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短編集(令嬢とかざまぁとか…)

美しい姉の身代わりとして嫁いだのに、なぜか大切にされています

作者: 雪月火

ベルンシュタイン子爵家の薄暗い廊下を、リナは息を殺して歩いていた。

彼女の仕事は、華やかな晩餐会を終えた姉セレスの部屋の後片付けと、残された食事を厨房へ運ぶことだ。

ダイニングルームの扉の隙間から、家族の楽しげな笑い声が漏れ聞こえてくる。

父と母が、今日の社交界でいかにセレスが注目を集めたかを褒めそやす声。

セレスが甘えた声で、新しいドレスや宝石をねだる声。

その輪の中に、リナの居場所は存在しない。

リナは物音を立てないよう静かにテーブルに残された皿を重ねる。

ほとんど手付かずのローストチキンや美しく飾り付けられたケーキが、彼女の空腹を刺激するが、手を付けることは許されない。

これが彼女の日常だった。

美しい姉の影として生き、その存在を認められることはない。

彼女の着ている服は、姉のお下がりの色褪せてくたびれたドレスだ。

髪も自分で無造作に結んだだけで、鏡を見ることさえ長い間忘れていた。


片付けを終えたリナが厨房に戻ると、使用人たちがひそひそと噂話をしている。


「またセレスお嬢様は、求婚者を袖になさったらしいわ」

「あれほどの美貌ですもの、選びたい放題でしょうね」


リナはそんな会話を聞き流し、黙々と洗い物を始める。

自分の人生にそのような華やかな出来事が訪れることなど万に一つもないと知っていたからだ。

彼女の願いは、ただ静かに、誰にも迷惑をかけずに日々を過ごすことだけだった。


その静かな日常は、一通の王家の紋章が入った手紙によって唐突に破られた。

使者から手紙を受け取った子爵は、震える手で封を切り、その内容を読み終えると歓喜の声を上げた。


「やったぞ!ついに我が家にも春が来た!」


手紙は、王家も一目置く北方の実力者、「氷の辺境伯」ことアレクシス・フォン・ヴァルデンベルクから、長女セレスへの縁談を申し込むものだった。

辺境伯は若くして広大な領地を治め、その軍事力と財力は並の貴族とは比較にならない。

この縁談が成立すれば、ベルンシュタイン子爵家の地位は飛躍的に向上する。

子爵夫妻は狂喜乱舞し、すぐにセレスを呼び寄せた。

しかし、当のセレスは、父から縁談の話を聞かされると、美しい顔を不快に歪めた。


「嫌よ!そんな北の果ての野蛮な場所になんて、どうして私が行かなくてはならないの!」

「氷の辺境伯ですって?冷たくて、熊みたいに大きな男だと聞いているわ!私の美しさが凍えてしまうじゃない!」


セレスはヒステリックに叫び、床に置かれていた花瓶を叩き割った。

彼女は王都の華やかな社交界で、きらびやかな貴公子たちに囲まれて生きることを望んでおり、辺境での退屈な暮らしなど考えられなかった。

娘の頑なな拒絶に、子爵夫妻は顔面蒼白になる。

辺境伯の機嫌を損ねれば、家が取り潰される危険性すらあった。


「しかし、セレス…。これは王家も介在している縁談なのだ。断ることなど…」


「うるさい!嫌なものは嫌なの!お父様とお母様で何とかしなさいよ!」


そう言い放ち、セレスは部屋から出て行ってしまった。

途方に暮れた子爵夫妻の視線が、ふと部屋の隅で気配を消していたリナに向けられた。

父の目に、ある種の計算高い光が宿る。


「…そうだ。リナがいる」


「リナ…?あんな地味で出来損ないの娘が、セレス様の代わりになるとでも?」


「辺境伯はセレスの顔を知らん。美しいと評判の我が家の娘、としか聞いていないはずだ。リナをセレスとして送り込むのだ。向こうに着いてしまえば、どうとでもなる」


母も最初は躊躇したが、家の安泰とセレスの我儘を天秤にかけ、最終的に夫の非道な計画に同意した。


リナは両親の前に引きずり出され、有無を言わさず身代わりとして嫁ぐことを命じられた。

彼女が何かを言う前に、父が冷たく言い放つ。


「いいか、リナ。これはお前にとってまたとない機会だ。お前のような出来損ないでも、美しい姉の身代わりとしてなら、家の役に立つことができるのだからな。光栄に思え」


母も追い打ちをかけるように言った。


「くれぐれも、セレスの名を汚すような真似はしないでちょうだい。辺境伯様の前では、常にセレスであるように振る舞いなさい。もし失敗すれば、お前一人の問題では済まないのだから」


