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Jardin miniature 神々の箱庭で、少女たちは軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第2章 変わりゆく繋がりの中で
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言葉の置き土産

長期休暇の準備は、滞りなく進んでいた。


必要な書類の整理。

帰省のための荷造り。


やるべきことは多かったはずなのに、

気づけば、出立の日がすぐ目前に迫っていた。


(……本当に、あっという間ね)


そんな夕刻。


出立前に学園の空気をもう一度感じておきたくなり、

散歩に出ていたジャミーラは、ふと足を止めた。


前方に——

見覚えのある少年の姿があったからだ。


「……あら」


声をかけるより早く、

相手がこちらに気づく。


ふわりと揺れる金色の髪に、琥珀色の瞳。

——アルテリスだった。


一瞬だけ目を見開き、

すぐに、いつもの静かな表情に戻る。


「シャマル様」


深く一礼。


「こんなところでお会いするなんて、奇遇ですわね」


ジャミーラは視線を軽く巡らせる。


「聖騎士団からお帰り?」


「はい。殿下の用件で」


相変わらず、落ち着いた返事だった。


(……やはり)


ムスタファの用で動いていたのなら、

ひとりでいることにも合点がいく。


「そう」


ジャミーラは小さく息を吐いた。


しばらくの沈黙が続く。


「もうすぐ、出立の日でございますね」


意外にも、先に口を開いたのはアルテリスの方だった。


「え……?ええ」


「お支度は、もうお済みでいらっしゃいますか」


「ええ。大方は」


「それは何よりでございます。

どうか、お身体にはお気を付けて。

お帰りを、お待ちしております」


「ありがとう」


ジャミーラは微笑んだ。


けれど、その表情はすぐにわずかに陰る。


「……もう、お話をしてくださらないのかと

思っておりましたわ」


柔らかな言い回し。

けれど、ほんのわずかに棘を含ませて。


アルテリスは、わずかに視線を伏せた。


「……申し訳ございません」


謝罪をするということは、

思い当たる節があるのだろう。


その事実が、

小さく胸に引っかかった。


「言い訳のひとつくらい、伺いたかったわ」


「それは——」


「ふふ。冗談よ」


ジャミーラは悪戯っぽく微笑んだ。


「アルテリスさんは、元々殿下の側近だもの。

最近はイルハン様に送っていただくことが多くて、なかなか機会がなかったものね」


それは——

自分に言い聞かせるようでもあった。


「わたくし、長期休暇は国へ戻る予定なの」


わざわざ口にしたのは、

直接、伝えておきたかったからだ。


「はい」


間を置いて。


「手紙を書きますわね」


その言葉に、

アルテリスは思わず視線を上げた。


「……私に、でしょうか」


「ええ」


「それは私ではなく、

殿下へお送りください」


くすりと笑みが零れる。


どこか懐かしいやり取りだった。


「勿論、殿下にもお送りするわ。

それから、イルハン様にも。

それなら、問題ないでしょう?」


アルテリスは、わずかに肩をすくめる。


「それは……大変では?」


「ええ、とても」


けれど、その声音はどこか楽しげだった。


「でも、

皆様を思って書くのは——きっと楽しいわ」


とはいえ。


(……殿下には、形ばかりになってしまうのでしょうけれど)


ムスタファと自分は、契約上の婚約者。

しかも、ムスタファには想い人がいるらしい。


(その方のことを思えば、

送らない方がよろしいのかしら)


そこまで考えて——


(そういえば……殿下の想い人とは、どなたなのかしら)


ふと、気にかかる。


契約に至った理由。


学園生活に、見習い業務。

自分のことで手一杯で、

今の今まで、すっかり意識から抜け落ちていた。


だが、何より——


(女性の影が、あまりにも見えませんわよね)


やはり、理由はこじつけではなかったのだろうか。


(ムスタファ殿下が惚れているとすれば、

寧ろ——)


思わず、隣の少年へ視線が向いた。


「……シャマル様?」


首を傾げるアルテリス。


ジャミーラは、はっとして視線を外す。


「ごめんなさい。

少し、ぼうっとしてしまって」


(まさか——)


一瞬浮かんだ考えに、思わず眉をひそめる。


(……いいえ、さすがに考えすぎですわね)


「連日の準備でお疲れなのでは。

本日は、ゆっくりお休みください」


「ありがとう。

帰ってきたら——

また、お話ししましょう」


少し、間があった気がした。


けれど——


「はい」


確かに、そう聞こえた。


その一言を胸に、

ジャミーラは歩みを進める。


——言葉は少なくても、

出立前にこうして話ができた。


それだけで——

十分だった。

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