『大王付き』たちの 大きな悩みと もっと大きな願い
ある夜…
私…大王付き従者ヤンは慌てて、遠くのエデ殿に合図する。
エデ殿はさっと柱の陰に隠れる。
…そう!!!
あのシリウス様が!!!
リヒト様を追いかけたのだ!!!
我々「大王付き」は、それぞれ、柱や壁や置物の影から、
固唾を飲んでお二人の様子を窺う。
行って…ほら…ほら…!!!
リヒト様のお部屋まで来ると、
お二人は、扉の所で手をつないでいらっしゃる。
我々はハラハラハラハラ、
もう、ハラハラハラハラ、
ただ、ハラハラハラハラ、
入って!入って!と祈り続ける。
は…
入った―――――!!!!!!!
振り返ると、いつも完璧で、
気配を感じさせない執事のモレルさんが、そっと涙を拭っている。
エデ殿は、部屋から出てこようものなら、シリウス様を叩き戻すために、
近すぎない、失礼にならない位置で、警護に当たる。
同時に、大砲が百発飛んできても、今夜だけはこの大神殿を平穏に保つよう、
ご主人の親衛隊長ダンテス殿のお尻を叩きまくっている。
私は急いで料理長を叩き起こしに行く。
「ま゛!!!!!!」
訳の分からない叫び声をあげて、大神殿の料理長ファリアが飛び起きる。
「来たか!!!
この時が!!!
うっ…嬉し過ぎる!!!!!!」
言うなり、私の腕を掴んで、大神殿の中央キッチンにもつれ込む。
「この朝を夢見て、俺は、構想を練ってきた!!!
大神殿・後朝コース!!!」
「はいはい、分かった。じゃ、それを準備してくれ。」
「聞かないのか!?その構想を!!!
まあ聞け!!
お二人のしっとりした寝所に、まずは熟成ベリーソースのムースをお届けしてだな…
これはな、最初は甘酸っぱいんだが、その後はどっしりと甘いんだ。
リヒト様が酸っぱい、と言った後に、
シリウス様が、ああ、でもその後が甘いですね、とおっしゃってだな、
本当だ、お腹が空いてるから、すごく沁みるねとリヒト様が言ってだな、
シリウス様が、従者が見てることも気にしないで、
リヒト様に優しく『どうしてそんなに、お腹が空いているんですか?』
と聞くだろ?
そしたら、リヒト様が慌ててそのムースをまた口にするんだ。
そしたら!次のカスタードの味がやって来る。細かくしたカラメルも入っている。
あ、これ、ちょっと違う味だよ!ってリヒト様が振り向いたらな、
カラメルがリヒト様のお口についているから、
シリウス様がそれを舐めてだな、
『本当に違う味ですね?…さすがだな、ファリア?』
ってここでいたずらっぽく俺を見るんだよ!
リヒト様は真っ赤になっているのに、そんときだけちょっと顔を上げて、
『ファリアさん、すごくおいしいです…』
ってポツンと言ってくれるんだよ、
ああ、もう最高じゃないか!?!?」
「お前、よくそんなに喋れるな…
…まあ…控えめに言って最高だな…」
「ここでだよ!
シリウス様は、あんなに美形でシュッとしてるのに、大食漢だろ?
でも、リヒト様は食が細いし…
あのシリウス様に一晩中抱かれて、フラフラだと思うんだよ。
え?…いや、絶対、あの方は一晩中だよ!つぇぇもん!
んでな、
リヒト様のお食事の方は、基本的に『シリウス様にアーンする用』として、
小分けにして、ピックを差しておくんだよ。
リヒト様ご自身も食べやすいしな。
『ファリスがわざわざ、小分けにしてくれたんですからね?』
って、シリウス様が『アーン要求』してだな…
ほかにも、ちょっと、猫と鼠にアレンジした野菜や果物を添えてだな、
『僕が猫を食べましょう…さっきたくさん食べたばかりですけど?』
ってシリウス様がリヒト様に言うだろ?
リヒト様は取り合わずにさっさと鼠をもしゃもしゃ食べるんだよ。
そしたら、シリウス様が『今夜は僕のネズミを食べてください。』とか綺麗な顔でささやくから、
とうとうリヒト様が『シリウス!!!』ってプリプリ怒り出して…
てなときに、温かい、エクウス特産のニンジンポタージュを出すんだよ。
熱々のな?
