満身創痍の戦い
天水晴那 AP2400 VS 福山美祿 AP2200
「APは互角だが、アドバンテージはまだこちらの方が有利だ! 美祿、絶対に油断するなよ!」
「うん! 最後までがんばるよ! あたしのターン、ドロー!」
盤面から状況が優勢であることをリユから告げながら、美祿がドローしてターンを迎える。
「あたしはミュージックカード〈空っぽタンク+ラブ色注入〉を発動!」
シューズによる装填から始まる殲滅コンボが披露されるかと思いきや、美祿はたった今手札に加わった一枚を先に読み込ませる。
ハートの形をかした空っぽの容器に、注射器で透き通ったピンク色の液体を注入しているジャケットイラストのミュージックカードだ。
「ランドリーにおかれた色の異なるコスチュームカードをデッキに戻してシャッフル。その後で、戻した色の数が三色につき、一枚ドローできる!」
その効果によって、美祿はランドリーの中から〈ピーチピンクトップス〉と〈イエローエールスカートスカート〉、青色の〈ツインカラーペンシルシューズ〉の三枚をデッキに戻し、新しく一枚ドローする。これで美祿の手札が再び二枚になる。
「三色もデッキに戻れば十分だ!」
「うん! 改めてあたしは〈フルカラースプレッドシューズ〉の効果発動! デッキから〈イエローエールスカート〉をAP0にして、〈マイトレイルワンピ〉にアンダーコーデ!」
発動したシューズの効果によって、美祿の前に透明になった等身大のカードが出現し、まるで吸い込まれるように美祿へと近づきながら消えてゆく。
まさにコスチュームが憑依したと表現すべきか、衣装がとりついた途端に〈マイトレイルワンピ〉の胸にある宝玉型のコアが胎動し、エネルギーを溜めるべく背後の翼部パーツを動かした。
「ブッパがくるぞ! ブッパ!」
「わかってる! アクシデント発生! 〈脱甲皮剥離〉! コスチューム一着を対象に〈RDティアーズ シェルベッコ・チャーム・トークン〉をつける!」
チャージが始まる前に、私は伏せていた迎撃用カードのうち一枚を起こす。
直接的な妨害効果ではないが、今は相手ターン中にでもチャームがつけられるだけで十分だ。
「ターンが切り替わったことで、〈モノクローム・ジャミング〉の効果は切れた! 私のコスチューム効果も元に戻ったことで、〈ヴァルナーガジャケット〉のフルコーデ効果も復活する!」
その証として、美祿の胸にやっと鼈甲のチャームがぶら下げられ、効果まで帯びているといわんばかりに赤黒く禍々しいオーラを放っている。
そんな呪いだと言わんばかりのオーラを放っているチャームを押しつけられては、流石のワンピも大人しくなる――かと思われたが、何故かワンピは効果を失われて色褪せるどころか、お構いなしにチャージを開始した。
「効果の発動が始まった……まさか!」
全てを滅ぼす光の翼の拡張が止まらない様を見て不思議に思っていたビャコが、何かを察して声をあげた。
「〈ヴァルナーガジャケット〉のフルコーデ効果! 私がこのジャケットを含めてヴァルナーガシリーズをフルコーデで着ている限り、新たに〈シェルベッコ・チャーム〉をつけられたコスチュームは、効果を発動させることができな――」
「ダメだ! 浸透が間にあわねぇ!」
呪文の詠唱の様に効果の発動を告げている私の声を遮るように、ビャコの叫びが耳朶に触れたとき、私はほんの一瞬だけ口を噤むほど硬直した。
「アサルト・アイオン!」
美祿の叫びとともに、チャージを終わらせた〈マイトレイルワンピ〉が、私の反撃などこそばゆいとあざ笑うかのようにエネルギーの乱れうちによる一掃を始めた。
「――きゃあッ!」
「――うわああッ!」
思わず交差した腕で身を守るも適わず、波動の直撃を受けた私の体からジャケット、スカートを守護していたチャームが消え、お守りを失ったスカートが霧散し、最後に押し寄せる衝撃の波によって体そのものが吹き飛ばさた。
その一撃は信じられないことに一般女子高生の体を浮かすほど凄まじく、壁に叩きつけられてから落ちた私を下で受け止めたのは、パイプ椅子の群だった。
二度目の衝撃では流石に耐えきれる体力がなかったのか、私の後で美祿からも悲鳴も聞こえたかと思ったら、同様に反対側の壁に叩き付けられていた。
「晴那! 美祿ちゃん! 大丈夫か!」
