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Jardin miniature 神々の箱庭で、少女たちは軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第1章 聖エリュシア学園入学編
16/91

兆し

嫌な気配がする。


ジャミーラは授業中、教室の窓から外を眺めながら、そっと胸に手を当てた。

朝、目覚めてからずっと、胸の奥が重く沈み、理由のわからないざわめきが続いている。


まるで——あの日のように。


家族を失った、あの忌まわしい日の朝。

暗く、冷たく、逃げ場のない予感が、胸の内を掠めて離れない。


(……気のせい、よね?)


そう思い込もうとするたび、不安は逆に輪郭を持ち始めた。


講師の声は遠く、黒板の文字は霞み、

時間だけが、胸騒ぎの中で重く澱んでいくように感じられた。


そのざわめきは、放課後になっても消えることはなかった。


⚜️⚜️⚜️


夕刻の生徒会室。

廊下の窓から差し込む淡い夕日が扉を撫で、室内に静かな陰影を落としていた。


ジャミーラが軽く扉を叩くと、すぐに聞き慣れた声が返る。


「シャマル様、お待ちしておりました」


アルテリスに出迎えられ、一礼して室内へと入る。


机上には整然と書類が並び、窓辺で筆を置いた黒髪の青年は、一房の編み込みをさらりと揺らして振り返った。

赤い瞳が、柔らかな夕日の光にわずかに映える。


「ムスタファ殿下にご挨拶申し上げます」


「ああ」


その返答には、以前のような堅苦しさはなく、かすかな柔らかさが滲んでいた。


アルテリスは、二人をそっと見守る。


(……お二人の間に、良い変化があったようですね)


先日の勉強会を思い返す。

お茶を運んで戻ってきてから、二人の口調には確かに微細な変化があった。

ライルと目が合い、互いに気づいた時の、

言葉にし難い微笑ましさが、胸の奥に静かに灯る。


ジャミーラはふと、室内を見回した。


黒の外套を着崩した、和やかな青年の姿が見当たらない。


(……イルハン様は、いらっしゃらないのね)


「ライル様は、所用で席を外しております」


心を読んだかのように、アルテリスが静かに告げた。


「そうなのですね」


案内され、昨日と同じ席に腰掛ける。

だが、いつもと違う。

室内には、張りつめた糸のような緊張が、わずかに漂っていた。


「……何か、ございましたか?」


その一言に、深紅の瞳がほんの一瞬だけ細くなる。


「何か、とは?」


穏やかな声。

しかし、その穏やかさが意図的に保たれているものだと、

ジャミーラはまだ気づけなかった。


「いえ……ただ、今朝からずっと胸騒ぎがしていて。

何となく、落ち着かないのです」


言葉にした瞬間、脳裏に嫌な記憶が甦る。

ジャミーラは反射的に視線を伏せた。


「シャマル様?」


心配そうに声をかけるアルテリス。

その声音にハッとし、ジャミーラは小さく首を振る。


(……変なことを口走ってしまったわ)


学園は結界石に護られている。

魔族が入り込むはずがない——

そうでなければならない。


「申し訳ございません。

わたくしの思い違いですわ。

どうか、お気になさらずに」


無理に形作った微笑み。


ムスタファは、その笑みをじっと見つめていた。

赤い瞳の奥で、かすかな逡巡の影が揺れる。


アルテリスもまた、何も言わず、

主の沈黙を守るようにその場に佇んでいた。


夕陽はゆるやかに落ち、窓辺の光は朱へと染まる。

静かな空間の中で、

語られぬ不安と、隠された真実を抱えたまま、

三人の影だけが細く、長く伸びていった。


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