神鼠の「恋」路を邪魔する奴は 馬に蹴られて死んじまえ
近付いてくるシリウス様を見て、俺は気まずくて死にそうやった。
「…俺が仮死するのを見越してたん…ですね…
せやのに、俺、操作を失敗して…」
「もういい。」
シリウス様はうつむいている。
なんや、捨てられた子犬みたいにしょんぼりしたはる。
鼠やけど。
「後始末は僕がやる。
お前は、リヒトさんを連れて帰れ。」
「ツヴェルフェトに、ですか?」
シリウス様は苛立ったようにつぶやく。
「クロリだろう。僕に言わせるな。」
「え?俺の州?なんで?」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。
シリウス様はジロリと横目で俺を見る。
「僕は、祝わない。
アダムみたいに器が大きくないんだ。」
「ちょぉ、ほんまに話、わからへんのやけど…」
さすがの俺も困惑しきった。
この人、何言うてんの?
「リヒトさんと…け…」
シリウス様は言葉に詰まったが、意を決したように続ける。
「結婚するんだろう。」
「ハァ?」
思わず声出たわ。
何この人。
どこで道に迷ったん?
「結婚しませんよ。
してもええならしますけど、リティ助けたんはシリウス様やし。」
シリウス様はパッと顔を上げる。
「結婚するんじゃないのか?
…リ…あの人は、お前のことが…好きなんだろう。」
めっちゃつらそう!!!!
話はようわからんけど、可愛すぎやろ!!!
つらくて名前を呼べずに「あの人」って、もぉ…
「リティは僕のこと好きちゃいますよ。
なんでそんな勘違いしはったんですか?」
シリウス様の顔は、目に見えて真っ赤になっている。
期待と不安がこもごもという様子。
「それは…お前に『リティ』と呼ぶことを許しただろう。
それに…テオのことが好きだったら、探すのをやめるのかと言うから…」
「なんでやねん!!!」
俺は盛大にずっこけそうになったけど、
ロベルト様の胴体半分が見えて、さすがにやめた。
「なんでそれで、俺のこと好きとか、結婚とかになるんですか?
頭のイイ子ってみんなそんななん?」
「じゃあ…」
シリウス様はこのまま爆発しそうなくらいに真っ赤になって、
なんやゼェゼェし始めてる。
「じゃあ、別に、テオとリヒトさんは両想いじゃないし、結婚の約束もしていないんだな?」
「ハァ…」
俺が勢いに飲まれていると、シリウス様は壁ドンして僕を覗き込んだ。
いや、これ、リティにせえや。
背ぇ高いし、細マッチョやし、顔面良すぎやし…
「頼むから、言葉でちゃんと言ってくれ。」
距離ちっか!!!
俺の新しい扉が開いてまうわ!!!
「リティは俺のこと好きちゃいます。
結婚の約束もしてません。
…これでええですか?」
ガクリとシリウス様が前傾姿勢になったから、
後ろでマントを掛けられて小さくなっているリティが見えた。
リティ…可哀そう…
普通、この場面やったら、すぐにギューッってしてもらえるやん。
放置て!!!!!!
「ああ、ありがとう。これでいい。
…すまなかった。」
シリウス様は、リティの方に慌てて行こうとして、また立ち止まった。
はよ行けや!!!
「よしなにやりますよ。
位置的に、すぐにステファニー様が来はるやろうし、心配せんといてください。」
「そうか…じゃあ、僕は…リ、リヒトさんと…大神殿に帰る…」
最後の方は小さな声になったが、
急いでリティのところに行くと、
「リヒトさん、もう大丈夫です。大神殿に帰りましょう。」と遠慮がちに声を掛ける。
二人は、クロエとフレディの頭部に祈りを捧げると、
静かに、カモの子が行進するみたいにもじもじと、
この石造りの猫族の天神を去っていった。
俺は、毒気を抜かれて、このエグい死体まみれの天神に残ったまま、二人を見送った。
「【神鼠の『恋』路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ】ってか。
そういや、リティ、神馬エクウス出身やったなぁ…」
俺は、クロエとフレディの頭部を振り仰いだ。
「君らも、俺も、本気の『恋』したんやわ。
ま、ステファニー様が来るまで、語り合おうや。
ロベルト様、真っ二つやけど。な?」
既に夜は明けて、天神にもそよ風が吹いている。
クロエとフレディが、俺に静かに笑い掛けた気がした。