リナに与えられたのは、古いトランク一つと、姉がもう着ないと言って捨てた、少しばかり上等なだけのドレスが一枚だけだった。

家族からの温かい言葉も餞別もない。

まるで厄介払いをするかのように、彼女は辺境伯家から迎えに来た馬車へと押し込まれた。

馬車の扉が閉まる直前、窓から見えた家族の顔は、安堵と侮蔑に満ちていた。

セレスに至っては、リナの不幸を嘲笑うかのような笑みを浮かべていた。

長い、長い旅が始まった。

揺れる馬車の中で、リナはただ一人、自分の運命を思った。

いつか、自分が偽物であるとバレる日が来るだろう。

その時、自分はどうなるのか。

辺境伯を欺いた罪で、おそらくは惨たらしく処刑される。

それが自分の結末なのだと、リナは静かに覚悟を決めた。

恐怖はあったが、それ以上に、自分を人間として扱わなかった家族の元を離れられることに、ほんの少しだけ安堵している自分もいた。

数週間の旅の末、馬車はついにヴァルデンベルク領へと到着した。

聳え立つ城壁と威圧的な城の姿に、リナは息を飲む。

城門の前には、数人の騎士と共に一人の男性が立っていた。

銀色の髪に、彫刻のように整った顔立ち。

そして、全てを見透かすような氷の色の瞳。

噂に違わぬ冷たい美貌を持つ、アレクシス・フォン・ヴァルデンベルク本人だった。

リナはヴェール越しに彼を見上げ、恐怖で体が石のように硬直した。


アレクシスは馬車から降りたリナを、頭のてっぺんからつま先まで品定めするように一瞥した。

彼の瞳には何の感情も浮かんでおらず、その沈黙がリナの心臓を締め付ける。

何か言わなければ。

姉のように優雅に挨拶をしなければ。

しかし、リナの喉は乾ききって声が出なかった。

彼女が恐怖に震えていると、アレクシスはふいと彼女から視線を外し、背を向けて一言も発せずに城の中へと歩き始めた。

その冷たい態度に、リナは「やはり、こんな地味な女が来て失望したのだ」と確信し、絶望に打ちひしがれた。

彼女を気の毒に思ったのか、そばに控えていた老執事のゲオルグが、穏やかに声をかけてきた。


「奥様、こちらへどうぞ」


リナは言われるがまま、とぼとぼと彼の後について城内へと足を踏み入れる。

案内された部屋は、彼女がこれまでの人生で見たこともないほど豪華で広々としていた。

天蓋付きのベッド、ビロードのソファ、大きな窓からは美しい庭園が見える。

そして、テーブルの上には温かい食事が用意されていた。

予想していた牢獄のような部屋や冷たい仕打ちとは全く異なる丁重な扱いに、リナはただただ混乱するばかりだった。


「これは…どういうこと?」

「きっと、傲慢な姉や実家への当てつけに違いない」

「私を丁重に扱うことで油断させ、後でまとめて断罪するつもりなのだわ」


リナは、この過剰な優しさを新たな罠だと感じ、少しも心を休めることができなかった。

辺境伯の真意が全く読めないまま、偽りの花嫁の初夜は、恐怖と疑念の中で静かに更けていくのだった。




* * *




翌朝、リナは柔らかな羽毛布団の感触で目を覚ました。

窓から差し込む朝日に照らされた豪華な部屋を見渡し、これが夢ではないことを実感する。

昨夜はほとんど眠れなかった。

これから始まるであろう偽りの結婚生活への恐怖とアレクシスの不可解な行動への混乱が、彼女の心を支配していた。


しばらくすると、扉がノックされ、侍女長と名乗るヒルダに連れられた数人の侍女たちが部屋に入ってきた。

彼女たちはリナの寝間着を脱がせ、湯浴みの準備をし髪を梳かそうとする。

しかし、リナは人に世話をされることに慣れておらず、虐げられていた頃の癖で思わず「だ、大丈夫です!自分でやりますから!」と彼女たちの手を払いのけてしまった。

侍女たちは顔を見合わせ、困惑した表情を浮かべる。


「ベルンシュタイン子爵令嬢は、ご自身で何でもなさる方なのかしら」

「噂では、大変誇り高い方だと伺っておりましたが…」


侍女たちのひそひそ話が耳に入り、リナは「しまった」と内心で焦る。

姉のセレスならば、ふんぞり返って侍女たちに世話をさせていたはずだ。

自分の行動が「セレスらしくない」と怪しまれている。

リナは慌てて、「…旅の疲れで、少し混乱しているだけです。お任せしますわ」と、か細い声で取り繕った。

彼女は、完璧な「姉セレスの身代わり」を演じなければならないというプレッシャーに、初日から押しつぶされそうになっていた。


その日の午後、リナが部屋で息を潜めていると、アレクシスが予告もなく訪れた。

彼は昨日と同じように無表情で部屋に入ってくると供の者が持っていた大きな箱をテーブルの上に置いた。

箱の中には、空の色を映したような美しい青色のドレスとそれに合わせたサファイアのネックレスが入っていた。

リナは息をのむほど美しい贈り物に目を見張るが素直に喜ぶことはできなかった。


「…なぜ、私にこのようなものを?」


彼女が恐る恐る尋ねると、アレクシスは氷の瞳で彼女をじっと見つめ、「お前に似合うと思った」と短く答えた。

その言葉に、リナの心臓はドキンと跳ねたがすぐに打ち消す。

「そんなはずがない。これは、いずれここに来るはずの『本物のセレス』のためのものだ。私はただ、それを一時的に預かっているだけ」。

あるいは、子爵家を安心させるための政治的なパフォーマンスかもしれない。

どちらにせよ、自分に向けられたものではない。

リナはそう結論付け、深く頭を下げて「もったいないお言葉です、辺境伯様」と礼を述べた。


アレクシスの贈り物攻撃は、それからも毎日続いた。

ある日は真珠の耳飾り。

ある日は繊細なレースのショール。

またある日は流行の美しい靴。

部屋のクローゼットは、リナが生まれてから一度も着たことのないような、豪華な衣装で埋め尽くされていく。

リナはこれらの贈り物を自分のものだとは思えず、汚さないようにクローゼットの奥にしまい込もうとした。

しかし、その様子を見た侍女長のヒルダに、


「旦那様がお選びになった品々です。お召しにならないのは、旦那様のお心を無下になさることになります。どうか、お袖を通してくださいませ」


と静かだが厳しい口調で諭されてしまった。

リナは、贈り物を着ないことすらも怪しまれる原因になるのだと悟り、追い詰められた気持ちになった。


リナはついに覚悟を決め、その夜の夕食にアレクシスから贈られたばかりの深紅のドレスを身にまとって現れた。

鏡に映る自分は、まるで別人のようだ。

しかし、着飾れば着飾るほど、「自分は偽物だ」という意識が強くなる。

食堂に入ると、すでにアレクシスが席に着いていた。

彼はドレス姿のリナを一瞥し、その眉がわずかに動いた。

リナはその表情を「似合わないと馬鹿にしているのだ」と解釈し、顔から血の気が引くのを感じた。


夕食の間、リナは完璧な「セレス」を演じることに全神経を集中させた。

背筋を伸ばし優雅な微笑みを口元に浮かべ、姉ならばするであろう少し気位の高い会話を心がけた。


「辺境の冬は厳しいと伺っておりますわ。王都の華やかさが恋しくなりますわね」


しかし、彼女の言葉にアレクシスは「そうか」と相槌を打つだけで、会話は全く弾まない。

重苦しい沈黙がテーブルを支配する。

リナは緊張のあまりスープを飲むスプーンを持つ手がかすかに震え、カチャリと皿に当たって小さな音を立ててしまった。