「……ッ!」
お互いに背中から受けた衝突によってかなり痛いダメージが入り、まともに立てなくなっている。
私にいたっては、パイプ椅子の群に受け止められて全身に余計な打撲まで受ける始末。
「フフ、アクシデント発動のタイミングを間違えたようだな。前のターンで効果を封じられたことで、焦ってミスプレイをするとは」
心配して呼びかける草薙さんと、唇を噛み締めるほど身を乗り出すか迷っている勇作Pとは反対に、幸神Pは既にプロデューサーとしてではなくブランドデザイナーとして、恐ろしいほど冷静のまま私たちの有様を眺め、〈ヴァルナーガジャケット〉の効果を受けても〈マイトレイルワンピ〉が効果を発動し続けられたかの分析をしていた。
「勝ち誇っている場合か、総一郎! 勇作も! もう止めさせろ!」
カードゲームの域を越えて実体に傷を負う私達を案じた草薙さんの怒号が、若手二人に飛ぶ。
「もう練習試合や性能テストも十分だろ! これ以上続けると、二人とも本当にボロボロになるぞ! こんなところで大けがでも負わされたら、アルカナカップどころじゃなくなるぞ!」
その一喝に勇作Pは目が覚めたのか、私の元へ向かうべく駆け出そうとした。
しかし、一歩踏み出したところで幸神Pが腕をのばして遮った。
「す、すみ――晴那! 大丈夫か! しっかりしろぉ!」
慌てて呼び間違えそうになるビャコがいつも以上にスキャナーから騒がしく心配の声を叫ぶ。
本名で呼ぶなと、突っ込む余裕などない。
落ちた拍子に手足に絡まったパイプ椅子の群から抜け出し、支えが欲しそうなほどフラつく両脚に無理矢理言うことを効かせて立ち上がる。
「お、おい! 美祿! 無茶するな! ダメならダメってちゃんというんだぞ!」
同じく心配するリユが降参を促そうとするも、美祿は答えず、ちょっとでも押されたらまた倒れそうになるほどフラフラになりながらも、再び立ち上がろうとしていた。
「アサルト……アイオンを発動させた……後で〈マイトレイルワンピ〉の……さらなる効果を……発動ッ!」
背中への強打のせいで吐き出す言葉が途切れ途切れになるほど苦痛で険しくなっていた顔から、真剣な面持ちになってスキャナーを構え直した美祿がゲームを続行させる。
「コストにした〈イエローエールスカート〉の元々のAPの半分だけ、相手のAPを下げる!」
無理矢理だが息と体勢の調子が元に戻った着主の気合いに反応したのか、効果の発動を命じられたワンピが改まって胸部のコアに光が灯らせる。
輝くコアの両側に掌が添えられると、両手の間に同じ深緑色の光弾を生み出してゆく。
「破轟の! ボルテクストリームッ!」
両掌から放たれる必殺技の如く美祿が光弾を放ち、球体だった緑色のエネルギーが一本の槍となって、身動きがとれなくなった私を目指して真っ直ぐに向かってくる。
元々のAP800のコスチュームをコストにしたことで、こちらが直接受けるダメージは半分の400。
こちらは〈洗濯忍法 泡蝉の術〉によってあと一ターンだけ無敵効果がついたシューズのおかげで全裸は免れたが、それ以外はきていない無防備の状態。
そこで受ける直接400ダウンはゲーム的にも痛い上に、きっと肉体的にもさらに痛い一撃になるのは目に見えていた。
「は、はは、ははは、晴那ちゃんよ!」
「――ッ! わかってる!」
明らかに食らうとやばいビームが迫る寸前に、私は手札の一枚を掴んでビャコに飲み込ませる。
こっちのカード効果の発動だけは間に合ってくれと願いながら。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
「面白かった!」
「続きが気になる!」
「いいから早く決闘しろよ」
と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。
また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、
思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。
あとブックマークもいただけるとうれしいです。
細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!




