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Jardin miniature 神々の箱庭で、少女たちは軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第1章 聖エリュシア学園入学編
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ひとつの終幕

「——ハウゼン様!!!」


現実へ引き戻すように、ジャミーラの叫びが夜気を震わせた。

刹那、ハウゼンの瞳が茶に揺らぐ。黒い瘴気がわずかに退き、影が揺れる。


だが、闇はまだ確かにその内側に巣食っていた。

悪魔の囁きが、血のように濁った声で蘇る。


『まだ終わっていない。……“頂点”を掴め……奴を殺せ——』


「……黙れ……!俺は……!」


ハウゼンは頭を押さえ、膝をつく。

瘴気は再び膨れ上がり、空気が歪むような音を立てた。


アルテリスが一歩前に出て、右手を掲げる。


「《火の精霊よ。闇を裁きたまえ》」


紅い光粒が掌へ収束し、周囲の空気が熱で震える。


瞬間——

紅焔が広がり、ハウゼンを覆う瘴気を鋭く裂いた。


「今です、シャマル様!」


アルテリスの声に応じ、ジャミーラは両手を胸元で組む。

神聖力がほとばしり、黄金の光が鼓動のように脈打つ。


「《どうか、彼の者に絡む歪みを照らし、

偽りの結びつきを、お断ちください——!》」


放たれた光が闇を覆う。


「うあああああっ——!」


ハウゼンの叫びが夜を裂き、

闇が霧散するように消えていく。


やがて力を失った身体は崩れ落ち、静かに横たわった。


アルテリスは息をつき、右手を下ろす。

風が吹き抜け、赤い残光がゆっくりと消えていった。


月光が戻り、焼け焦げた石畳を白く照らす。


——静寂。


黒い瘴気は完全に消え、戦いの痕だけが痛々しく残っている。


ジャミーラは胸に手を当て、荒い呼吸のまま呟く。


(終わった……の……?)


アルテリスは慎重にハウゼンへ歩み寄り、膝をつく。

彼の身体はすでに人の姿に戻っており、胸が規則正しく上下していた。


「……ハウゼン様は」


掠れた声で問うジャミーラに、アルテリスは静かに微笑む。


「ご安心ください。命に別状はございません」


火霊の残光が彼の頬を淡く照らし、その影にやさしさが滲む。


「お疲れ様でございます。

シャマル様の祈りが、彼をお救いになりました」


「……私が、救った……?」


「はい。

これより先は、彼が自身の心とどう向き合うか、です」


ジャミーラは胸に手を当て、ほっと息をつく。

安堵が胸に広がる——

しかし次の瞬間、倒れるハウゼンの姿が視界に戻った。


「は、早く聖騎士団へ連絡しないと……!」


「それでしたら——」


焦るジャミーラとは対照的に、アルテリスの声は変わらず穏やかだった。

彼は、肩越しに視線を向ける。


「あらぁ。気づいていたのね」


緊張を解すような明るい声。

ジャミーラが反射的に振り向くと、月明かりを背に二人の生徒が歩いてきた。


「どなた……?」


身を固くするジャミーラの横で、

アルテリスは落ち着いた声で告げた。


「ご紹介いたします。

こちらはルシファニア王国アダン伯爵家ご令息、ジャン・アダン様。

そしてベルタン子爵家ご令嬢、ルイーズ・ベルタン様です。

お二人とも生徒会の三年生で、聖騎士団見習いでいらっしゃいます」


アルテリスは丁寧に紹介する。


一人は、透き通る白い肌に、月光を溶かしたような白金の髪を双に結い上げた巻き髪の少女。

紫の瞳が、宝石のように瞬いた。


もう一人は、血色を帯びた端正な白い肌の少年。

落ち着いた茶色の短く整えられた髪が額をすっきりと見せ、

紫の瞳は、静かに沈んだ光を宿していた。


「アダン様、ベルタン様。

こちらは、ランデュート王国シャマル侯爵家ご令嬢、ジャミーラ・シャマル様です」


ジャミーラは胸の震えを抑え、丁寧に一礼した。

背に流れる漆黒の髪が、月光を受けて艶やかに揺れる。


「ごきげんよう、アダン様、ベルタン様」


「ごきげんよう、シャマル様。

お会いできて光栄に存じますわ」


ルイーズは柔らかな笑みを浮かべ、ドレスの裾をつまんで一礼する。

高く結ばれた白金のツインテールが、くるりと弧を描きながら月光を弾いた。


その隣で、茶髪の青年——ジャン・アダンが一歩前に出る。

無駄のない所作は、彼の誠実な気質をそのまま表しているようだった。


「お初にお目にかかります。

本来、今夜の見回りは我々の当番でしたが、別件の対応で遅れてしまい、申し訳ございません」


誠実な謝罪に、ジャミーラは小さく首を振った。


「どうか、お気になさらないでくださいませ。

お越しくださり、ありがとうございます」


ジャンは深く頷き、静かに言葉を続ける。


「シャマル嬢の神聖術、お見事でした」


「……ありがとうございます」


ジャミーラは頬を染め、控えめに礼を返した。


「この場の処理は、こちらで引き継ぎます。

医療班と上層部への報告も、我々が行いましょう。

どうぞ、お二人はお休みください」


「ありがとうございます。後のことはお任せいたします」


ジャミーラが丁寧に礼を返すと、アルテリスは静かに頷き、深く一礼した。


月光が白く地面に落ち、

長かった戦いの終わりを静かに告げていた。


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