その瞬間、アレクシスの鋭い視線が彼女に突き刺さる。

彼の眉間の皺が、さらに深くなったように見えた。


ああ、失敗した。無作法だと思われた。失望されたに違いない。


リナの心は絶望でいっぱいになった。

もう、ここにはいられない。

早くこの場から逃げ出したい。

彼女は食事も喉を通らず、ほとんど手付かずのまま早々に体調が悪いと嘘をついて席を立ってしまった。


実際のアレクシスは、全く違うことを考えていた。

彼は慣れないドレスを着て緊張で青ざめているリナをただひたすらに心配していたのだ。

彼女が王都を恋しがっているような素振りを見せたことに胸を痛めどうすれば彼女の心を慰めることができるだろうかと真剣に悩んでいた。

スプーンの音を立てた時も彼女の震える手を見て、何か不安なことがあるのかと気遣っていただけだった。

彼の厳しい表情は、彼女を心配するあまりの不器用な表現だったが、その真意がリナに伝わることはなかった。


自室に逃げ帰ったリナは、豪華なドレスを脱ぎ捨て、ベッドに突っ伏した。

涙がこぼれそうになるのを必死で堪える。


「だめだ。私はもっと完璧にならなければ」。


このままでは、いつか必ずメッキが剥がれてしまう。

捨てられるその日まで、辺境伯に迷惑をかけず、完璧な「美しい姉セレス」を演じきること。

それが偽物の自分にできる唯一の償いであり、一日でも長く生き延びるための術なのだとリナは決意を新たにした。

鏡に映る自分の姿に、「あなたはセレス。リナではないの」と何度も言い聞かせる。

その瞳からは、徐々に光が失われていった。


一方、一人残された食堂でアレクシスは執事のゲオルグに珍しく胸の内を明かしていた。


「ゲオルグ、彼女が日に日にやつれていく。私が何か間違っているのだろうか」


「旦那様のお気持ちは、すぐにはお嬢様には伝わりますまい。あまりに長い間、不遇な環境におられたのですから」


「贈り物が、かえって彼女を追い詰めているのかもしれん。だが、私にはこうすることしか…」


彼の声には、深い苦悩とリナへの愛情が滲んでいた。

同じ城にいながら、二人の心はあまりにも遠くすれ違っていた。

勘違いの溝は、リナが完璧な身代わりを演じようとすればするほど、深くなっていくのだった。




* * *




辺境伯邸での生活が始まって一週間が過ぎても、リナの食欲は一向に戻らなかった。

毎食、テーブルには王侯貴族が食べるような豪華絢爛な料理が並べられた。

金色のコンソメスープ、七面鳥の丸焼き、見たこともない高級魚のポワレ。

しかし、それらはリナにとって、ただの絵画のように現実感がなかった。

アレクシスの前で完璧な淑女を演じなければならないという極度の緊張。

そして、実家で姉の残飯か、固いパンと水だけの食事を与えられてきた過去の経験が、彼女の胃を固く縮こまらせていた。

一口食べるごとに、喉の奥が詰まるような感覚に襲われ、味もほとんど感じなかった。


毎日、ほとんど手付かずのまま下げられていく皿を見て、侍女長や使用人たちは陰で囁き合っていた。


「奥様は、よほど北の地の食事がお口に合わないのだろうか」


「旦那様も、奥様が痩せていくのを大変ご心配されている」


アレクシスもまた、食事のたびに青ざめた顔でフォークを握りしめるリナの姿を、痛ましげな目で見つめていた。

彼は「無理に食べなくていい」と声をかけてやりたかったが、その一言が彼女に更なるプレッシャーを与えるのではないかと恐れ、何も言えずにいた。

彼の沈黙は、リナには「食事が進まないことへの無言の非難」としか受け取れず、食事の時間は日に日に苦痛なものとなっていった。


ある日の午後、リナは気分転換に城の中を散策していた。

豪華な客室や書庫を通り過ぎ、ふと、建物の裏手の方から漂ってくる香ばしい匂いに足を止めた。

それは、野菜をコトコト煮込む優しい匂いと、パンが焼ける甘い香りだった。

その素朴な香りは、リナの記憶の扉を叩いた。

実家で虐げられていた頃、唯一心が安らぐ時間が、厨房の隅を借りて自分のために簡単なスープを作ることだった。

誰にも見つからないように、野菜の切れ端と固くなったパンで作る質素な食事。

それでも、自分で作った温かいものは、リナの冷え切った心を慰めてくれた。


懐かしい匂いに誘われるように、リナは厨房の扉の前に立っていた。

中からは、料理人たちの威勢のいい声が聞こえてくる。

彼女はしばらく躊躇したが、意を決して、侍女長のヒルダの元へ向かった。


「あの…ヒルダさん。一つ、お願いがあるのですが」

「何でございましょう、奥様」

「少しだけ…厨房をお借りすることはできませんでしょうか」


その予想外の願いに、ヒルダは目を丸くした。

貴族の、それも伯爵夫人が厨房に立つなど前代未聞だったからだ。

しかし、リナの真剣な眼差しと、何とかしてこの城での自分の居場所を見つけたいという切実な思いを感じ取り、ヒルダは答えた。


「旦那様に伺ってみます」


報告を受けたアレクシスは、一瞬驚いたものの、すぐに許可を出した。


「…彼女の望むようにさせろ」


彼にとっても、リナが食事を摂らないことは最大の懸念事項だった。

彼女が自ら食に関わろうとすることが、良い変化のきっかけになるかもしれないと、わずかな希望を抱いたのだ。


許可を得たリナは、おずおずと厨房へと足を踏み入れた。

いかつい顔の料理長オイゲンをはじめ、厨房のスタッフたちは、突然現れた伯爵夫人を訝しげな、あるいは値踏みするような目で見ていた。

「奥様が料理など、一体何を…」という空気が流れる。

しかし、リナはそんな視線を気にすることなく、用意されたエプロンを身につけると、まるで水を得た魚のように生き生きと動き始めた。

彼女は豪華な食材には目もくれず、貯蔵庫の隅にあったジャガイモやニンジン、玉ねぎといったありふれた野菜と、保存用の干し肉を手に取った。

その無駄のない手際の良さに、料理人たちは次第に目を見張るようになる。


リナは野菜を丁寧に切り、大きな鍋で干し肉と共にじっくりと煮込んでいく。

そして、小麦粉をこねて、素朴な丸いパンを形成し、石窯の隅で焼き上げた。

彼女が作っていたのは、凝った宮廷料理ではなく、北の寒い地で暮らす人々が体を温めるために食べるような、ごく普通の家庭料理、温かいシチューと焼きたてのパンだった。

料理をしている間、リナの心は不思議と穏やかだった。

完璧な「セレス」を演じる必要のない、ありのままの自分でいられる唯一の時間だった。


その日の夕食、いつもの豪華な料理が並ぶテーブルの真ん中に、リナが作った素朴なシチューの入った土鍋と、籠に盛られたパンが置かれた。

アレクシスは、毒見役が一口食べたのを確認した後、訝しげな表情でシチューの皿を手に取った。

政敵が多い彼は、長年毒殺を警戒し、食事を心から楽しむことなどなかった。

常に必要最低限のものを、義務として口に運ぶだけの日々。

彼はスプーンでシチューをすくい、ゆっくりと口に運んだ。

その瞬間、アレクシスの氷の表情が、ほんのわずかに、だが確かに緩んだ。


温かい。

ただ熱いだけではない、人の手の温もりが感じられるような、優しい味がした。


そして、心の奥底に仕舞い込んでいた記憶の断片を呼び覚ます。

あの日、森で倒れていた自分に、名も知らぬ少女が分け与えてくれた、けしの実のパンの素朴な温かさを。

