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Jardin miniature 神々の箱庭で、少女たちは軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第4章 学園の影で闇は嗤う
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端緒

数日後。


窓の外はすでに夕暮れに染まり、室内には橙色の光が差し込んでいる。


書類の山は朝よりもいくらか低くなっていたが、それでもなお机の上を占領していた。


静寂を破ったのは、扉を叩く音だった。


「入れ」


短い応答。


扉が開き、ライルが姿を現す。


その表情はいつもと変わらぬ穏やかなもの——だが、その奥にわずかな緊張が滲んでいる。


「……殿下」


低く抑えた声。


「ダウサリーの件、返事がありました」


一言。


それだけで、空気が変わる。


ムスタファの手が止まり、アルテリスがわずかに視線を上げた。


ライルは机の前まで進み、一枚の封書を差し出す。


既に開封済みのそれを、ムスタファは無言で受け取った。


「どうだった」


短く問う。


ライルは一瞬だけ言葉を選び——そして答える。


「——結論から言えば、アルテリスの懸念は的中しています」


静かに、しかしはっきりと。


アルテリスの指先が、わずかに強張る。


ムスタファの視線が、封書からライルへと移る。


「続けろ」


「ダウサリーでも、結界石に“異常”が確認されています」


室内の空気が、はっきりと張り詰めた。


アルテリスが息を呑む気配。


ムスタファは何も言わない。ただ、続きを促すように視線を向ける。


「破壊には至っていません。外見上の損壊もない」


ライルは淡々と続ける。


「ですが——機能が一時的に低下していた形跡があるそうです」


「低下……?」


アルテリスが、思わず小さく問い返す。


「ああ。結界の出力が、局所的に落ちていたらしい」


ライルはそう言って、わずかに視線を落とした。


「そして——」


一拍。


「行方不明が増え始めた時期は、その後からだ、と」


沈黙。


今度のそれは、重い。


「……意図的、か」


ムスタファが低く呟く。


ライルは即答しなかった。


「関連性については断定できません。ですが——」


わずかに間を置く。


「“偶然”と片付けるには、出来過ぎています」


その言葉が、静かに沈む。


再び訪れる沈黙。


その中で。


アルテリスは、静かに呼吸を整えた。


結界石。

行方不明。

そして——学園。


点だったものが、細い線で結ばれ始めている。


まだ確証には遠い。


触れれば切れてしまいそうな、脆い線だ。


だが——


(……繋がっている)


確かに、そう感じていた。


「聖騎士団支部に報告を上げる」


ムスタファが、ゆっくりと口を開く。


「報告に足る材料は揃った。

これ以上は、こちらの裁量で抱えるべき案件ではない」


ライルが頷く。


「ええ。聖騎士団が関われば正式に動くことができます。

既に同様の異常を把握している可能性もあります」


「情報を集約する必要があるな」


短いやり取り。


だが、それは明確な“次の一手”だった。


アルテリスはわずかに目を伏せる。


小さな違和感だったはずのものが、形を持ち始めている。


まだ名もない異変。


だがそれは、確実に広がっていた。


——静かに、そして確実に。


物語の局面は、確かに次へ進み始めていた。

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