痛みを分かち合う者
放課後の廊下には、
灯の淡い光がゆらめいていた。
ジャミーラはライルと並んで歩きながら、
そっと周囲の気配をうかがう。
(……視線が多いわね)
最近は慣れてきたつもりだった。
けれど今日は、いつもより刺さるように感じる。
歩調がほんのわずかに乱れたとき、
ライルが気づいたように横目を向けた。
「……大丈夫ですか、シャマル様」
「え?」
「視線の多さが、気になってしまわれたのでは?」
ジャミーラははっと息をのむ。
「……そんなに分かりやすかったでしょうか?」
「いいえ。俺も同じですから」
ライルは淡く微笑んだ。
「我々は目立ちますからね。
二人そろえば、尚更です」
黒髪が揺れ、赤い瞳が静かに光る。
——彼もまた、ランデュートの民の証を宿していた。
ジャミーラは視線を落とす。
「この学園へ入学して随分経ちますのに、
周囲の視線にはなかなか慣れませんわね」
小さく息を吐く。
「ランデュート出身というだけで蔑まれるのも、
それに虚勢を張ってしまう自分も、
嫌になりますわ」
ライルは少しだけ歩調を緩めた。
やがて、穏やかな声が落ちる。
「そう思わない者の方が、不自然ですよ」
遠くを見るような目。
「俺だって、本当は慣れていません」
ジャミーラは驚きに目を見開く。
「イルハン様が……?」
「ええ。
ただ、“平気なふり”が少しだけ得意になっただけです」
軽く肩をすくめた拍子に、
着崩した制服の袖が、ひらりと揺れた。
「我々はランデュートの民ですから、
心ない言葉をかけられることも多いでしょう。
ですが——
自分を貶める相手に割く時間ほど、
もったいないものはありません」
静かに、まっすぐな声。
「生徒会や聖騎士団には、
ランデュートであっても、分け隔てなく接してくれる者もいます」
そして、ふっと肩をすくめた。
「全ての者に好かれる必要はありません。
自分を大切にしてくれる者を、
心から大切にすればいいのです」
ジャミーラの胸が、じんと温かくなる。
「素敵なお言葉ですね」
「両親の言葉です」
ライルは少し照れたように笑った。
「昔は、綺麗事だと軽く聞き流していました。
ですが……今になって、
ようやく分かる気がします」
小さく笑うその横顔は、
どこか柔らかかった。
「……ありがとうございます。
少し、気持ちが楽になりましたわ」
「我々は同じ立場の者ですから。
どうか、いつでもご相談ください」
その声音は優しく、
ジャミーラの張りつめた心をそっと解いていくようだった。
ジャミーラが小さく息を整えた、その時だった。
ふ、と。
廊下の空気が僅かに揺れた。
(……これは)
ジャミーラの肌が冷たく粟立つ。
胸の内側から、細い糸のような“流れ”が引かれていく感覚。
鈍い痛みとは違う、しん、とした悪寒。
ジャミーラが立ち止まると、
ライルもすぐに足を止めた。
「シャマル様?」
「……瘴気、ですわ」
ライルの瞳が鋭く細まる。
「確かですか?」
「はい。微かですが……あちらの方角です」
ライルは短く息をついた。
「分かりました。では、確認しに行きましょう」
「ええ」
ライルは歩き出し、ジャミーラが続く。
二人の足音は、廊下の奥へと消えていった。