目の前の料理は、彼の凍てついた心を、内側からじんわりと溶かしていく力を持っていた。


アレクシスは無言のまま、一心不乱にシチューを食べ進め、あっという間に皿を空にした。

そして、焼きたてのパンをちぎっては、最後の一滴までスープをすくって食べた。

その姿を、リナは息を詰めて見守っていた。

やがて、全てを食べ終えたアレクシスは、驚きと不安で見つめるリナの方を向き、ぶっきらぼうに、だがはっきりと一言、こう告げた。


「…美味い」


その言葉は、どんな高価な贈り物よりも、リナの心に深く温かく染み渡った。

虐げられ、誰からも必要とされなかった自分が、初めて誰かの役に立てた。

初めて、自分のしたことを認められた。

その喜びで、リナの目には涙が浮かんだ。

アレクシスは、そんなリナの様子を見て、少しだけ口調を和らげ、続けた。


「明日も、お前が作ったものが食べたい」


リナは、こぼれ落ちそうな涙を必死にこらえながら、力強く、何度も頷いた。

この瞬間、彼女は初めて、この辺境の地で自分の存在価値を見出したような気がしていた。

それはまだ、ほんの小さな光だったが、彼女の長い間凍てついていた心を溶かし始める、確かな温もりだった。




* * *




リナが厨房に立つようになってから、城の雰囲気は少しずつ変わり始めていた。

彼女の作る温かい料理はアレクシスだけでなく、お裾分けされた使用人たちの間でも評判となった。

そのため、彼女に対する当初の訝しむような視線は、次第に好意的なものへと変わっていった。

リナ自身も料理という役割を得たことで、以前よりは心穏やかに過ごせる日が増えていた。

しかし、彼女の心の中には依然として、「自分は偽物だ」という恐れが根強く残っていた。

アレクシスの優しさの真意を測りかねる日々が続いていたのだ。


そんなある晴れた日の午後、リナは気分転換のために城の広大な庭園を散策していた。

侍女も付けず、一人で静かに歩く時間は、彼女にとって貴重な息抜きの時間だった。

色とりどりの花が咲き誇る庭園の奥へ奥へと進んでいくと、いつの間にか人の手入れがあまりされていない区画に迷い込んでしまった。

それは、自然に近い森のような場所だった。

そこは、普段は誰も近づかない場所だと、後になってから知ることになる。


リナがふと顔を上げると、目の前に信じられない光景が広がっていた。

岩場の上に、巨大な獣が体を休めていたのだ。

鷲の頭と翼、そしてライオンの胴体を持つ、伝説上の生き物――神獣グリフォン。

その体は陽の光を浴びて銀色に輝き、神々しいまでの威厳を放っていた。


ヴァルデンベルク辺境伯領には、建国神話にも登場する神獣グリフォンが生息し、代々の当主が契約を結んできたという話は聞いていた。

しかし、実際に目の当たりにするのは初めてだった。

現在の当主アレクシスと契約しているグリフォンは、歴代の中でも特に気性が荒い。

彼はアレクシス以外の人間を一切寄せ付けないことで知られていた。

近づく者は、たとえ城の兵士であっても容赦なく威嚇し、時にはその鋭い爪で引き裂くことさえあるという。


リナの存在に気づいたグリフォンは、ゆっくりと体を起こし、黄金色の鋭い瞳で彼女を捉えた。

グルルル…と、喉の奥から地を這うような唸り声が聞こえる。

リナは全身の血が凍りつくのを感じた。

恐怖で足がすくみ、声も出ない。

逃げなければならないと頭では分かっているのに、体が金縛りにあったように動かなかった。


「ここで、食べられて死ぬんだわ…」


彼女が死を覚悟した、その時だった。


リナの気配に気づいた城の兵士たちが、慌てて駆けつけてきた。


「奥様!お逃げください!」

「そいつに近づいてはなりません!」


彼らは剣を抜き、盾を構え、緊張に顔をこわばらせている。

しかし、彼らもまたグリフォンを刺激することを恐れて、迂闊に近づけない。

城中に緊張が走り、誰もが固唾をのんで成り行きを見守っていた。


兵士たちの殺気に、グリフォンはさらに敵意を剥き出しにし、大きく翼を広げて威嚇の叫び声を上げようとした。

その瞬間、動けずにいたリナが、無意識のうちに一歩、前に踏み出した。

恐怖はあった。

しかし、それ以上に、目の前の孤高で美しい生き物が、ただ自分の縄張りを守ろうとしているだけだと感じた。

自分と同じ、孤独な存在のように見えたのだ。


リナのその小さな一歩が、場の空気を変えた。

敵意に満ちていたグリフォンの黄金の瞳から、ふっと力が抜ける。

彼はリナをじっと見つめ、何かを確かめるようにクンクンと鼻を鳴らした。

そして、誰もが息をのむ中、信じられない行動に出た。

巨大なグリフォンは、リナの目の前でゆっくりと前足を折り、巨大な体を地面に伏せたのだ。

それは、絶対的な臣従と信頼を示すポーズだった。


さらに、彼はその鷲のような頭をリナの腰のあたりにそっと擦り付けてきた。

まるで、飼い主の帰りを待っていた忠犬が甘えるような仕草だった。

リナは驚きと戸惑いの中で、恐る恐る手を伸ばし、グリフォンの銀色の羽毛に触れた。

羽毛は絹のようになめらかで、温かかった。

リナが優しく撫でると、グリフォンは気持ちよさそうに目を細め、ゴロゴロと猫のような音を喉で鳴らした。


その場にいた兵士も、駆けつけた使用人たちも、目の前で起きている奇跡のような光景を、ただ呆然と見つめることしかできなかった。

その一部始終を、少し離れた場所からアレクシスが見ていた。

彼は報告を受けて駆けつけたが、リナとグリフォンの様子を見て兵士たちを制止したのだ。


「…まさか、あのシルヴァーンが…」


この一件は、瞬く間に城中、そして領地全体へと広まった。

気性の荒い神獣が、ただ一人心を許した伯爵夫人として。

リナは、領民や使用人たちから「神獣に選ばれし奥様」として、以前とは比較にならないほどの敬意と、ある種の畏怖の念を抱かれるようになった。

彼女が廊下を歩けば誰もが道を譲り、深く頭を下げる。


時折庭で会うようになったグリフォン――シルヴァーンという名だとアレクシスから教えられた――と心を通わせる時間は、彼女にとって安らぎであった。

だが、同時に周囲からの過剰な期待が新たなプレッシャーにもなっていた。




* * *




アレクシスは執務室で山積みの書類を処理しながら、窓の外に目をやっていた。

庭ではリナが神獣グリフォン・シルヴァーンの首筋を優しく撫でている。

シルヴァーンは他の誰にも見せない穏やかな表情で、リナに身を委ねていた。

その光景を見つめるアレクシスの口元には、彼自身も気づかないほどの微かな笑みが浮かんでいた。


彼の「冷徹」「氷の辺境伯」という評判は決して偽りではない。

政敵に対しては容赦がなく、領地の運営においては常に冷静で合理的な判断を下す。

その鉄仮面のような無表情と、必要最低限しか語らない寡黙さが周囲の者たちに畏怖の念を抱かせていた。

しかし、その氷の仮面の下には、彼が誰にも見せることのない熱い情熱と長年の想いが隠されていた。

その想いの全ては今、庭で穏やかに微笑む一人の女性リナにだけ向けられていた。

彼の冷徹さは、彼女という唯一の宝物を手に入れ守り抜くために、長年かけて築き上げた鎧のようなものだった。





今から十数年前、まだ彼が十歳にも満たない少年だった頃。

