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Only(私)

作者: 春口 仇
掲載日:2026/08/13

only(僕)のシエル目線です。

Only(僕)を前提として書いているので、ぜひぜひOnly(僕)の方も

お読みになってから、読んでみてください!

長くなってしまっているので、すいません;;。

温かい。

まるで天使のような微笑み。

手を伝わる柔らかい感触。

鼻をひくつかせ、匂いを吸い込む。

呼吸が落ち着く。

でも、でも違う。

この子とは。

彼らだけのこの子とは。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ずっと虐げられてきた。

比較され、蔑まれ、掃き捨てられた。

私が、私はみんなと同じ「普通」に生きている、と思えたのは

5,6年だけだった。

今思えば、その5,6年さえも「普通」ではなかった。

私が生まれたのは普通の家だった。

この時代には一般的となってしまった、「普通」の家だった。

この時代の家庭には、子供を3人も4人も育てれるようなお金はなかった。

だから発生したのが残余児だ。

出来の悪い子を何処かへ捨てに行く。

酷いと思えるのは、きっと私が「普通」じゃないからだ。

私も例外なくだった。

言葉で表すと一瞬だった。

目が覚めると山奥。

見ていたはずの白い天井はなく、

緑の隙間から溢れる白線だけ。

夢だと思った。でも、匂いや感覚はあった。

困惑はしたが、怒りや悲しみは生まれなかった。

そもそも私は家で、ないものとして扱われていた。

理由なんか考えたこともない。

食事は一日二回。パンと、少しの野菜。

個別の部屋、と言ったら聞こえが良いが、

牢屋のような場所で暮らしていた。

そんな私を捨てるほど生活に困っているのだろうな、と哀れにも思えた。

私の側には、バッグがあり中にはパンが入っていた。

近くに使われていない山小屋のようなものもあり、さほど生活には困らなかった。

1年ほどで、ちびちびと食べていたパンはなくなった。

しかし、周りには木の実があったし水も困らない。

ふとなんで私はこんな生活をしているのだろうか、と考えたこともあった。

でも、神様のご指示だろうとも思ったし

これが「普通」だと思っていた。

木の実を食べ、野草を食べ、川の水を飲む。

そうやってずっと生きてきた。

何年だったのかはわからない。

楽しいことも無ければ、つまらないこともない。

「普通」だと思って暮らしていた。この生活にもすっかり慣れた。

でも段々と、一日に食べる量も増えてきたし、

周りにご飯が無くなっていった。

数日はなんとか我慢できた。

けれど、日に日にお腹は減っていく。

どこか遠くへ行けば、ご飯があるのではないかと考えて、

山の麓まで降りた。

見たことないものばかりだった。

首が痛くなるような大きな建物。

人の笑い声が聞こえる建物。

ただただ驚いた。

空は真っ暗なのに、目の前は光っている。

クラクラするような刺激を受けながら、夜通し歩き続けた。

明け方になって、一つの公園に着いた。

一晩中歩き続けて疲れていたから、茂みの裏で少し寝ることにした。

気がつくと、頬になにかが当たるような感覚があった。

なんだろう、と思い眠い目を擦って起き上がった。

シパシパする目をひとしきり擦ったあと目を開けた。

眼の前に顔があった。

驚いて飛び跳ねてしまった。

状況があまり掴めず、困惑した。

目の前の人は誰なのか。

なぜ居るのか。

色んな事がわからず、オドオドとしてしまった。

ふと、相手の顔を見た。

艶のある髪。シュッとした目。

落ち着いた印象がある。

だけれどどこか幼さを感じる人だった。

綺麗だと思った。

でも、時間が経てば経つほど困惑するばかりだった。

なにか良くないことをしたのではないかと思い、

頭を下げ足早にこの場を去ろうとした。

「君。なぜ。ここ」

公園の出口に差し掛かった時に、単語ばかりの日本語でそう尋ねられた。

おっとりとしていて、落ち着きのある声だった。

このときにはきっと既に、彼を好きでいたのだろう。

なぜここにいたのか。

お腹が減っていたから、倒れてしまった。

なんて言えばいいのかを、考え考え話した。

「私。空腹。倒れた。ここ。ごめんなさい。帰る」

合っているだろうか。

彼は少し考えた顔をした。

とにかく邪魔をしたみたいだから、ここを離れなきゃ

と思い公園を出ようとした。

「僕。一人。ここ。君。住む。どう?」

そう声を掛けられ、思わず振り返った。

意味はなんとなく分かった。

彼と住む。ここに。

誰かと一緒に住む、ということをずっとしたことがなかった。

彼の幼気な瞳が、私を見つめていた。

彼は笑っていた。

その笑顔が今まで見てきた何よりも綺麗で美しかった。

背負っていた何かを降ろしてくれたみたいだった。

それだけで十分な理由になった。

彼となら、そう思った。

「本当。私。ここ。住む。ありがとう」

彼の笑顔が一段と輝いた。

私にはない、純粋な笑顔だった。

「僕。く、く、クロノ。君。なに」

惚けているとそう言われた。

クロノ。名前だろうか。

名前。私にはなかった。

ずっと、「お前」と呼ばれていた。

「私。ない」

恥じらいと劣等感が襲ってきた。

初めてあの生活を恨んだ。

「僕。君。名前。教える...あげる」

そう言うやいなや、考え込んだ顔をした。

名前、あげる?名前をくれる、ということ?

