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Jardin miniature 神々の箱庭で、少女たちは軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第2章 変わりゆく繋がりの中で
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早朝訓練

夜明けの光が、聖騎士団支部の訓練場を淡く照らしていた。

夜と朝の境界がまだ曖昧な時間帯。空気は冷え、吐く息はかすかに白む。


結界石の破壊騒動により一時中断されていた

見習いの早朝訓練が——

今日から再開されたのだ。


静寂の名残を引きずる訓練場に、

砂を踏む乾いた音が、ぽつり、ぽつりと増えていく。


ジャミーラもムスタファたちと共に、その列の中に立っていた。


身に着けているのは、

聖騎士団から支給された見習い用の訓練着。

学園の制服に比べて装飾はなく、

動きやすさを重視した簡素な作りだ。


袖口をそっと握り、深く息を吸う。


周囲を見渡せば、

落ち着いた様子の者と、

緊張を隠せない者とが混ざっていた。


既に何度も訓練を受けている者たちは、

慣れた様子で軽く身体を動かしている。


肩を回す者。

脚の筋を伸ばす者。

小さく跳ねて足慣らしをする者もいた。


その時だった。


「——整列」


張りのある声が、早朝の空気を切り裂いた。


視線を向けると、そこに立っていたのは——

引き締まった体躯の、長身の人物。


短く整えられた髪と鋭い眼差し。

一切の無駄のない姿勢で、見習いたちを見据えている。


「遅れるな。現場では一つの遅れが命取りになる」


初参加の見習いたちの空気が、目に見えて硬くなる。


「初参加の者もいるから、自己紹介をしておく。

レオ・ルナールだ。

聖騎士見習いの指導を担当する」


レオは一列に並んだ見習いたちを、上から下まで値踏みするように眺める。


(……ふむ。

今年も、それなりに揃っているな)


「まず言っておく。

ここは“才能を褒める場所”ではない」


声がわずかに低くなる。


「死なないための基礎を、身体に叩き込む場所だ」


言葉が落ちた瞬間、場の緊張が一段階深くなる。


「各自、準備運動は済ませた前提で進める。

——学園外周五周だ」


「……五周?」


誰かが呟いた瞬間、レオの視線が鋭く向く。


「軽装だ。問題ないだろう。

遅れた者から追加する」


逃げ道はない。


「——行け」


号令と同時に、一斉に地面を蹴る音が重なった。


朝露を含んだ土が、足裏でわずかに滑る。

冷たい空気が喉を刺し、呼吸が早まる。


列は徐々に崩れ、それぞれの速度へと分かれていく。


ムスタファとライルは、安定した呼吸を保ったまま先頭へ。

アルテリスは無駄のない動きで、そのすぐ後ろを静かに追う。


(殿下は……相変わらず無駄がない。だが、やや力みすぎだ)


(イルハンは……及第点。限界の見極めができている)


(既存の者たちは——

自主訓練は怠っていないようだな)


(……そして)


一方——


「……っ……!」


ジャミーラは、二周目に入った頃には呼吸が乱れ始めていた。


胸が上下し、酸素を求めるように喉が鳴る。

脚はまだ動く。だが、呼吸が追いつかない。


(体力は並。前線向きではない)


三周目。


肺が焼けるように熱い。

視界の端が、わずかに揺らぐ。


その中で——

レオの視線が、確かに自分へ向けられているのを感じた。


「シャマル」


名を呼ばれ、反射的に肩が跳ねる。


「止まるな。速度を落としていい。

呼吸を崩さない走りに切り替えろ」


「……はい……!」


速度を落とす。


一歩一歩を意識する。

呼吸を整え、乱れを抑え込む。


——走り方を変える。


なんとか五周を終えた頃、

ジャミーラは膝に手をつき、荒く息を吐いた。


肺が痛い。

だが、止まらなかった。


「休憩」


短い一言。


その許可に、張り詰めていた空気がわずかに緩む。


「次。マナ制御訓練に入る」


思いの外早く切り上げられ、

新人の見習いたちに小さなどよめきが走った。


「どのような状況でも、マナを制御できなければ意味がない」


レオは一歩前に出る。


「量が多いだけの者は、長くは保たん」


そして、鋭く言い放つ。


「合図があるまで、一定量のマナを外へ出し続けろ」


一斉に集中が始まる。


空気が変わる。

目に見えない流れが、場に満ちていく。


ムスタファのマナは安定しているが、やや強すぎる。

(……やはり出力が高い)


アルテリスのマナは——


(……)


レオの目が、わずかに細くなる。


(揺らぎがない。完成度が高いな)


ライルは途中で波が乱れ、歯を食いしばった。


(立て直した。悪くない)


ジャミーラは——


(苦戦しているな……だが)


出しすぎれば消耗する。

抑えすぎれば流れが途切れる。


ジャミーラは、静かに呼吸を深くした。


外へ出す量を、ほんのわずかに調整する。


すると——

流れが、自然に繋がった。


無理がない。

途切れもない。


レオの視線が、そこで止まる。


「……ほう」


わずかな、評価の色。


(適応が早いな)


「終了」


全員の呼吸が整いきった頃、

その一言で緊張が解かれる。


「今日の訓練はここまでだ」


そう言ってから、レオは付け加える。


「しばらくは同様の訓練を続ける。

慣れた者から段階を上げる。準備しておけ」


踵を返す動作に、一切の迷いはない。


残された見習いたちは、

疲労と余韻の中で立ち尽くしながら——


確かに、自分たちの内側で、

何かが動き出したことを感じていた。


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