彼はヴァルデンベルク家の嫡男として次期当主の教育を受けるために王都の屋敷に滞在していた。

しかし、彼の家の強大な力を妬む政敵は多く、ある日卑劣な罠にはめられた。

信頼していた家庭教師に森へと誘い出され、そこで待ち伏せていた暗殺者たちに襲われたのだ。

護衛の騎士は殺され、アレクシス自身も深手を負い必死で森の奥深くへと逃げ込んだ。

追っ手を振り切ったものの出血はひどく、意識は朦朧としていた。

冷たい地面に倒れ込み、このまま誰にも知られずに死んでいくのだと幼い彼は絶望していた。

人間への不信と憎しみが彼の心を凍てつかせていた。


その時だった。

ガサガサと草を掻き分ける音がして一人の少女が彼の前に現れた。

自分と同じくらいの年頃の栗色の髪をした地味な少女。

彼女は薬草を摘みに来て偶然倒れているアレクシスを見つけたのだった。

少女は血を流す彼を見ても怯えることなく、その場に駆け寄ると心配そうに彼の顔を覗き込んだ。


「だ、大丈夫?すごい怪我…!」


アレクシスは警戒心から彼女を睨みつけたが、少女は全く意に介さず、自分のスカートの裾を大胆に引き裂くと慣れた手つきで彼の傷口を縛って止血を始めた。

そして持っていた水筒の水を彼に飲ませ、懐から小さな布の包みを取り出した。

中に入っていたのは彼女のおやつだったのだろう、けしの実が乗った素朴なパンだった。

少女はそれを半分に割り彼の口元へと差し出した。


「お腹すいてるでしょ?これ食べて」


その時の少女の純粋な優しさと分け与えてくれたパンの温もりが、凍てついていたアレクシスの心を溶かした。

彼は生まれて初めて、見返りを求めない無償の善意に触れたのだ。

この少女だけは信じられる。

この温もりだけは本物だ。

彼は夢中でパンを頬張り涙を流した。

やがて彼を探しに来たヴァルデンベルク家の者たちが見つけ、彼は一命を取り留めた。

しかし、騒ぎの中で少女はいつの間にか姿を消しており彼は名前を聞くことさえできなかった。


あの日以来、アレクシスにとってその名も知らぬ少女は唯一の光となった。

彼は彼女を必ず見つけ出し自分の手で幸せにすると心に誓った。


時が経ち辺境伯の地位を継いだアレクシスは、その権力と情報網を駆使して来る日も来る日もあの日の少女を探し続けた。

調査は困難を極めたが数年の歳月を経て、ついに彼女の身元を突き止める。

彼女はベルンシュタイン子爵家の次女リナ。

しかし、同時に彼女が家族から虐げられ美しい姉の影として辛い日々を送っているという事実も知ることになった。


アレクシスは怒りに燃えた。

今すぐ子爵家に乗り込みリナを力づくで奪い去ってしまいたい衝動に駆られた。

しかし、それをすれば欲深い子爵家がリナを交渉の道具として利用し、彼女をさらに苦しめることは目に見えていた。

正攻法で「次女のリナ嬢を」と求婚しても、価値のない娘を高値で売りつけようとするか、あるいは何か裏があるのではないかと勘繰り縁談を拒否する可能性すらある。

そこでアレクシスは腹心の執事ゲオルグと二人で壮大な計画を練り上げた。

あえて社交界で「美しい」と評判の姉セレスに求婚するという計画だ。

傲慢で自己中心的なセレスが辺境の地への嫁入りを素直に受け入れるはずがない。

そして辺境伯の機嫌を損ねることを恐れた子爵家は、必ずや価値がないと思っている妹を身代わりとして差し出すだろう。

全ては彼の読み通りに進んだ。

リナを最も穏便にかつ確実にあの家から救い出すための苦肉の策だった。

彼の贈り物は全て再会を夢見てきたリナ本人に向けられたものであり、彼の不器用な態度は彼女に真実をどう伝えればいいのか測りかねている苦悩の表れだったのだ。


アレクシスは執務室でゲオルグと向き合っていた。


「ゲオルグ、彼女はあの日のことを覚えていないようだ」


「無理もございません、旦那様。リナお嬢様にとってはほんの通りすがりの出来事。ですが、旦那様にとっては人生を変える出会いであった。その重みの違いでございます」


「私が真実を話せば彼女は信じるだろうか。それとも私をただの狂人だと思うだろうか。彼女が私に怯えている今、過去の話をすることが彼女をさらに追い詰めることになりはしないか…」


珍しく弱気な言葉を漏らす主人にゲオルグは静かに言った。


「旦那様のお気持ちが真実である限り、いつか必ずお嬢様にも伝わります。今は焦るべきではございません」


アレクシスは再び窓の外に目をやった。

リナはシルヴァーンに何か楽しそうに話しかけている。

あの純粋な笑顔を自分に向けてくれる日はいつ来るのだろうか。

彼はリナが自分に怯えることなく心からの笑顔を見せてくれるようになるまで、この秘密を胸に秘めておくことを決意した。

彼の不器用な愛情表現とリナの根深い自己否定からくる勘違い。

二人の心の距離はまだ遠いままだった。




* * *




リナが辺境伯領に嫁いでから数ヶ月が経過した。

彼女の作る家庭料理はアレクシスの日常に欠かせないものとなり、神獣シルヴァーンは彼女の忠実な友となっていた。

使用人たちからの敬意と、アレクシスの不器用ながらも揺るぎない庇護の中で、リナの心は少しずつ癒され、痩せていた頬にも血の気が戻り始めていた。

自分は偽物だという思いは消えないものの、この穏やかな日々が一日でも長く続けばいいと願うようになっていた。


その頃、遠く離れた王都の社交界では、一つの噂が貴族たちの間で駆け巡っていた。

「あの氷の辺境伯が、新妻を驚くほど溺愛しているらしい」

「なんでも、毎日高価な贈り物をし、片時もそばを離さないとか」

「お相手は、確かベルンシュタイン子爵家の美しいと評判のセレス様だったはず。さすがは辺境伯、美しい花嫁を手に入れたのだな」。

この噂は尾ひれがついて広まり、やがて当事者の一人であるセレス・フォン・ベルンシュタインの耳にも届いた。


セレスはリナを身代わりとして送り出した後、すぐに新たな婚約者を見つけていた。

相手は裕福な伯爵家の嫡男で、彼女は得意の絶頂にあった。

出来損ないの妹を厄介払いし、自分は王都で望み通りの生活を手に入れた。

全てが自分の思い通りに進んでいると信じていた。

しかし、耳に入ってくる噂は彼女のプライドを酷く傷つけた。

自分が捨てたはずの縁談相手が、身代わりの妹を溺愛している?

あの地味で何の取り柄もないリナが、自分以上の幸せを掴んでいる?

そんなことは断じて許せなかった。

嫉妬の炎に身を焼かれたセレスは、ある決意を固める。


「間違いを正してやらなければ。本物の花嫁は、この私だと」


セレスは婚約者の伯爵令息を言いくるめ、豪華な装飾が施された馬車を仕立てさせ、数人の供を連れてヴァルデンベルク辺境伯領へと向かった。

何の事前連絡もない、突然の訪問だった。


その日、リナはアレクシスから贈られた新しい生地で、城の子供たちのために服を作っていた。

ささやかながらも人の役に立てる喜びを感じていた穏やかな時間。

そこへ、侍女が血相を変えて飛び込んできた。


「お、奥様!大変です!王都からお客様が…!」


リナが何事かと玄関ホールへ向かうと、そこには信じられない人物が立っていた。

最新流行の華美なドレスを身にまとい、傲慢な笑みを浮かべてリナを見下ろしている姉のセレスだった。

リナは息をのんだ。

なぜ、姉がここに?