彼...クロノが?私に?

私も私で困惑し考え込んでいた。でも嬉しかった。

「本当。ありがとう。私。君。好き」

心のそこから出た言葉だった。

でもクロノはわかっていないような顔をして

「まって。僕。君。名前。考える」

とまた考え込んでしまった。

「し、し、シエル。僕。クロノ。君。シエル」

「シェル?」

「シ・エ・ル」

『シエル』それが私の名前?

「シエル。私。シエル」

きれいな響。

クロノの期待している可愛らしい顔。

とても気に入った。とても嬉しかった。

思わず顔が綻び、笑みがこぼれた。

それを見てクロノも笑った。

それだけで一生分の宝物をもらった気がした。

それからクロノと私は一緒に過ごした。

一緒に寝て。一緒のご飯を食べて。一緒に遊んだ。

クロノは私の知らない世界をたくさん教えてくれた。

私はいろんな言葉をクロノに教えた。

満ち足りた生活だった。

初めてこの「普通」の生活を手放したくないと心から思えた。

二人で笑って。二人で遊んだ。

クロノはみるみる綺麗になった。

背が高くなり、体も大きくなった。

けれど、目の中の幼さは変わらず

ずっと私を虜にしていた。

私も髪が伸び、手足が長くなった。

クロノは率先してご飯を取りに行ってくれた。

私はクロノとの居場所を守っていた。

クロノがご飯を取りにいっている間、気が気じゃなかった。

怪我をしていないか。他の女に酷い目にあっていないか。

だからクロノが無事に帰ってきたときは、思い切り抱きついた。

手放したくない。ずっとこの「普通」で居たい。

そう願った。

でも、神様は平等だ。

いい思いをしている私達に、重い枷をつけた。

ある朝目が覚めると、隣にいるはずのクロノがいなかった。

不安になり、公園を探した。

クロノは公園の真ん中で寝ていた。

クロノはボロボロで血がついていた。

クロノの目の前にあった木には無数の傷があった。

私はそんなクロノを見て動揺し、急いで寝床に運んだ。

クロノが死んでしまったのではないかと思って、必死に

起こそうとした。

数分すると起きた。

安心して、涙がこぼれた。

クロノはそんな私をみて困ったようで

「大丈夫」

と声をかけてくれた。

でもクロノのこの行動は治らなかった。

さらにどんどん頻度を増していった。

クロノは夜になると、寝床を思い切り飛び出す。

そのまま、近くにあった木やおもちゃなどに襲いかかる。

まるでクロノじゃないみたいだった。

数分すると気を失ったように眠る。

どこかおかしかった。

クロノは血を吐くようにもなった。苦しそうな顔もした。

でもどれも私に隠れてしていた。

クロノは私が寝ると、決まって遠くの茂みに行って苦しみながら血を吐く。

お腹を押さえ、倒れ込みそうになりながら血を吐いていた。

目に涙を浮かばせながらすることもあった。

私が何度も問いただすけど、クロノは知らないといった。

はぐらかすというより、自分自身に嘘をつき続けているようだった。

クロノ自身も、記憶に無いようだった。

それでもクロノは私に毎日笑顔を見せてくれたし、遊んでくれた。

私は大好きだったクロノの笑顔も、見ると泣きそうになってしまった。

私は必死になって色々調べた。

幸いきれいな服が一つだけ、あのバッグに入っていた。

少し小さかったけれどそれを着て、図書館に行って調べた。

何回か行くうちに、クロノが最新の狂犬病になっていると分かった。

症状は、倦怠感、異常な不安感。

これらがずっと続くらしい。

なのに、クロノはずっとご飯を取りに行ってくれている。

そう考えるだけで辛かった。

だから、私は一日だけクロノと一緒にご飯を取りにいった。

少しでも助けになればいいと思った。

けれど、クロノは私のことを異常に心配してご飯どころでは無さそうだたった。

結局私は邪魔になっていたみたいだった。

何もできない自分が苦しくて、悲しかった。

自分でなにかできることをしようと考え、思いついた。

狂犬病の薬は普通のお店でも売っているらしい。

だから、私はクロノがご飯を取りに行っている間に薬局へ行った。

狂犬病の薬を盗むのだ。

店に入り、薬を手にすることまではできた。

しかし店主にバレてしまった。

二個盗んでいた内の一つだけを差し出して謝った。

店主は怒っていたようで、罰を与えようとしてきた。

私は受け入れるつもりだった。

殴られても、蹴られても、最悪体を売っても。

結局、蹴飛ばされ「二度と来るな」と店の外へ投げ飛ばされた。

それだけで済んだのだから良かった。

警察には通報されていないみたいだったから急いで帰った。

