大神殿の庭園で シリウスとリヒトが喘ぐとき
こんなに柔らかくて溶けそうなものがあるのか。
吸い取れそうなリヒトさんの唇の感触を得て、
僕の心臓は、緊張と興奮で、息苦しいほど激しく鼓動している。
僕はそっと口を離し、薄目を開けてリヒトさんを見た。
リヒトさんは、林檎のように髪の付け根まで赤く染め、少し荒い吐息をついている。
ふっくらと盛り上がる唇は震えて、僕の唇を待っているように見えた。
そのつややかな唇を前に僕の血はドッと逆流し、
これを無茶苦茶に吸い取りたい欲望とそれを引き止める理性の争いで、
僕の息はどんどん荒くなっていく。
が、急に、目の前に真っ暗な牢獄が閃光のように通り過ぎた。
彼女は知らない、僕の過去。
誘拐された2年間で、
僕が既に、全身隙間なく穢されたという事実。
黙っていれば分からない。
知らなければ、彼女も苦しまない。
でも、それでいいのか?それが、正解なのか?
そのとき、リヒトさんの両手が滑るように僕の顔を包み、
そっと僕の口の傷に触れて言った。
「【封殺】をかけて…」
ああ、リヒトさんはリヒトさんで、
僕と触れ合うことで、自分が僕を殺すことを恐れている。
僕は、自分の迷いを振り払って、額の刻印を彼女の額につけた。
「神通力【封殺】」
彼女は、夕日色の目で僕を見つめながら、僕の首に優しく手を回す。
首に回される滑らかな腕の感覚にゾクゾクして、僕の頭は真っ白になった。
「もう、遠慮はしません。」
もう何でもいい。
タガが一気に外れ、
僕は、彼女の顔中に口を押し当てた。
額、
眉毛、
こめかみ、
瞼、
頬、
鼻先、
唇の隣、
顎
耳…
「シリウス…だめ…こんな…ところで…」
リヒトさんは、喘ぎながら顔を逸らそうとする。
「僕は…遠慮しないと言った…」
僕も喘いでいる。
もう一度リヒトさんの顎を持ち上げて顔を見る。
僕の唇を浴びせられたリヒトさんの表情は、
もう、大人の女性のそれだった。
僕の手は彼女の腰の下に伸びていく。
僕は、荒い息のまま、彼女の蕩けそうな口唇を吸い尽くそうとした。
その時
****************
「ギャァァァァァァァァ――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!」
耳を劈くような、
断末魔の叫び声が闇を突き破った。
瞬時に僕はリヒトさんの背中を木に押し付け、全神経を尖らせて周囲を窺う。
「神路開放 神通力 【独楽鼠】」
僕のもとから数百匹の透明な鼠が一気に走り出る。
周囲の異変を僕に伝達する駒だ。
同時に、僕はリヒトさんを肩に担いで、叫び声の方角に走り出した。
「借りるよ、レン!…神通力 神鶏【飛鳥】」
ワッというリヒトさんの叫びと共に、僕は空高く飛び上がると、
叫び声の方角に幾つもの黒い人影を認め、一気に飛んで行った。
しかし、目の前に展開する光景に、
そして、その人物に僕は絶句した。
が、空から「ダンテス!!!!!」と呼び、
僕と血の誓約をしている親衛隊長の人影が現れると、そこに飛び降りた。
「十二支以外、西の回廊に誰も入れるな。
独楽鼠の報告を聞き、殺さずに全員捕えろ。
行け!」
と指示し、猛然と走り出した。
「何があったの…!?」
と肩に担がれたまま小声で聞くリヒトさんに、
「僕から離れる方が危ない。
一緒に行く。
今は何も聞くな。」
と伝える。
その時、西の回廊脇にある噴水に到着した。
一人の少年が、少女の髪を掴んで引き上げ、
その胸に短剣を突き立てている。
少年は、ゆっくりと振り返った。
「来た来た。
さすが大王様、一番乗り…」
物柔らかな声がかえって狂気を際立たせる。
それは、金髪、紫の瞳を持つ少年王、
神竜フレドリックだった。




