鼠達の生存戦略
我々は、地下へと逃げるしかなかった。
太陽の暖かさを。恵みの雨を。豊かな大地を。偉大な海を捨てて。
躊躇えば、殺される。
必死の抵抗は空しく、弱肉強食の摂理に倣い、我々は弱者となった。
もはや、地上に我々の居場所は無い。
どのように逃げたのか。
それは記録‐アカシックレコード‐に“残されていない“。
先祖達は、必死になって穴を掘り続けたそうだ。
掘って掘って。下に逃げて生き延びる可能性に賭けた。
過酷な世界。暗く、狭く、息苦しい地下の世界で生き抜くために、
我々は苦渋の選択をした。
間引き。生き残りの数を減らし、「強者」の遺伝子を残すために、
各個別に地位‐ステータス‐が割り振られた。
地位‐ステータス‐は、レベルという名前で10段階で割り振られる。
それらはヒエラルキー構造となっており、レベルの高いものが地下で生き残る権利を得る。
レベルは両親の地位やポテンシャルを考慮され、生まれた直後に定められる。
レベル10。地下世界に1人。エンペラーと呼ばれる、我らのリーダーである。
レベル9。地下世界に4人。エンペラーを支える四天王である。
レベル5から8。貴族層であり、地下世界で優遇された生活を送る事ができる。
レベル3から4。市民層であり、仕事を割り振られ管理される層である。
レベル2。奴隷層と呼ばれ、生涯、強制労働を言い渡される。
そしてレベル1。この世界における最も弱い者。
地上との戦争の最前線に送られる。兵士…というにもおこがましい。
肉壁として、地下への侵入を許さないよう、命を投げ出す運命を強いられる。
そして、このレベル1こそ、最も人口の多い層だ。
レベル1に割り振られると高確率で10年以上生きる事はできない。
地下という閉塞空間で生きられる時間はもともと短い上、
8歳を超えると戦線に送られ、99%は生き残る事ができない。
「大体、おかしいよな。記録‐アカシックレコード‐に人生を決められるなんてよ。」
「理不尽って言葉、知ってるか?」
「なんだよ、それ。というかちゃんと働けよ。飯抜きにされるぞ。」
「良いから聞けって。この間、発掘された地下遺跡のニュースがあったろ?」
「そこで、地上の連中が残したらしい遺物が発見されたってさ。」
「遺物?」
「ああ。書物だったらしいが、地上文明の知識が書き留められてたんだと。」
「理不尽っていうのは、俺らのような事を言うらしいぜ。理不尽。」
「いいよどうでも。気が沈むだけだし、地上の事なんて考えたくもない。」
レベル2である奴隷層の仕事は、主に発掘と、居住区の拡充。食物の確保である。
穴を掘り進め、資材を運ぶ。肉体労働を言い渡される事が多い。
片手間に雑談をしつつ仕事を続ける2人の男は、
泥だらけになった手で額をぬぐいつつ話を続ける。
「……それより、“例の計画“はどこまで進んでるんだ?」
「もう俺、来月には“地上行き“になっちまうぞ。」
「大丈夫、予定通りやろう。」
「絶対成功させるさ。」
「……おう。」
堅い土壁を掘る乾いた音が反響する。
物語は2人の男が反抗の意思を持ち、とある計画を実行する所から始まる。