クロノはまだ帰ってきていないみたいで安心した。

ふと、クロノは私のことをどう思っているかと考えてしまった。

実は好きではないのではないか。

飽きてしまったのではないか。

不釣り合いではないか。

クロノにとって私は邪魔者なのではないか。

そもそも何故私と一緒に住んでいるのか。

ギュウっと心臓が締め付けられる不安に襲われた。

けれどすぐにクロノの声が聞こえたからどうでも良くなった。

それから少しずつ、クロノに色々と理由をつけて薬をあげた。

あの暴れも、血を吐くのも落ち着いてきた。

安心すると同時に不安にもなってきた。

クロノを疑ってしまっていたのだ。

いつか私を捨てるのではないか。

結局体目当てなのではないか。

でも、クロノの笑み一つでモヤモヤも晴らされた。

また「普通」が戻ってきた。そう思えた。

次は私が狂犬病になってしまったみたいなのだ。

記憶にないのに体がボロボロ。

ずっと不安になってしまう。

頭痛もしてくる。

神の御心のままに、と言えた。

狂犬病が進むにつれ、いつかクロノを襲ってしまうのでは、と思うようになってきた。

クロノから離れてあの山小屋へ戻ろうか、とも思った。

でもできなかった。

この「普通」がたまらなく愛おしいからだ。

食欲もなくなり、体は痩せていった。

もう長くないことは明らかだった。

きっと今夜が峠だろう。

「僕。シエル。必要」

クロノが私の手の強く握る。

「本当。ありがとう。私。クロノ。好き」

あの日、初めてあった日に心のそこから出た言葉。

今でも言える。今だからこそ言える。

「僕。シエル。好き。ずっと。ずっと」

クロノが呟く。

泣いているせいで、途切れ途切れになっている。

私で良かった。そう思えた。

クロノにはこんな思いしてほしくなかった。

だって、この狂犬病は死ぬ間際に目の前のものを襲ってしまうのだから。

クロノにこのことを伝えたら

「なんで僕じゃなかったんだ」

って悔しがっていた。

クロノは、私が

「だから、わたしが死んじゃいそうなときは

私のそばを離れてて」

って言ったときに、

「できない。一人では死なせない。

それに君が死ぬなら僕も死ねる」

って言ってくれた。

でも本当に私で良かった。悪者は私だけでいい。

「クロノ。私。嬉しい。君、の。オンリー、な、こと」

オンリー(only)

唯一。だけ。わずか。色々意味がある。

そのすべてがクロノに当てはまった。

「シエル。ありがとう。だから。生きて」

消え入りそうな声で問いかけてくれる。

でも、きっと無理だろう。

それに今一番生きていてほしいと願うのはクロノだから。

「ごめん。クロノ。できない」

精一杯の謝罪だった。

クロノが生きてさえすれば良かった。

結局私は何もできなかった。

「ごめん。シエル。僕。できなかった。なにも」

謝らないで。

だって、クロノは私に最高の宝物をくれたから。

『シエル』私の名前。

「シエル。私。嬉しかった。シエル。私の。宝物。クロノ。笑って?」

私は何もしていない。

なのに、クロノはいっぱい返してくれた。

ご飯も取ってきてくれた。

遊んでくれた。

あの笑顔をいっぱい届けてくれた。

クロノが笑った。目に涙を浮かべて。

あの日と変わらない。

あの空と、あの時間と変わらない。

純粋で、無邪気で、かっこよくて、私だけの笑顔で。

わたしも笑った。

消えちゃいそうな意識の中。

精一杯の償いと、心からの感謝を込めて。

今日はきっと他の人からしたら「普通」の日だろう。

今はそれが心地よかった。

一足先に行ってるよ。

おいで。クロノ。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「今日のニュースです」

テレビの中のキャスターが話す。

また残余児か。

えーっと、日本人の少年と、アメリカ人の少女。

狂犬病だったと見られる、か。

大変だねぇ。

おっとそろそろか。仕事にいかなきゃな。

only have to=さえすればいい。only too=あまりにも。

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― 新着の感想 ―
より悲劇の解像度が上がった…。 残酷なことだ…。 一点、アドバイスをば。 〉only(僕)のシエル目線です。 これ、リンクを貼るなりして、前作にきちんと誘導できるようにした方が無難かな、と思…
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