悪夢を見ているかのようだった。

セレスはリナの姿を頭のてっぺんからつま先まで嘗め回すように見ると、軽蔑しきった声で言った。


「まあ、みすぼらしいこと。そんな格好で辺境伯夫人を名乗っているなんて、ベルンシュタイン家の恥だわ」


そして、周囲に聞こえよがしに宣言する。


「皆さん、ご苦労様。偽物はもう下がりなさい。本物の花嫁である、この私が来てあげましたわ」


セレスは、自分が現れれば、アレクシスもその美貌の前にひれ伏し、地味な偽物の妹を追い出して、本物である自分を妻として迎えるに違いないと確信していた。

彼女にとって、リナはいつまで経っても自分の引き立て役でしかない、価値のない存在だったのだ。


突然の姉の登場と、昔と寸分違わぬ侮辱の言葉に、リナの心は凍りついた。

辺境伯領で築き上げてきたささやかな自信は粉々に砕け散り、彼女は再び実家で虐げられていた頃の無力な自分に引き戻されそうになる。

震える唇で何かを言い返そうとするが、言葉にならない。

セレスの存在は、リナにとって絶対的な恐怖の象徴だった。


セレスは、怯えるリナの様子を見て、満足そうに鼻を鳴らした。


「いつまでそこに突っ立っているの?さっさとその座を、本物の私に明け渡しなさい。あなたのような地味な女が辺境伯夫人の椅子に座っているなんて、滑稽で見ていられないわ」


彼女はリナを押しのけ、まるで城の女主人のように大広間の中央へと進もうとした。

リナは、なされるがままに突き飛ばされ、よろけて床に手をついた。

ああ、やっぱりこうなるんだ。

本物が来れば、偽物の自分は捨てられる。

短い夢はこれで終わりなのだ。

彼女が絶望に目を閉じた、その時だった。


「―――誰の許しを得て、私の城に土足で踏み入れた?」


凛とした、地の底から響くような低い声。

その声には、静かだが燃え盛るような怒りが込められていた。

声の主は、いつの間にか大広間の入り口に立っていたアレクシスだった。

彼はセレスには目もくれず、床に膝をついたリナの元へとまっすぐに歩み寄った。

そして、彼女の腕を掴んで優しく立たせると、自分の背後へと庇うように隠した。

その一連の動きはあまりにも自然で、リナを守るという強い意志に満ちていた。

リナは、自分を支えるアレクシスの腕の力強さと、彼の広い背中の温かさに、驚きで目を見開いた。

彼は、私を…守ってくれている?


アレクシスの予期せぬ行動に、自信満々だったセレスの顔から笑みが消えた。

彼女は苛立ったように声を張り上げる。


「辺境伯様!お待ちしておりましたわ。私が本物のセレス・フォン・ベルンシュタインです。そちらにいるのは、私の出来損ないの妹。家の事情で身代わりをさせておりましたが、もうその必要はございませんわ」


彼女はアレクシスに媚びるような笑みを向け、自分が彼に選ばれることを微塵も疑っていなかった。

しかし、アレクシスはそんな彼女を、まるで汚物でも見るかのような冷え切った目で見下ろした。

彼の視線は、セレスの心を射抜く氷の刃のようだった。

セレスの傲慢な振る舞いと、リナに向けられた侮辱の言葉の数々を、彼は物陰から全て聞いていたのだ。

リナの心がどれほど傷つけられたかを思うと、腸が煮えくり返るようだった。


リナは彼の背中に守られながら、これから起こるであろう出来事を固唾をのんで見守っていた。




* * *




大広間の空気は、氷のように張り詰めていた。

アレクシスはリナを自らの腕の中に庇い、その背中でセレスの敵意から守っていた。

リナは、アレクシスの体に触れている部分から、彼の静かで激しい怒りの震えを感じ取っていた。

今まで感じたことのない、絶対的な庇護。

それは、彼女が生まれてから一度も与えられたことのないものだった。

一方、セレスは状況が理解できずにいた。

なぜ辺境伯は、自分ではなく、みすぼらしい妹を庇うのか。

彼女の計算では、アレクシスは自分の美貌にひれ伏し、喜んで偽物を追い出すはずだった。


「辺境伯様?どうかなさいましたの?そんなどぶネズミのような女ではなく、こちらにいらっしゃいな。私が、あなたの本当の妻になる女ですわ」


セレスは苛立ちを隠しきれない声で、なおもアレクシスに呼びかける。

その言葉が、最後の引き金となった。

アレクシスはゆっくりと顔を上げ、その氷の瞳でセレスを射抜いた。

その瞳に宿っていたのは、冷徹さを通り越した、絶対零度の殺意にも似た光だった。

大広間にいた誰もが、その威圧感に息をのんだ。


アレクシスは、リナの肩を抱く腕にさらに力を込めた。

まるで、この世で最も大切な宝物を守るかのように。

そして、静かだが広間の隅々にまで響き渡る明瞭な声で、セレスに告げた。


「勘違いをしているようだな、ベルンシュタイン嬢」


彼はセレスを「セレス様」ではなく、ただの「嬢」と呼んだ。

それは、明確な拒絶の意思表示だった。


「私が王家を通じて求婚したのは、ベルンシュタイン子爵家の令嬢だ。そして、私の元へ嫁ぎ、今ここにいるのはリナだ」


彼はそこで一度言葉を切り、腕の中のリナを愛おしげに見下ろした。

そして、再びセレスに向き直ると、決定的な言葉を突きつけた。


「したがって、私の妻はリナだ。それ以外の何者でもない」


その言葉に、セレスの顔が驚愕に歪んだ。


「な…何を、おっしゃって…?かのじょは、ただの身代わりで…」

「身代わり?」


アレクシスは、心底馬鹿にしたように鼻で笑った。


「私が求めたのは、心優しく、温かい料理を作り、神獣にさえ愛される、唯一無二の女性だ。それは、最初からリナ、ただ一人だった」


彼の言葉は、セレスだけでなく、リナ自身の心にも深く突き刺さった。

え…?今、なんて…?最初から、私を…?