リヒト様はすぐにパァッと笑って『ファリアさん、糖人参ですか?嬉しい!』って、
プリプリしていたことも忘れて、フゥフゥするわけ。
そんなリヒト様を、眩しそうに、シリウス様が見惚れてるわけ。
どうだ、最高だろ?」
「いや、お前なァ…
…クソ、最高すぎるな…」
「だろう!!!!!
まだまだあるんだが、時間切れだ!!!
今日はこのまま徹夜だ!
最高の後朝モーニングを提供するぜ!!!!」
中央キッチンに消えて行く料理長を見送ると、急いで、リヒト様の部屋の近くに戻る。
良かった…お二人で過ごされているようだ…
ん…?
どうも、お部屋の中が騒がしい気がする。
シリウス様の変化やリヒト様の獣化を知っているのは、
大神殿では、「大王付き」と言われる、大王に血の誓約をした数名の従者や親衛隊などだけ。
私ヤンもその一人だが、
この喧騒が、変化や獣化のせいなら、命に係わる大問題…
しかし…
シリウス様は、あの清潔な美貌からは想像もつかないくらい、お元気な方だ。
もちろん、リヒト様に出会ってからですが…
リヒト様が大神殿を去ったときには、リヒト様が寝ていたシーツと枕を自室に持ち込まれて、
大事に「お使いに」なっていた。
(今は、リヒト様がいらっしゃるので、「使って」おられないようですが、
大事なものなので、クローゼットにこっそりしまっておられる…)
もちろん、我々の目の前で何かするわけでは絶対にないですが、
シーツや何やら、大王付きにはさすがに色々と分かってしまう。
そんな元気な16歳の最強大王ですから、
それなりに…いいえ、相当な音がすると思うので、
一概に獣化だ変化だと心配してお部屋に伺うのは、あまりにも野暮。
エデさんも、執事モレルさんも、同じことを考えているようで、
ハラハラハラハラ、固唾を飲んでいる。
その後も、喧騒が聞こえたり、静かになったりを繰り返すので、
我々は、もうこれは、確実に、
アチラの音だと安心して、白む空を満足して見つめながら、
大王付き以外が専用通路に入らないよう警戒します。
が…
扉からスルリと出てきたのは…
エッ?
乱れのない官吏の服を着たリヒト様。
我々は、ギクリとしながら馳せ参じる。
…結果は…
獣化に変化に、
「死ななかったからよかった」というレベルのお話。
後朝だのなんだのとは程遠い…
まだ張り切っているだろう料理長にどう言おう…
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我々も、そういった繋がりが全てではないことはよく分かっています。
でも、毎日のようにやって来る、
婚約やお見合いの手紙、訪問者…
貴族、資産家…いずれも立派な家格のお姫様、お嬢様、お子様、年上の女性…
美しく描かれた、女性の絵画…
着飾ったご本人…
少しでも気を抜くと、リヒト様は吹き飛ばされてしまう。
それくらい、平民の、身寄りもない…
しかも、一部では差別の対象にもなっている猫族、
さらに、獣化して…実際にシリウス様を襲ったこともあり、
これからも襲う可能性のあるリヒト様は、
結婚という意味では、あんまりにも弱いお方だ。
正妃どころか、側妃にすらなれない…普通に考えると、そうなります。
もう、それが、つらくてつらくて、
あまり考えるのが得意ではない大王付きの我々は、
せめて、身体くらい、つながって欲しいと願ってしまうのです。
それが、いっときの幸せでも…
きっかけになるかもしれないじゃないですか…
お二人の、末永い幸せの、きっかけに。
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今回もまた、それは、お預けになりました。
でも、お部屋から出てきて、今日のシリウス様のご予定を聞くリヒト様は、
不思議と、晴れ晴れとして、
シリウス様を大事に思うお気持ちに溢れていらっしゃる。
今夜のお二人の出来事は、
今後のお二人の幸せの、
きっかけになったのでしょうか?
もしそうなら、陰ながらお二人を守る我々も、幸せです。
ああ、ファリアに言いましょう。
お前の作ったベリーのムースは、やはり、
今日のモーニングとして、お二人に出そう、と。
いずれにしても、祝ってあげたい、後朝なんですからね…?




