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寄り添うだけの幸せ

モブ子視点です


自棄になって告白して学校のアイドル、マヒル君にまさかのOKをもらってしまった。

彼は学年一の頭脳を持ち、バスケ部のエース、運動部からは毎日スカウトを受け、助っ人によく呼ばれている。

卒業式で私はピアノを弾いて、彼は答辞を読む係。

接点は同じクラスだと言うことと、式のリハーサルしかない


 彼女だと公言したらいじめられるかもしれない、デートしたらバレて嫌な目にあうかもなんて言われて。登下校はおろか、学校の中でさえ目を合わせる事がない私たち。果たして彼氏彼女と言えるのかは分からない。

ただ、ひと月に数回だけ私達は帰り道にある公園に行く。隣り合ったブランコに座り、会話もなくただ静かに数分一緒にいて、夕暮れと共に別れる。

それだけが特別な関係だった。

それももうすぐ終わりを告げる。きっと、別れの言葉もないままに。

私は最初から不相応な夢のかけらを握りしめていただけだ。だから、もう覚悟はできている。

卒業式の歌の伴奏よりも、マヒル君の答辞で弾くBGM練習に力を入れた。

私の思いを全て込めるつもりで。メインの歌がないからわからないだろうし、この歌自体を知って居る人は少ないけれど......きっと彼は知っている。

誰よりも勤勉で、誰よりも色んなことを知っていて、心の中にこの曲の意味を抱えて居るから。


 それを知ってるのは私だけ。あの公園で、オレンジ色の夕日の中でポツリと溢された『最近、家に帰るのが怖いんだ、自分が怖い』と言う一言。

私はあの日、最初から告白の意味などなかったと知った。


彼の中にはずっと彼女がいる。だから、私のように何も欲しがらない人間を一時でも傍に置いたのだと。


 卒業式のあと誘われたカラオケに行く気にもならず、一人で思い出の公園に行きブランコに腰掛ける。

隣は空いたままだ。


──ふと、遠くから声が聞こえた。


「うわ...マヒル、ワイシャツのボタンまで無くなってる」

「むしり取られたんだよ、あっという間に。凄い勢いだった」

「じゃあ、第二ボタンをゲットした子はすごいね」

「それはあらかじめ外しておいたから無事だ」


「えっ?どうして?」


「あげたい人がいるんだ」

「ふーん?」

「誰だか気にならないのか?」

「別に、」


マヒル君と、妹さんの声だ。私は硬直したまま二人の会話に耳をそば立てる。


「て言うか、渡したい人がいるなら、なんで式の後渡してこなかったの?」

「本人に欲しがってもらってないから」


「えー?学校一おモテになるマヒルの第二ボタンが欲しくない人なんて、いないでしょ?」

「わからないぞ。オレには聞く勇気がないからな、まだ」

「ふーん?ふーん......どうして?」


「これをその人に渡せるとしても当分先になる。もしかしたら一生渡すことはないのかもしれない」

「なにそれ?モテモテなのに?」


「たった一人の人に振り向いてもらえないんじゃ意味ないだろ」

「だったら告白すればいいんじゃない?」


「......そう、思うか?」


 二人の声が遠ざかっていく。


私はブランコから飛び降りて、鎖が揺れてぶつかる音を聞きながら音を立てないように歩き出した。


マヒル君、あなたの第二ボタンは行き先がある。大丈夫だよ。


最初から交わらなかった私たちの未来の行き先は、この先交わることはない。

その道を、私は一人で歩くんだ。


 この公園での静かな時間と、私の伴奏を聴いて.....あんなに上手だった答辞の朗読が、ほんの一瞬だけ乱れたあの瞬間。


私はもう振り向かないって決めたから。


私の頰に伝う涙と共に...あなたの背中をずっと見つめていた、青い春の日を胸に閉じ込めたから。


答辞の伴奏曲:石川啄木『初恋』

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