セレスは、アレクシスの言葉の意味を理解できず、顔を真っ赤にして狼狽した。


「そ、そんなはずはありません!あなたは、美しいと評判の私に求婚したはず!こんな地味な女を選ぶなんて、どうかしているわ!」

「美しい、だと?」


アレクシスは吐き捨てるように言った。


「お前のような、己の欲望のために実の妹を欺き、その幸せを妬んで乗り込んでくるような、心根の醜い女のどこが美しいというのだ。その見目麗しい皮を一枚剥げば、中身は腐った泥のようだ。そんな女が、私の妻の座を語るなど、一万年早い」


アレクシスの容赦のない言葉の刃が、セレスのプライドをズタズタに切り裂いた。

彼女の思い描いていた筋書きは、音を立てて崩れ去った。

美しい自分が、出来損ないの妹に、全ての面で完膚なきまでに敗北した。

その事実が、彼女の理性を吹き飛ばした。


「うそよ!嘘!嘘嘘嘘!あんたが!リナ、あんたが辺境伯様を誑かしたのね!この泥棒猫!」


セレスはヒステリックに叫び、逆上してリナに掴みかかろうとした。

しかし、彼女の指先がリナに触れるよりも早く、アレクシスの腕が彼女の前に立ちはだかった。

そして、彼はセレスの腕を乱暴に掴むと、氷のような声で最後の通告を突きつけた。


「私の妻に指一本でも触れてみろ。その腕ごとへし折って、城の外に放り出してやる。いや、それだけでは生ぬるいな。ベルンシュタイン子爵家当主令嬢が、辺境伯夫人に対して危害を加えようとした。これは、ヴァルデンベルク家に対する明確な反逆行為と見なす。不敬罪で断罪されたくなければ、今すぐ私の領地から立ち去れ」


アレクシスの本気の殺気に、セレスはついに恐怖を覚えた。

彼女は掴まれた腕の痛みに顔を歪め、涙目でアレクシスを見上げたが、そこには一片の慈悲もなかった。

彼女は完全に敗北したのだ。

アレクシスが手を離すと、セレスはへなへなとその場にへたり込んだ。

彼女の供の者たちも、主人の醜態と辺境伯の怒りを前に、青ざめて震えるばかりだった。

アレクシスは近くにいた騎士たちに顎で合図する。


「この者たちを城からつまみ出せ。二度と我が領地の土を踏ませるな」


騎士たちは「はっ!」と力強く応じると、泣き喚くセレスの両脇を抱え、引きずるようにして大広間から連れ出していった。


嵐が過ぎ去った大広間には、静寂が戻った。

リナは、目の前で起こった全ての出来事が信じられず、ただ呆然と立ち尽くしていた。

アレクシスは、そんな彼女に向き直ると、その強張った体を優しく抱きしめた。


「すまない。怖い思いをさせた」


彼の声は、先程までの怒りが嘘のように、穏やかで優しかった。

リナは、アレクシスの胸に顔を埋めながら、彼の言葉を反芻していた。


「私の妻はリナだ」

「最初からリナ、ただ一人だった」


今まで彼が向けてくれていた優しさ、毎日の贈り物、彼女の料理を美味しそうに食べる姿、神獣が懐いた時に呟いた言葉。

それら全てが、身代わりの自分ではなく、リナという個人に向けられていたのだ。

彼の言葉と行動は、何よりも雄弁にその事実を物語っていた。

長年、彼女の心を縛り付けていた「自分は偽物だ」という呪いが、音を立てて砕けていくのを感じた。

リナの心に残っていた最後の迷いや疑念は、この事件によって完全に打ち砕かれた。

彼女は初めて、彼の不器用な優しさの奥にある、深く一途な愛情をはっきりと感じ取った。

そして、この人を信じたい、この人のそばにいたいと、心の底から思うようになった。

リナはアレクシスの背中にそっと腕を回し、小さな声で呟いた。


「…ありがとうございます」


それは、彼女が初めて、自分の意志で彼に触れた瞬間だった。




* * *




セレスが追い返された夜、リナは自室のバルコニーで静かに夜空を見上げていた。

今日の出来事は、まるで夢のように感じられた。

アレクシスが自分を守ってくれたこと、自分を「妻」だと断言してくれたこと。

その一つ一つが、彼女の心に温かい光を灯していた。

しかし、同時に新たな疑問も生まれていた。

「最初から、私を…?」

彼の言葉の真意が分からなかった。

彼はいつ、どこで自分のことを知ったのだろうか。

これまで家族以外とはほとんど交流のなかった自分を、なぜ彼が知っていたのか。

考えていると、背後に人の気配がした。

振り返ると、アレクシスが立っていた。

彼はリナの隣に並ぶと、同じように夜空を見上げた。


「寒くないか?」


彼はぶっきらぼうに言いながら、自分のマントを外してリナの肩にかけた。

その自然な優しさに、リナの胸は高鳴った。

もう彼を怖いとは思わなかった。

むしろ、彼のことをもっと知りたいと強く思っていた。


「あの…辺境伯様」


リナは意を決して口を開いた。


「今日、おっしゃっていたこと…『最初から私を』というのは、どういう意味なのでしょうか?」


彼女の問いに、アレクシスは静かに頷いた。


「…話さなければならないと、思っていた」


彼はリナの手を取り、


「少し、付き合ってくれ。見せたい場所がある」


と言った。

彼の瞳は、これまで見たことがないほど真摯で、リナは黙って頷いた。


アレクシスはリナを連れ、夜の庭園を抜け、城の裏手にある森へと入っていった。

月明かりが木々の間から差し込み、幻想的な小道を作り出している。

リナは、彼がどこへ向かっているのか分からなかったが、繋がれた手の温かさが彼女の不安を取り除いてくれた。

やがて二人は、森の奥深く、ひときわ大きな古い大樹の下にたどり着いた。

そこは、なぜかリナにとって、初めて来た場所なのにどこか懐かしいような、不思議な感覚を覚える場所だった。

アレクシスは、大樹の根元にリナを座らせると、自分もその隣に腰を下ろした。

そして、星空の下、静かに自分の過去を語り始めた。


「今から十数年前、私はここで死にかけていた」


彼の衝撃的な告白に、リナは息をのんだ。

彼は、幼い頃に政敵の陰謀に巻き込まれ、この森で暗殺者に襲われたことを話した。

瀕死の状態で倒れていた彼を、偶然薬草を摘みに来ていた一人の少女が見つけ、助けてくれたこと。

その少女が、自分のスカートを破って手当てをし、持っていたけしの実のパンを分け与えてくれたこと。

人間不信に陥っていた幼いアレクシスの心を、その少女の無垢な優しさが救ってくれたこと。

そして、その時の温もりが、彼の唯一の光になったことを、一言一言噛みしめるように語った。


リナは、彼の話を聞きながら、記憶の断片を手繰り寄せようとしていた。

けしの実のパン。森。怪我をした少年。

そうだ、そんなことがあったような気がする。

母に言われて薬草を摘みに行った日、森で泣いている男の子を見つけて、持っていたおやつをあげた。

服が汚れたことをひどく叱られた記憶。

それは、彼女の辛い子供時代の記憶の中に埋もれて、すっかり忘れてしまっていた、ほんの些細な出来事だった。


「…あの時の少年が、あなただったのですか?」


リナが震える声で尋ねると、アレクシスは力強く頷いた。


「そうだ。あの日以来、私はずっと君を探し続けていた。君の名前も知らなかったが、君の優しい瞳と、パンの温かさだけは、決して忘れなかった」


彼はさらに続けた。

何年もかけてようやく彼女がベルンシュタイン子爵家の次女であることを突き止めたこと。

しかし、彼女が家族に虐げられていると知り、正攻法では彼女を救えないと判断したこと。

そこで、あえて美しいと評判の姉セレスに求婚し、子爵家がリナを身代わりとして差し出すように仕向けたこと。

全ては、リナをあの家から完全に引き離し、自分の手で守るための、彼の壮大な計画だったのだと。


「私が欲しかったのは、美しいと評判の子爵令嬢ではない。あの日、絶望の中にいた私を救ってくれた、心優しい君、リナだけだ。君を手に入れるためなら、どんな手段も厭わなかった。卑怯だと罵ってくれても構わない」


