告知
翌日、授業終わり。
ライルは、いつものようにムスタファに付き添い、生徒会室に入った。
窓の外は陽が傾き始め、薄く橙色に染まった光が室内へ差し込んでいる。
机の上には書類の束。
その向こうにムスタファが座り、
その傍らにはアルテリスが静かに控えていた。
ライルも自分の業務に取り掛かろうと、机へ向かう。
その時だった。
「ライル」
「はい、殿下」
名を呼ばれ、ライルはムスタファの方へ向き直る。
「ジャミーラの件だが——」
一拍置いて、ムスタファは淡々と告げた。
「これまでアルテリスが主に対応していたが、
今後は、お前にも任せることにする」
短い説明だった。
だが、意図は十分に伝わる。
その言葉に、ライルは即座に頷いた。
「承知いたしました」
驚きはなかった。
アルテリスが第一側近である以上、
放課後の付き添いのような役割が、彼一人に偏っている状況は
いずれ調整されるだろうとライルも考えていた。
殿下の側に控える時間を確保することが、
本来の役目だからだ。
今回の判断は、極めて妥当だった。
「急ですまないな」
ムスタファが言う。
「いえ」
それで話は終わりだった。
——そう思った。
だが。
(……なんで、今なんだ)
胸の奥に、小さな引っかかりが残った。
思い出したのは、試験前のことだ。
ジャミーラが見せた、あの迷い。
そして——
自分がアルテリスに投げた言葉。
ライルは、視界の端に立つ人物を横目で捉える。
ムスタファの後ろ。アルテリスは、いつもの位置に静かに控えている。
姿勢も、表情も、変わらない。
まるで——今の話題が自分に関係していないかのように。
もちろん、決定を下したのは殿下だ。
タイミングを選んだのも、殿下。
理屈では、そうだ。
それでも。
ライルはアルテリスの性格をよく知っている。
問題が起きれば、
アルテリスは感情ではなく、役割で整理する。
誰かに説明することも、
言い訳をすることもなく。
ただ淡々と、“調整”という形で片付けてしまう。
だからこそ。
今回の殿下の決定の裏に、
アルテリス自身の意図があるような気がしてならなかった。
(あいつ……)
ライルは小さく息を吐く。
(シャマル様と、一体何を話したんだ)
それとも——
ふと、別の可能性が頭をよぎる。
(俺の言葉を、
別の意味で捉えたのか)
その瞬間、
脳裏に浮かんだのはジャミーラの顔だった。
少し困ったように笑う表情。
それでも、どこか真っ直ぐに前を向こうとしていた姿。
胸の奥が、わずかに重くなる。
彼女は、何もしていない。
むしろ——
自分から歩み寄ろうとしていただけだ。
それなのに。
もし今回の調整が、
彼女との距離を意図的に作るものだとしたら。
(……また、彼女が傷つくな)
ライルは小さく息を吐いた。




