爆光の王衣〈マイトレイルワンピ〉
「まだまだ! これからだよ!」
未だにプリズムストリームを通じて、そのコスチュームの威圧感が肌にまで伝わってくるおぞましさを放っている一方で、肝心の着主は恐ろしいほどケロリとしたまま、次のカードをスキャナーに読み込ませた。
「〈グラフィティーキャンバス トップコートファスルネイル〉をコーデ!」
唯一空いている場に乗せたのは、アクセサリーのカテゴリーだが、服や髪ではなく爪に直接つけるメイク系のカードだった。
「コーデされたこのカードを退場させることで、自分の着ている2色以上の色を持つコスチュームはAPが150ポイントアップし、どんな効果でもランドリーに送られなくなる! あたしは〈フルカラースプレッドシューズ〉を対象に、この効果を使う!」
「なんでシューズの方にそれを使うんだ?」
それよりも問題は、そのカードの対象となるのは、複数の色を持つコスチュームに限られる。
とはいえ、その完全防御効果を今し方呼び出したワンピではなくシューズの方にわざわざ付与させるのかにビャコ共々疑問が浮かんだ。
「さらに! 〈フルカラースプレッドシューズ〉の効果! 一ターンに一度、デッキからこの場にない色を持つコスチュームを、着ているコスチュームにアンダーとして追加コーデする!」
「でも、その効果でアンダーとなったコスチュームのAPは0! APの底上げにはならない!」
「もちろん、その通りだよ! でも、あたしは〈ミトロニオス マイトレイルワンピ〉にAP0になった緑色の〈スパーキンググリーンスカート〉をアンダーとして追加コーデする!」
〈グラフィティーキャンバス〉の効果対象にしたのは、シナジーがないはずの〈ミトロニオス〉という別ブランド。
本来は色を追加するためだけの効果のはずなのに、AP0なのを承知の上でアンダーとして出すなんて。
実体化されただけ衣装の虚像だけではわかりづらいが、盤面ではシューズの効果で確かに〈マイトレイルワンピ〉の下に、〈スカークンググリーンスカート〉が重ねられた。だが、繰り返すようだがそれによって得るAPは効果によって0のまま。
シューズの効果処理が終わり、呼び出されたスカートはアンダーウェアとなって、ワンピの下で落ち着いていた。
そんな時、どこからかチリチリもしくはピシピシという、何かが小刻みに弾けるような音が聞こえてきた。
電気殺虫器の網にふれた羽虫の焼ける音にも似たその音は、よく耳を澄ませると美祿の着ている〈マイトレイルワンピ〉の背部から生えた翼部パーツから聞こえてきた。
「な、なんだ?」「なんの音?」
デザインの一部なのだろうが、わざわざ背中に取り付けられた無限型の装置が何のためにつけられて、どういう目的のために光が翼のように噴射させている機関を備えてのはわからない。
身も蓋もないことを言うなら、全ては所詮プリズムストリームによる演出とそれを表現するための飾りでしかないこと。
だが、一つだけ理解できたのは、美祿が切り札として召喚したこの〈マイトレイルワンピ〉が、今まさに機動しようとしていることだ。
「〈ミトロニオス マイトレイルワンピ〉の効果発動! ワンピに別の衣装がアンダーコーデされた時、そのカードをランドリーに送ることで、〈マイトレイルワンピ〉以外の全てのコスチュームをランドリーに送る!」
「なにッ!」
翼型の装置に再び翼になるまで光が宿り、翼の面積が唸り続ける稼働音に応じてだんだん広くなってゆく。
「アサルト・アイオン!」
美祿が効果名を叫ぶと、突然稼働音が止み、光の翼もぱったりと消えて一瞬の沈黙と暗転が訪れる。
何が起きたのか私が一瞬だけ警戒に首を少しだけ動かした刹那、〈マイトレイルワンピ〉の背中から、ぶっ壊れた水道よりも勢いが凄まじい光波が狭いスタジオ中に放出された。
全てを破壊してランドリー送りにする殲滅効果。
その攻撃の嵐は対峙する二人のアイドルだけに及ぶはずだが、〈マイトレイルワンピ〉は狙いを定めず、ただ目に付いた自分以外の衣装を消さんばかりに光波を無限に放ちまくる。
「演出だけで、この威力! こいつは相当のジャジャ馬だな!」
「幸神! どういう設計をしたんだ!」
「くッ! どうやらカード化する際に出力設定を間違えたようだ!」
実際に食らっても痛みはないのだろうが、コーデされただけで風圧を放てる〈マイトレイルワンピ〉がその程度の演出だけで終わらせるわけがなく、暴れることを楽しむように、演出を現実にさせるが如く嬉々として衝撃波をぶっ放し、傍観しているプロデューサー達にまで被害が及ぶ。
「ふっ! くぅううううッ!」