彼の真摯な告白に、リナの目からは堰を切ったように涙が溢れ出した。

これまでの全ての出来事が、一つの線で繋がった。

彼が贈ってくれた数々の贈り物も、彼女の料理を望んだことも、彼女にだけ懐いた神獣を見て「やはり」と言ったことも、全てこの遠い日の約束から始まっていたのだ。

自分は偽物などではなかった。

彼が最初から求めていた、たった一人の本物だったのだ。


「そんな…そんなふうに、ずっと私のことを…」


リナは涙で言葉にならなかった。

長年の孤独、自己否定、無価値だと思い込まされてきた自分の人生が、この瞬間に全て塗り替えられていく。

自分は、ずっと前から、この人に愛されていたのだ。

アレクシスは、そんなリナを優しく引き寄せ、その涙を指で拭った。


「すまなかった。君が過去を覚えていないと知って、どう伝えればいいのか分からなかった。君を怯えさせ、辛い思いをさせた」


彼はリナの額に、そっと自分の額を合わせた。


「リナ。もう誰かの身代わりになる必要はない。君は、君のままでいい。私の、たった一人の妻として、これからは私の隣で笑っていてほしい」


彼の言葉が、リナの心の奥深くまで染み渡る。

彼女は、アレクシスの胸に顔を埋め、子供のように声を上げて泣いた。

それは悲しみの涙ではなかった。

長年の孤独と悲しみが全て洗い流されていく、喜びと安堵の涙だった。

アレクシスは、そんな彼女の背中をただ黙って優しく撫で続けていた。

森の古い大樹の下で、十数年の時を経て、二人の心はようやく完全に一つになった。




* * *




真実が明かされた翌日から、リナの世界は色鮮やかに変わった。

アレクシスの隣にいることが、もう怖くはなかった。

彼の無口や不器用な表情が、深い愛情の裏返しであることを知った今、その全てが愛おしく感じられた。

彼女はもう、姉の身代わりを演じることをやめた。

ありのままの自分で、穏やかに微笑み、アレクシスと話をするようになった。

そんな彼女の変化を、アレクシスは誰よりも喜び、その表情は以前よりも格段に柔らかくなった。

城の使用人たちは、氷のようだった主君が、春の陽だまりのような笑顔を見せるようになったことに驚き、その理由であるリナに、さらなる敬愛の念を抱いた。


ある日、アレクシスはリナに一つの提案をした。


「リナ。君はもう、誰かの身代わりではない。それを、この領地の者たち、そして世界に示すためにも、改めて私たちの結婚式を挙げたい」。


それは、ベルンシュタイン家から送られてきた「偽りの花嫁」ではなく、ヴァルデンベルク辺境伯が心から愛し、選んだ「本物の妻」として、リナを正式に迎え入れるための儀式だった。

リナは、頬を染めながらも、彼の提案を涙ぐむほどの喜びで受け入れた。


結婚式の準備は、城を挙げて進められた。

領民たちも、自分たちの敬愛する「神獣に選ばれし奥様」の正式な結婚式を、我がことのように喜んだ。

リナは、領地で採れた花を飾り付けに使いたいと提案し、自ら領民たちと交流しながら準備に参加した。

虐げられていた頃には考えられなかった、人々と笑い合い、協力して一つのものを作り上げる喜びに、彼女の心は満たされていった。


式のために、アレクシスは最高の職人たちを呼び寄せ、リナのためだけのウェディングドレスを作らせた。

それは、夜空の星々を全て集めて織り上げたかのような、美しい瑠璃色の絹地に、ダイヤモンドダストのように銀糸の刺繍が施された、息をのむほど美しいドレスだった。

リナがそのドレスに袖を通した姿を見たアレクシスは、言葉を失い、ただ愛おしそうに彼女を見つめるだけだった。


結婚式は、ヴァルデンベルク領で最も美しいとされている、鏡のように澄んだ湖のほとりで執り行われることになった。

それは、閉鎖的な城の中ではなく、領民全員が二人を祝福できる、開かれた場所だった。

式の当日、湖畔には数えきれないほどの領民たちが集まり、二人の門出を今か今かと待ちわびていた。


青空の下、湖から吹く穏やかな風が、花々の香りを運んでくる。

アレクシスにエスコートされ、リナがバージンロードを歩き始めると、集まった領民たちから大きな歓声と祝福の拍手が沸き起こった。

リナは、もう俯いてはいなかった。

彼女はまっすぐに前を向き、祝福してくれる一人ひとりの顔を見ながら、幸せを噛みしめるように微笑んだ。


祭壇の前に立ったアレクシスは、リナの手を取り、集まった全ての人々に聞こえるように、力強く宣言した。


「私は、アレクシス・フォン・ヴァルデンベルク。ここにいるリナを、生涯唯一の妻とし、いかなる時も彼女を愛し、敬い、守り抜くことを、この地の神々と、ここにいる全ての者たちの前で誓う」。


彼の真摯な誓いの言葉に、リナは胸がいっぱいになった。


次に、リナが誓いの言葉を述べる番になった。

彼女はアレクシスの瞳をまっすぐに見つめ、凛とした声で言った。


「私も、リナ・フォン・ヴァルデンベルク。あなたの妻として、この愛すべき辺境の地で、あなたと共に生き、あなたを支え、生涯愛し続けることを誓います」。


その言葉には、もはや一片の迷いもなかった。

彼女は、自分の居場所を見つけたのだ。

二人が誓いの口づけを交わした、その瞬間だった。

空高くから、雄大な鳴き声が響き渡った。

見上げると、神獣グリフォンのシルヴァーンが、二人の頭上で大きく翼を広げ、祝福するように輪を描いて飛んでいた。

その神々しい姿に、領民たちはどよめき、神の祝福だとひざまずく者さえいた。


氷の辺境伯と身代わりの花嫁の物語は、ここで終わりを告げた。

これからは、深く愛し合う夫婦として、辺境の地に幸せの花を咲かせていく、新しい物語が始まる。


結婚式の後の祝宴で、アレクシスはリナの耳元で囁いた。


「愛している、リナ。私の光になってくれて、ありがとう」。


リナもまた、最高の笑顔で答えた。


「私もです、アレクシス。あなたが見つけてくれて、本当に幸せです」。


かつて姉の影として生きていた孤独な少女は、今や一途な愛に包まれ、多くの人々に愛される慈愛深い辺境伯夫人となった。

彼女の温かい心は、凍てついていた辺境伯の心だけでなく、北の厳しくも美しい土地そのものに、温かい春をもたらすだろう。

二人の未来は、どこまでも続くヴァルデンベルクの青空のように、明るく、輝かしいものとなったのだった。

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