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Jardin miniature 神々の箱庭で、少女たちは軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第4章 学園の影で闇は嗤う
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悪魔と宿主

学園は、今日も平穏だ。

生徒たちは笑い、授業を受け、日常を生きている。


嵐は——いつもこうして始まる。


日常の顔をしたまま。

何事もないふりをして。


そして。

気づいた時には、もう引き返せない。


⚜️⚜️⚜️


対魔学の講義室は、いつもより少し賑やかだった。


長期休暇明け。

新学期に入って数週が経ち、

新任の講師にも、生徒たちはすっかり慣れ始めている。


教壇に立つのは、ディーター・ボニファーツ。


柔らかな物腰。

穏やかな声。

常に丁寧語を崩さず、それでいて堅苦しさのない話し方。


「では本日は、悪魔化の段階についてお話ししましょう」


そう前置きすると、何人かの生徒が自然と身を乗り出した。


ディーターが筆をひと振りすると、黒板上に淡い光文字が浮かび上がる。


『悪魔』


「悪魔は、魔界に住む存在です。

この世界——ジャルダンでは、単体で肉体を保つことができません」


さらりとした口調のまま、次の言葉が書き足される。


『宿主』


「そのため彼らは、魂の状態で彷徨い、

自身を受け入れられる“宿主”を探します」


教室は、静まり返っていた。


「悪魔は、いきなり肉体を奪うわけではありません。

まず行われるのは——“契約”です」


ディーターは穏やかに言う。


「不安、恐怖、後悔、渇望——

心に隙がある者ほど、彼らの声を聞きやすい」


黒板に、新たな文字が浮かぶ。


『干渉期』


「契約が成立すると、悪魔は精神への干渉を始めます。

この段階では、宿主の自我はまだ保たれています」


次の文字。


『侵食期』


「やがて干渉は深まり、

思考や感情の一部が、悪魔の影響を受け始める」


生徒たちは、息を潜めて聞き入っている。


そして——


『完全憑依期』


「精神を“完全に”乗っ取られた状態。

これを、完全憑依体と呼びます」


教室に、ざわめきが走る。


「親和性が低い場合——」


筆が、静かに動く。


「肉体は耐えきれず、

手足がただれ、生きものとしての形を保てなくなります」


何人かの生徒が、思わず顔をしかめた。


「ですが」


わずかに間を置き、ディーターは肩をすくめる。


「悪魔と宿主の親和性が高い場合、

あるいは、元々高かった場合——」


にこやかな笑み。


「外見上は、ごく普通の人間と変わりません」


一瞬の沈黙。


「つまり」


視線が、ゆっくりと教室をなぞる。


「皆さんの隣に座っている友人。

あるいは——」


ほんのわずかな間。


「先生が、実は完全憑依体。

なんてことも、理論上はあり得るわけです」


空気が、凍りついた。


——一瞬。


「……冗談ですよ?」


ディーターは軽く両手を軽く広げ、柔らかく笑う。


「怖がらせてしまいましたね。

安心してください。滅多にある話ではありませんから」


張り詰めていた空気が、一気に緩む。


「先生、それ冗談きついですよ!」


「心臓に悪いです!」


「はは、すみません」


笑いが戻る。


だが——


「ただし」


その声だけが、わずかに低く落ちた。


「完全憑依体になった者は、元には戻れません」


冗談ではない一言。


「治療も、対話も、意味を持たない。

可能なのは——」


一拍。


「討伐、のみです」


再び、静寂。


その中で、一人の生徒が恐る恐る手を挙げた。


「先生。

なぜ、完全憑依体になると、元に戻せないのですか?」


「いい質問ですね」


ディーターは、頷く。


「では皆さん。

悪魔化した者を元に戻す方法は、何でしたか?」


短い沈黙。


「……神聖術による浄化です」


「そうです」


彼は満足そうに微笑んだ。


「浄化とは、宿主から悪魔のみを引き剥がす行為です。

完全憑依体になる前であれば、

悪魔と宿主の結びつきは不完全で、これが可能です」


だが、と続ける。


「完全憑依体というのは——

宿主の魂そのものが、

悪魔の存在を前提とした形に変質している」


空気が、さらに重くなる。


「この段階になると、

悪魔を排除するという行為は、

魂そのものを破壊することと同義です」


一拍。


「ゆえに、完全憑依体は戻せないのです」


そして、すぐにいつもの柔らかな笑みへ戻る。


「——と、まあ。

今日のところは知識として覚えておいてください」


鐘が鳴る。


生徒たちはざわめきながら、教室を後にしていった。


「とても分かりやすい講義でしたわね」


「ええ……少々恐ろしゅうございましたけれど、興味深かったですわ」


ジャミーラも、静かにノートを閉じる。


教壇に残ったディーターは、

去っていく生徒たちの背を見送っていた。


——その瞳に宿るものを、

誰一人として、気に留めることはなかった。

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