「ふ、ふんばれ美祿! コスチュームに体もってかれるなよ!」
流石にこれほどの勢いを放出しては着主に影響がでないわけがなく、美祿は衝撃波まで出せる衣装にか細い体が吹き飛ばされそうになるのをぐっとこらえていた。
「うぉああああ! 晴那ぁ!」
「わかってる! アクシデント発生〈グレート・バリア・リリーフ〉!」
目を閉してしまうほどの閃光と、放たれる衝撃波に身を竦ませながらも、私はなんとか伏せていた一枚のカードをたたき起こす。
「自分の着ている〈RDティアーズ〉ブランドコスチュームのAPを半分にすることで、自分の着ているコスチュームは全てランドリーにおくられない! 私は〈ヴァルナーガコーラルワンピ〉のAPを半分にする!」
本来なら目の前に水の壁が聳えて相手からの効果を受け止める演出がされるはずだが、プリズムストリームが全て〈マイトレイルワンピ〉に持って行かれてるのか、乱れ撃つ光弾を受けても自分の衣装が脱がされないだけの演出に収まった。
狙うべき破壊対象がなくなったことで、〈マイトレイルワンピ〉は興を削がれたかのように一掃を止めて、急に服らしくおとなしくなった。
「なるほど、あの小娘がわざわざシューズの方を優先して防御効果をつけたわけだ」
「相手の効果どころか、あのワンピの持つ驚異的な一掃効果から逃れつつ、次のターンに再度シューズ自身の効果で、起動となるアンダーコスチュームをコーデすれば、もう一度相手側のみの一掃ができる」
「まさに装填から発射まで潤滑に運べる無限コンボ。あの小娘、最初からこれを狙ってたってわけか?」
「合格通知出しといて良かったわ」
実際に損傷がないといえば、あれほどの衝撃を打ちまくっていたとはいえ、結局はただの演出でしかなく、舞台であるスタジオ自体には弾痕どころか一切の破損は見受けられなかった。
「だが、こっちのワンピはAPが下げられたが、衣装は全て無事だぜ!」
「甘いな、ビャコ。総一郎が作ったコスチュームがこの程度で終わるわけがないだろ!」
耐えきったことで余裕を見せるビャコに、リユがさらに勝ち誇ったように反駁する。
「〈マイトレイルワンピ〉のさらなる効果! アサルト・アイオンを発動した後、発動のためにランドリーに送ったアンダーコスチュームが元々持つAPの半分の数値だけ、相手のAPを直接下げる!」
「――ッ!」
「なにぇ!」
「コストにして送った〈スパーキンググリーンスカート〉の本来のAPは800だから、下がる数値は半分の400!」
翼の次は胸部の宝玉が動きだし、こちらも相手をブン殴るために引き絞った拳の如く、不吉な稼働音を唸らせてエネルギーのチャージを始めていた。
「美祿! 思いっきりぶちかませ!」
「いっけぇ! 破轟のボルテクストリーム!」
美祿の口から無邪気に叫ばれた技名に呼応して、〈マイトレイルワンピ〉の胸部に備わった宝玉から深緑色の光波が放たれた。
「これを受けるとリカバリーが厳しいぞ」
「どう対処する? 晴那!」
草薙さんの言うとおり、この状況でプレイヤー自身のAPダウンはリカバリーが難しい。
しかも、相手はそれを自分の番がくる度に繰り返せるため、連続で被弾すると巻き返すのが難しくなる。
「アクシデント発生! 〈美容効能マリンコラーゲン〉!」
襲いかかる深緑の一撃が迫る寸前に私は急ぎ伏せていた最後の一枚を起こした。
盾としてそびえ立ったカードには、美容効能がある海洋生物であるクラゲを原料にした化粧水のイラストが描かれたアクシデントカードだ。
「〈RDティアーズ〉ブランドのコスチュームを一着脱ぎ捨てることで、自身のAPを今着ている〈RDティアーズ〉一着につき200ポイントアップする!」
「素材にした〈シェルベッコ・チャーム〉をのぞいたら現状二着! つまり400ポイントアップ! これで食らっても相殺だ!」
この効果によって若干私のお肌に本当に潤いが与えられて艶々になったが、その直後に相手の効果による一撃を全身で受ける事実まではなかったことにならなかった。
普通に歩いている最中に、誤って壁の角に思わずぶつかったような鈍い痛みが胸に走る。
食らったのは胸だが、今の一撃のせいで過剰に乗ったAPが消され、せっかくの美容効果が切れた。
「す、すごい! 〈マイトレイルワンピ〉の効果が全て凌がれちゃった……」
「感心している場合かよ! APがさっきよりも下がったとはいえ、相手はほぼ無傷だぞ!」
「わ、わかってるよ。あたしは最後にカードを二枚準備して、ターンをチェンジ!」
天水晴那 AP1555 VS 福山美祿 AP2200




