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ツイノベ記録 日焼け止めの誘惑


「だから日焼け止めを塗れって言っただろ。朝イチで用意してたのに、嫌がったのは誰だっけ?」

「だって……」


「だっても何もないだろ。オレを見てみろ、同じ場所にいたのに赤くなってないんだぞ?」

「むうぅうぅ」


 マヒルは得意げな顔をしてソファーに腰掛け、私に向かって意地悪な笑みを浮かべた。

 いつものように、顔の横で手のひらをくるくると動かして挑発している。




 私達は近県の海水浴場から帰ったばかり。ハンター協会の人間として、海岸沿いに現れるワンダラー対策の教育研修に行っていたのだ。海開きの時期も迫っているし、ここ最近はとても気温が高いからたくさんの観光客が訪れる事だろう。

 

 ハイシーズンになれば人が集まる観光地があり、そこで働く人たちや警察と連携してハンター協会は監査と対策を行うのが常だ。

 

 ……ちなみに、『私[[rb:た > ・]][[rb:ち > ・]]』と言うのは間違いじゃない。



  

 せっかく海に行くんだから、もしかしたら泳げるかも?なんて不埒な期待を込めて水着をボストンバッグに詰めたのは昨日のこと。

 研修が思っていたよりずっと早く終わり『せっかくだから』なんてお決まりのセリフを吐いて、モモコ達と海辺に行って。去年買って、結局忙しさに負けて着なかった可愛い水着をお披露目する――はずが、カバンから忽然と消えていた対象物。


 最終的な結果だけを見れば、マヒルが何故か届け物をしに海にやってきた……というおかしな事実だけが残った。




 モモコにも同僚達にもニヤニヤされながら『仲良しのお二人でどうぞ』なんて言われて、突然現れた当の本人は『やっぱりモモコさんとはこれからも親しくするべきだな、いい人だ』なんて言っていた。

 

 まぁね、確かにね、あの子の占いはドンピシャで当たってしまったわけだけど。年末年始の占いは今後忘れられない思い出になってしまった。





「ほら、冷却ジェルを塗ってやるからこっち来い」

「ヤダ」

 

「ヒリヒリして痛いんじゃないのか?」

「痛い」

 

「なら、早く観念して治療されてくれ」

「……………………」



 マヒルの満開の笑顔が殊更憎く思える。そもそも日焼け止めを塗ると言った人の手つきが怪しいから、私は日焼けをする羽目になったのに。

 それに水着は絶対カバンに入れていたはずで、マヒルが持ってきた競泳用の水着よりずっと可愛いデザインだった。しかもUVカットのパーカーを着せられて、暑いし開放感はないし、ちっとも楽しくなかった。


 日焼け止めを塗らないならフードをかぶれ、と言われてもさまざまなモヤモヤを晴らすために[[rb:無 > ・]][[rb:駄 > ・]][[rb:な > ・]][[rb:抵 > ・]][[rb:抗 > ・]]を試みた私はひどい火傷を負うことになった。

 

 ぜーんぶマヒルのせいに決まってるのになんで笑ってるの。



 無言のまま見つめ合って睨みをきかせていると、いつもシャキッとしてる眉尻と肩が下がっていく。

 哀愁を漂わせ、上目遣いで見上げられた。……だ、ダメ。この顔に騙されてはいけない。いつもこうやってちゃんと謝らないまま有耶無耶になっちゃうんだから。

そのせいで毎晩泣く羽目になっている事は間違いない。





「日焼けの痕が残っちまうだろ?痛い思いをしてるのも嫌だ」

「誰のせいだと思ってるの」

「オレのせいだ、ごめん」

「……えっ?」 


 思わぬ言葉に驚き、固まってしまった。まともに上目遣いの目線に捉えられてしまう。

 『きらきらうるうる』とでも音がしそうな澄んだ眼差しは、間違いなく最上の武器と言えるだろう。




「あんな可愛い水着、オレのいない所で着たらナンパされるだろ」

「だから隠したの?」

 

「あぁ。それに、オレをおいて海に行くなんて酷くないか?せっかく恋人になれたのに」

「それは確かにそうだけど。でも、下見というかなんと言うか」


「じゃあ、次は2人で車に乗って行こう。電車じゃ体が休まらないだろ?」

「まぁ、うん。そうだね」


 早々に上目遣いをやめたマヒルを睨む気力もなく、怒りがおさまってしまっては仕方ない。大人しくソファーに向かうと長い足の間をポン、と叩かれた。


「指定席だ。お前だけの専用シートにどうぞ」

「はぁ……」


 


 渋々そこに座ると、背後から腕が回って私の体は専用シートに固定される。肩の上に顎が乗せられて、首筋に柔らかなほおが触れた。

 熱を持った肌にはひんやりしたそれが気持ちいい。


 

「ヤキモチ妬いてごめんな」

「ううん、マヒルがパーカー持ってきてくれたから助かったし、いいよ」

 

「…………お前は、もう少しオレの言葉を真面目に聞いたほうがいいと思う。簡単に許すなって言ったはずなのに、また忘れたのか?」


「え?なに……?ひゃっ!?」



 

 彼の舌先がヒリヒリする皮膚を滑り、チュッと音を立てて唇が触れる。痛みとくすぐったさに身をよじっても、専用シートの拘束具は解けてくれなかった。


「いつもより敏感だな。肌がこんなに熱くなってる。しっかり冷やさないといけないから、ベッドに行こう。見えないところが焼けてるかもしれない」

「そんなわけないでしょ!ちょ……離して!」

 

「オレが着替えているうちにナンパされてたことを忘れてないぞ。さっさと断ればいいのに、そうしなかったよな」

 

「地元の人だって言うからだよ!〝研修でわからなかったところがある〟って言ってたの!」


「そう言うことならオレが来るまで待ってればよかっただけだ。その口上が本物ならな。最初からこうすればよかった」

「痛っ!マヒル、何してるの!?」



 ちくりとした痛みが広がって、それが何度も繰り返される。もしかしてキスマーク?そんなところにつけたら……。

 

「見える場所につければ男除けになる。今日はしっかり傾向と対策を教えてやるから忘れるなよ?あと、オレのものだって印をたくさんつけないとならなくなった」

 

「きゃあっ!?は、離して……マヒル!!」

「離さない。今日は朝まで研修だ、教官の言うことを聞いてくれ」




 いつの間にか語尾に怒気を含ませた彼に抱えられて、私の抵抗もむなしく寝室のドアを潜るのだった。

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