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Jardin miniature 神々の箱庭で、少女たちは軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第3章 厭う地で志を繋ぐ
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変わりゆくもの

応接間には、再び全員が揃っていた。


昨日よりもわずかに落ち着いた空気。

だがそれは、和解ではない——

互いの出方を窺う、静かな間だった。


シャマル侯爵は背筋を伸ばし、来客たちを正面から見据えている。

夫人はその隣で、娘の様子を気にかけながら、静かに成り行きを見守っていた。


沈黙を破ったのは、ライルだった。


「シャマル侯爵」


丁寧で、しかし逃げ道を与えない声。


「まず率直に申し上げます。

本日は現状を踏まえた上で——

ご令嬢のご意思を、改めてご判断いただきたく参りました」


侯爵の眉が、わずかに動く。


「ご令嬢の望まれる道が危険であることは、重々承知しております」


淡々と、だが確かな調子で続ける。


「聖騎士は、精霊術だけでなく——

ランデュートでは未だ忌避されがちな神聖術を扱います。


その道を選ぶ以上、

社交界での悪評も、命の危険も避けられません」


ライルは一歩、前に出た。


「ですが——

もはや、関わらぬことが“安全”とは言えぬ時代です」


室内の空気が、静かに張り詰める。


「数年前、ランデュートは魔族の侵攻を受けました」


侯爵夫妻はそっと息を吸った。


「多くを失い、守るべきものすら守りきれなかった。

——それでも、国を繋ぎ止めたのが何であったか」


一拍。


「神聖術師と、聖騎士団です」


侯爵夫妻は否定しない。

それは誰もが知る、消せない事実だった。


「かつてランデュートでは、

神聖術師は忌避される存在でございました。

ですが——今は違います」


ライルは静かに、しかし確実に言葉を重ねる。


「あの日、ランデュートは大国でありながら、

周辺諸国と比べて多大な被害を受けました」


一拍。


「ランデュートは思い知ったはずです。

次の侵攻があった時、

“関わりを持たなかった者”ほど、守られない可能性があるという現実を」


侯爵が、低く問いかける。


「……脅しのつもりか」


「いいえ」


一拍。


「事実を申し上げているに過ぎません」


短く、重い沈黙。


ライルは、侯爵を真正面から見据える。


「侯爵のお考えは、理解できます」


声は穏やかだった。


「世間の悪評で傷ついて欲しくない。

それは、親として当然の情でございます」


侯爵の目が、わずかに揺れる。


「ですが——」


言葉を選び、続ける。


「魔族は、攻撃対象を選びません。

信仰も、家柄も、年齢も関係なく襲ってきます」


一拍。


「夢を奪うことが——

本当にご令嬢を守ることになるのでしょうか」


さらに一歩踏み込む。


「ご令嬢は、

もう二度と大切なものを失わないために——

学びたいと、願っておられます」


ゆっくりと、言い切る。


「神聖術師になることは、

現在のランデュートにとって、決して不利益ではございません。


——むしろ、未来へ繋がるものです」


長い沈黙。


その中で、ジャミーラが一歩前に出た。


「……お父様、お母様」


声は震えていたが、逃げてはいなかった。


「わたくしは、何も考えず夢を語っているのではありません」


一息、言葉を整える。


「あの日、わたくしは本当の家族を失いました。

もう二度と、同じ思いをする子供を増やしたくはないのです」


言葉を噛みしめるように続ける。


「そのために学び、力を得たい。

わたくしの力が、誰かの助けになるのなら——

迷わず、そのために使いたい」


視線を上げる。


「守られるだけでなく——

守る側に立てるようになりたいのです」


応接間に、長い沈黙が落ちた。


夫人の目に、静かに涙が滲む。


侯爵はしばらく天井を見つめ、

やがて深く息を吐いた。


「……すぐに答えは出せん」


その声に、拒絶の色はなかった。


「だが——」


視線を、娘へ向ける。


「今日の話は、重く受け止めよう」


一拍置いて、ライルを見る。


「今夜は、ここまでにしてくれ。

……少し、考えさせてほしい」


それは、退ける言葉ではなく、

向き合うための時間を求める言葉だった。


ライルは深く一礼する。


「お時間を頂戴できるだけで、十分にございます」


4人が席を立ち、部屋を後にする。


——その背中を、両親は黙って見送っていた。

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