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Jardin miniature 神々の箱庭で、少女たちは軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第3章 厭う地で志を繋ぐ
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悪意の無い毒

謁見室の扉が、重く閉じられた。


その音が廊下に吸い込まれてから、しばらくして——

奥に控えていたアルテリスが、静かに一歩前へ出る。


「……殿下」


ムスタファは、歩みを止めなかった。


「戻るぞ」


短い言葉。

だが、その声音は、いつもより低く、硬い。


アルテリスは何も聞かず、その一歩後ろを歩いた。


王宮の廊下は、相変わらず静かだった。

磨かれた床に、二人の足音だけが反響する。


付き添いながら、

アルテリスは、そっとムスタファの横顔を盗み見た。


——硬い。


怒りでも、悲嘆でもない。

感情を削ぎ落としたような、無機質な表情。


国王との間に、不穏な何かがあったことは明白だった。


——その時。


「ムスタファ」


前方から、柔らかな声が落ちてきた。


二人が歩みを止めると、

回廊の向こうから、一人の青年が姿を現す。


漆黒の髪に、深紅の瞳。

その面差しは、ムスタファと同じ系譜に連なるものだった。


だが——


その表情は、あまりにも柔らかい。

穏やかな微笑。

人懐こい眼差し。

そのすべてが、威圧ではなく親しみを感じさせる。


纏う空気は、どこまでも明るく、あたたかい。


同じ血を引きながらも、

そこにある印象は、まるで正反対だった。


豪奢な正装。

宝石を散らしたマント。

祝福を一身に受ける存在。


第一王子——カリム。


「帰っていたのか」


自然な調子で、

弟の名を呼ぶ。


ムスタファは一歩下がり、礼を取った。


「ランデュートの星、

カリム第一王子殿下にご挨拶申し上げます」


「堅苦しい挨拶はよせ」


カリムは肩をすくめ、軽く笑った。


「昔、兄上でいいと言っただろう」


その声音には、嫌味も威圧もない。

ただ、屈託のない親しさだけがある。


「陛下にお会いしていたのか?」


「はい」


簡潔な返答。


カリムは満足そうに頷いた。


「そうか。それは良かった」


そして、何気ない調子で続ける。


「今夜は泊まっていくのか?」


当然のように。


「……恐れながら」


ムスタファは、静かに言葉を返した。


「別に、滞在先を用意しております」


「そうか」


カリムは気にした様子もなく笑う。


「学園生活で忙しいだろうが、

たまには帰ってこい」


一拍。


「ここは——

お前の家でもあるのだから」


その言葉と同時に、

カリムの視線が一瞬だけ、アルテリスへと滑った。


意図的か、無意識か。

判別できないほど、自然な仕草。


刹那、アルテリスははっきりと見た。


ムスタファの表情が——

ほんの僅かに、揺れた。


怒りではない。

拒絶でもない。


ただ、深いところを突かれた人間の、反射。


ムスタファは、何も答えなかった。


「また今度、ゆっくり話そう」


第一王子は軽く手を振り、

護衛を伴って、去っていく。


まるで、

何事もなかったかのように。


残されたのは、

再び静寂に包まれた王宮の回廊。


「殿下」


アルテリスが、低く呼びかける。


ムスタファは、前を向いたまま呟いた。


「……良い兄君だ」


ぽつりと。


「無邪気なだけか、

或いは策士か」


どちらとも、断じない。


アルテリスは何も言わなかった。

ただ、その隣に立ち続ける。


ムスタファは、小さく息を吐く。


「行くぞ」


「はい」


二人は並び、歩き出す。


背後で、

王宮は静かに息を潜めていた。


——“家”と呼ばれたその場所を、

ムスタファは、振り返らなかった。

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