのくらいでいいなら、任せろ」


 そう言う新は笑顔だ。うんうん、なかなか頼もしいぞ。


「ちなみに場所は、千帆ん家が大丈夫なんだよね?」

「うん。ていうかその時期は母親が出張でいないから、むしろ来てほしいかな。泊まりでもいいよ」


 笑顔でそう言う千帆。泊まりで騒ぐのもたまには悪くないかもしれない。新の幹事も楽しみだ。

 クリスマス、今年はちょっと期待出来るかな。


 この時期、テストさえ終わってしまえば後はさしたイベントもなく、終業式は瞬く間に訪れた。

 冬休み──そしてクリスマス。



※※※※※※※※※※※※※



◇有村沙耶の裏事情ファイル・その10◇


・勝負事になるとやけに必死。



メッセージをくれた方、本当にありがとうございました。すごく嬉しかったです。

 次回はクリスマスの話です。実際のクリスマスの時期からは少しずれるかもしれませんが、どうぞお楽しみに♪

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